第3話 ~失敗だけどこれが本当のチート無双とも言える~


「あれが『ウォーロックの砦』か」


『ミゼットガルド』の北西約300メートルにある森の中、そこに木材で建築された広大な砦が見える。


「そうだ。『ミゼットガルド』を脅かす魔王軍の最前線だ。さあ、行くぞかなめ、我らと共に戦い抜くのだっ」


 膝を付いて座っている俺の横で、剣の切っ先を『ウォーロックの砦』に向けるカルロッテ。

 そんなカルロッテに俺は言ってやる。


「いや、邪魔だからお前とその後ろの騎士団も来なくていい」


「邪魔とかっ!? な、なぜそんなことを言うのだっ。共闘したほうが勝率が上がるのは当然だろうに――ッ!」


「そんな僅かな勝率アップはどうでもいいんだよ。俺はこの世界では圧倒的な力を持つ巨人だぞ。すぐに終わりにしてやるって……こんなふうに」


 俺はカルロッテの座っている場所のすぐとなりをこぶしで叩く。

 すると地面が揺れて、カルロッテがひっくり返った。

 再び御開帳するピンクのパンツ。


「お、驚かすなっ! ……それでっ? 今のがなんだというのだ?」


「見てりゃ分かる。さてと……」


 俺は立ちあがると屈伸を始める。

 そしてクラウチングスタートの姿勢へと入ると、「よーい、どんっ」で地面を蹴った。

 

 50メートル先の『ウォーロックの砦』がグングンと近づいてくる。

 俺はタイミングを見計らうと「『勇者の三段跳びヒーロー・トリプルジャンプ』」を開始する。


「ホップ」

 

 揺れる草原。四方から動物のき声が聞こえた。


「ステップ」


 ざわめく森。野鳥という野鳥が空へ飛び立つ。


 「ジャンプッ」


 砦の入り口の真ん前に着地した俺は、そのまま勢いを付けて奥へと滑り込む。

 着地したときの振動、そして滑り込んだ際の勢いで、入り口を始めとした周辺の建築物が音を立てて瓦解していく。

 

 予想以上の破壊者っぷりに、心中で歓喜の声を上げる俺。

 そんな俺の指に何かが当たる。

 俺はその、をつまんで持ち上げると観察。

  

 軽装備で全身緑色の、醜い犬のような生き物――。

 多分ゴブリンだろうと推測する俺は、立ち上がって周囲に目を向ける。

 辛うじて建物の体裁を保っている砦からわらわらと出てくる、ゴブリン達。


ギャアアァなんだっ!? ギャギャギャァッなんだあぁっ!?」といった感じで騒いでいるゴブリン達は、俺の姿を見ると一斉に固まった。


「どーも、勇者です。じゃ、アディオスさようなら


 俺はそれだけ言うと、つまんでいた奴を放り投げたのち、砦の中を縦横無人に走り回った。 

 たまに滑り込んだりして。

 たまに大きなジャンプをしたりして。

 たまに逃げ回っているゴブリンを捕まえてぶん投げたりして。

 

 要は砦の中ではしゃいだ。


 ――失敗とは言えば失敗の異世界転移なのだろう。

 でも、巨人というチート能力での無双はなんというか……すっごい快感だった。


 

 ▽▲▽



 老女神フラーファによれば、地球に帰ることは可能らしい。

 どうやら召喚するための転移ゲートを俺の住む部屋につなげて、俺がその転移ゲートをくぐってこちらの世界に来たとのことだった。


 そんな記憶はないと言うと、召喚なので無意識の状態で来たのだろうとのことだった。

 

 それと、2度目からは自分の意志で来るようにとも言われた。 

 もし来なければ、もう一回だけ使える『転移転生の儀』によって別の誰かを召喚することになるが、極力俺に来てほしいとも。


 そなたは、今は亡きあの人の若い頃に似ている。

 ああ、本当にいい男。久々にみなぎってきたぞい。

 禁断の秘術でそなたを小さくして、今すぐ抱きしめてもらいたい――。



 ……おえ。



 俺はかぶりを振って、意識を老女神から眼前の崖へと向ける。


 俺の頭ほどの高さである岩壁。

 でもドワフリア人から見れば、高く屹立きつりつする絶崖ぜつがい

 そこに大人が1人通れるほどの大きな虹色の空間――転移ゲートが形成されていた。

 

 俺は一度大きく深呼吸すると一歩踏み出す。

 すると、脳裏に浮かぶカルロッテの声。


 絶対に帰って来るんだぞ。魔王軍はまだまだいるのだからな。誰もがかなめを勇者として認め称賛した今、かなめは戻ってくる義務があるのだ――。


 カルロッテ、か……。

 若干高姿勢なところが気になるけど、見た目は悪くないよな。


「おい、何考えてんだ俺。あいつは小人だぞ。さ、さあ、水と飯とフカフカのベッドが待ってるぞ」


 そして俺は転移ゲートへと入る。

  

 地球に戻りたい理由ってほかに何かあったかな、と考えながら――。

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