第3話 援軍到着
貴族の娘を捕まえてから二日が経った。
舌を噛み切った少女の容体は安定している。まだ、高熱は続いているが、感染症などの兆候は出ていない。物資に乏しい革命軍ではまともな薬を出してはやれないが、近くの森から集めた薬草で役に立ちそうな物を見繕い、煎じて飲ませている。
クレアはあまり眠ってはいなかったが、ここまで敵の襲撃の気配が無いとすれば、やはり少女が言っていたように、敵の軍勢が迫っている事は無かったかも知れない。だとすれば、目的は何なのだろうか?まさか陽動・・・だが、これあ効果的な陽動とは思えなかった。
「少尉!応援の先遣隊が到着しました」
兵士が飛び込んで来て、そう告げる。クレアは面倒臭そうに応える。
「そうか・・・通せ」
部屋に入って来たのは一人の少尉だ。
「ミッテンマイヤー少尉です」
「クレア少尉です」
敬礼を交わした。相手は同じぐらいの年頃の青年将校だ。
「クレア少尉、お会いしたかったです」
突然、彼はそう告げた。
「ふん・・・私にですか?」
クレアは鼻で笑って答える。この手の者は珍しくない。クレアはそれぐらいに一部の人間には人気があり、有名である。革命軍には女性も多く参加しているが、士官となると、かなり珍しい。クレアはその中でも若く、美しい。そして、誰よりも勇敢に戦う。それが人々の興味を惹いているようだ。彼女自身は特にそれを意識した事が無く、ただ、常に運の悪い事に直面しているだけに過ぎないのだが。
「はい。ローレンワーグの戦いでの活躍は何度、聞いても飽きません」
「あぁ・・・アレね」
ローテンワーグ。それは革命軍の一部が敵の貴族の攻撃にビビって逃げ出しただけのくだらない戦いだった。その穴埋めをしたのがクレアの部隊だった。そこで前線が崩れたら、革命軍全体が大きな損害を受けたかもしれない戦いだった。後方の予備兵力として、待機していたクレアは逃げ出した味方をいち早く察知して、そこへと急行して、攻め入る敵を薙ぎ倒し、貴族を討ち取った。
文字に起こせばその程度の事だ。だが、この戦いで、彼女が率いた小隊は全滅。最後に貴族の胸元を銃剣で貫いたのは彼女だった。偶然にもその様子が応援に駆け付けた革命軍の部隊に従軍していた新聞記者に撮影された事で、彼女は一躍有名になった。
「たいした話じゃないわ。前線の穴を埋めたに過ぎないわ。それにあの戦いで私も多くの部下を失った事を考えると、決して優秀とは言えないわね」
「だけど、それが、革命軍を守ったことじゃないですか!皆、言っています。少尉は過小評価されていると。すぐにでも昇進して、大部隊を指揮されても良いと」
ミッテンマイヤーは興奮気味に言う。その目からクレアは目を逸らす。
「冗談じゃないわ。私は今の身分で充分よ。大部隊なんて指揮したら、三日で精神が病むわ」
クレアの言葉にミッテンマイヤーはしまったと言った感じに言葉を詰まらせる。
「解ったなら、早く援軍を寄越して、私達を後方に移して貰いたいわ。後方だったとは言え、かなり長い事、前線に居たから部下には休養をあげたいの」
「了解であります。本隊はあと半日程度で到着する予定でありますので」
「そう」
ミッテンマイヤーはすぐに本隊が到着した時に必要な準備を始めた。小隊規模を運営するなら、今のままでも良いが、さすがに大隊規模となれば、手狭な上に長距離の通信施設なども用意しないといけない。その為の下準備は大切だった。
クレアは彼等の仕事を見る事無く、教会の地下へと向かう。
「その子の容体は?」
貴族の娘を看ていたレオーネに尋ねる。
「熱も下がりつつあります。多分、峠は越えたかと」
少女は落ち着いていた。
「意識は?」
「まだ、目を覚ましておりません」
クレアは眠る少女を見下ろす。
「応援の部隊が到着する」
「貴族の娘を引き渡すのですね?」
レオーネが当然のように言う。だが、クレアは少し思案していた。
「こいつを渡しても、玩具にするか・・・殺してしまうかだろう」
舌を噛み切り、まともに話しも出来ないような少女の使い道など限られていた。貴族と交渉をするなどという事は互いに無い。捕虜は情報を得るか、強制労働させるか、殺すかしかない。無駄に生かしておく理由などどこにも無い。
「それは・・・仕方が無い事かと・・・」
レオーネもそんな事は解っていた。まだ、15歳になるかならないぐらいの少女であっても女には違いない。ましてや、容姿は端麗だ。貴族の娘となれば、喜ぶ男達は多いだろう。同じ女として吐き気が出る感じだ。
「悪いが・・・貴族云々よりも女として、それは屈辱的な気がしてならぬ。この子の身柄は私が預かる。あくまでも保護した庶民の子って事にするのよ」
「本気ですか?」
クレアの指示にレオーネが驚く。確かにこの子が男達の慰みものになるのは心が痛むが、それ以上に貴族である。魔法を使えるのだ。危険極まりない判断だった。
「魔法を使われたら、どうするんですか?」
レオーネの強い抗弁にクレアは微かに笑う。
「魔法・・・ね。魔法の多くは言葉によって増幅させていると考えられる。言葉以外なら文字や図形、または儀式かある種の物質などを媒介させる。ただ、どの方法を用いる場合でも彼等は言葉によって、増幅した魔法で無ければ、それらに媒介させる事が出来ないと推測されるのが私の見解よ」
「そ。それは・・・あくまでも少尉の見解でありますよね?」
「そうよ。だけど、この子、舌を噛み切って、多分、これから先、まともに言葉を発するには相当期間の訓練が必要になるはずよ。その状態で魔法が発せられるとは思えないし、私はその間にこの子から魔法に関する研究をしたいと思うの」
「研究?」
「そうよ。我々はある程度、魔法については調べてきたわ。しかし、それは貴族を遠くから観察しただけの結果でしかない。実際に検体としての貴族が手元にあれば、様々な事を調べる事が出来る。慰みものにして捨てるには惜しいわ」
「この子を調べるという事ですか?」
「別に・・・解剖するわけじゃないわよ」
クレアの言葉にレオーネの額に冷や汗が流れる。
「そうですか・・・解りました」
「まぁ、身元が解りそうなものは処分しちゃいなさい。この服とかはダメね。如何にも貴族のお嬢様って感じのドレスじゃない。その辺の住民から服を貰って来て」
「了解です」
レオーネは即座に走り出した。
どれだけ時間が経っただろうか。自分は死んだのだろうか。虚ろな意識の中で、目を覚ました。最初に見えたのは石造りの天井。
「目を覚ましたわね」
女の声が聞こえた。焦点がはっきりしない。突然、瞼を強引に開かれ、視界が広がる。
「ふん。瞳孔は良いわね。おはよう。シエラ」
シエラ?なんのことだか解らない。何か言おうとした瞬間、口の中に激痛が走る。とても何かを話せる状態じゃない。
「縫合はしてあるけど、舌を噛み切った傷はすぐには治らないわよ?」
女は笑いながら答える。こちらは激痛で意識を失いそうなぐらいなのにと思うが、声など到底、出せる状況じゃない。
「さて・・・予め言っておくけど、あなたは貴族のお嬢様じゃないわ。どこぞの村の娘ね。戦争で怖い体験をしたから、声が出なくなった。そんな感じで良いかしら?その辺をしっかりと覚えておいてちょうだい。ちなみにシエラは私が昔飼っていた猫の名前だから」
猫?この女は何を言っているのだろうか?意味が解らない。
「彼女が保護された少女ですか?」
突然、男の声が聞こえる。革命軍の将校だ。声の出せない状態では魔法など出せない。ただ、怯えるしか無かった。
「お、怯えているのか?」
彼は心配そうに少女を見ている。
「そうよ。戦争で怖い思いをしたのよ。軍服の男が来たら怯えるに決まっているわ。とっとと出て行きなさい」
「そ、そうか。それはすまない。あぁ、少尉、本隊が到着しました」
「解ったわ。今、行く。レオーネ上等兵。彼女の面倒を看ていてちょうだい」
「はっ」
女は将校と共に出ていく。そして、もう一人の女兵士が残った。
「本当に話せないみたいだな。ふん。万が一、魔法を発動させようとした場合はこいつで殺せと言われていたが、使わなくて済んだよ」
女兵士は手に回転式拳銃を持っている。
声は出ない。口の中は激痛。怖い。涙が溢れ出るしか無かった。それを見たレオーネはさっきの威勢は何処かに消え、オロオロとしている。
「おいおい、泣くなよ。くそっ、解ったよ。魔法が使えないのが解れば、こいつは無用だ」
彼女は拳銃を机の上に置いた。
「まぁ、さっき少尉が話した通りだ。お前は平民の娘って事で少尉が身柄を預かる事にした。助かったな。普通なら、慰みものか公開処刑だ。そうで無くても拷問には掛けられただろう」
レオーネの言葉に怯える少女。それを見て、またレオーネはオロオロした。
「くそっ、調子が合わない。とにかく、うちの少尉はお前を助けるつもりだ。感謝しろ。いいな?」
レオーネの言葉を理解しつつも、自分がどうなるか、まったく解らないままの少女だった。
村にはそれまで以上の多くの兵隊が到着しつつあった。彼等はテキパキと村の中や外に宿営地を作っている。教会にも大隊司令部が設けられるために作業が始まっていた。
「少尉、御苦労だった」
大隊長のシュールベ中佐は笑顔でクレアの前に立つ。
「ありがとうございます」
「しかし・・・貴族があれからここに攻撃を仕掛けて来ないとはな」
シュールベは考え込むように呟く。
「僭越ながら、本官もそう思っていました」
クレアはそう答えると、シュールベは満足そうに頷く。
「まぁ・・・何にしても、ここに敵が浸出した場合の損害は大きいからな。我々としてはここを拠点化するのも止む無しと判断が下ったわけだが・・・」
「拠点化でありますか?」
クレアは不思議そうに尋ねた。確かにここは補給路を守る為には重要な場所にはなるが、簡単に言えば、その程度の価値しかない。補給路からすれば、ただの通り道でしか無く、ここに拠点を設ける程の価値など無いのだ。
「あぁ・・・貴族の攻撃があったとすれば、敵軍から何かしらの侵攻が可能な場所では無いかと言う事でな」
「なるほど・・・解ります」
クレアは適当に応えつつ、とにかく、自らは後方へと移動する事で頭がいっぱいだった。
「それで、中佐殿。私の部隊もかなり損害と疲労が限界に達しております。一度、後方へと移動して、補充と休養を取らせたいのですが」
それを尋ねられた中佐は思い出したような顔をした。
「あぁ、そうだったな。すまんな。これが移動の命令書だ。小隊規模でも貴族の部隊を撃退したんだ。ひょっとすると昇進かもしれないな」
「また、ご冗談を・・・貴族を倒したわけじゃありませんし、相手は似たような兵力の部隊でしたので・・・」
クレアは薄らと笑みを浮かべて返すだけだった。
翌日、クレアの部隊はこの地方における革命軍の最大拠点、ユリナース市に向かって行軍を始めた。クレアは荷馬車に貴族の娘であるシエラと共に乗り込み、その場所の御者をレオーネに務めさせた。
「先に負傷者を後送させて正解だったな。これなら思ったよりも早く、ユリナースに到着が出来そうだ」
負傷者などが居ないために行軍速度は速かった。
「さて・・・シエラ。まずは確認したいのだけど・・・」
まだ、口の中に痛みがあるらしく、シエラは頬を膨らませながら不安そうな視線でクレアを見た。
「まぁ、貴族がどうとかって事より、死にたく無かったら、私の言う事を聞いてなさい。決して悪いようにはしないわ」
クレアが笑いながら言うので、シエラは呆気に取られる。一体、どうしたら良いかと戸惑うシエラの姿を見て、クレアは思い付く。そして、自分の荷物からメモ帳とペンを取り出した。
「喋られないのも不便よね。これで言いたいことを書きなさい」
渡されたメモ帳にシエラは戸惑いながらも揺れる馬車の上で何とか一言書いた。
「やっぱり貴族の子よね。ちゃんと文字も書けるか」
この時代、平民の識字率は三割を切っていた。これは領主である貴族が平民を扱い易くするためでもあった。だが、逆に貴族の子弟となれば、しっかりと教育が施される。
ー私をどうするつもり?-
彼女が書いた一言にクレアはニヤリと笑みを零す。
「簡単よ。あなたを匿う代わりに私の研究に付き合って貰うわ」
ー研究?-
不安そうなシエラ。
「そうよ。なに。難しい事じゃないわ。私は魔法がどのようにして発生するかのメカニズムを知りたいだけ。これまで膨大な研究から、ある程度の推測がなされてきたけど、貴族本人を観察したわけじゃないから、皆、不確かなものばかりなのよね。その実証実験とかをあなたを使ってやりたいわけ」
シエラは真っ青になった。今にも死にそうな表情だ。その表情を見て、クレアは大笑いをする。
「何も取って食べようとってわけじゃないわよ。安心しなさい。多分、痛い事とかはしないから」
ーたぶん?ー
やはり不安そうなシエラ。
「まぁ、とにかく、それなりには厚遇してあげるわよ。どうせ、このまま、逃げ出そうとしたら、嬲り殺されるだけなんだから・・・」
ーなぶり・・・ー
シエラは黙ってしまった。彼女に選択肢など無い。本来なら、とうの昔に殺されていてもおかしくは無い。平民の殆どは貴族になにかしらの恨みを持っている。数百年の積もり積もった恨みは簡単に晴らせるものでは無い。ここに貴族の娘が居ると知れば、皆がいきり立つだろう。それを止める術はクレアにだって無い。
ーわかりましたー
彼女は全てを受け入れる覚悟が出来たようだ。クレアはその文字を見て、ニヤリと笑う。
部隊は無事にユリナーシス市へと到着した。そこは石畳の敷かれた綺麗な街並みだった。街を見下ろす丘には貴族の屋敷があったが、現在は革命軍が接収して、この地方の司令部となっている。
「ふん、久しぶりに来たが、街は賑わっているようだな」
広場には市場が立ち、商店なども賑わっていた。革命軍の一行が通りを進むと、市民達が皆、笑顔で迎えてくれる。貴族からの圧政から解き放たれて、皆、革命軍に感謝しているんだ。
「まぁ、無事にやっているならそれに越したことは無い。このまま、街の外れにある駐屯地に向かえ。その途中で私は司令部に立ち寄るから置いていってくれ」
クレアは部下にそう指示を出す。
「あとシエラを頼むぞ」
レオーネに少女の事を頼み、途中で彼女は馬車を降りた。司令部となる屋敷へは丘を上がらねばならない。距離にして500メートルの坂道を彼女は歩き始める。さすがに連戦の疲れが溜まっているのか、この坂道を上がるのも足が痛くなる思いだった。
後ろから蹄の音がする。クレアは脇に寄った。すると馬はクレアの隣で止まった。
「女性だったとは」
そう声を掛けて来たのは一人の青年将校だ。年齢で言えば、クレアと同じぐらいだろうか。颯爽とした感じの好青年って感じだった。普通に街に居れば、若い女子が集まって来るようなハンサムだ。階級も同じ少尉なので、気兼ねする必要は無かった。
「女性で悪かったですね」
「いえ、前線から帰られたばかりですか?軍服がかなりボロボロでしたので」
心配そうにする彼の顔を見て、クレアは反吐が出そうだった。実はこの手の男性はクレアが最も毛嫌いするタイプであった。
「昨日まで最前線に居りまして・・・。そちらは身なりが良い所を見ると、司令部付ですかね?」
クレアは嫌味っぽく尋ねる。
「これは失礼。私は司令部付参謀のフレデリックであります」
そんな嫌味をこれっぽちも感じていないように彼は名乗った。名乗られれば、名乗らざる得ない。クレアも背筋を伸ばし、敬礼をして、名乗る。
「クレアよ」
クレアが名乗ると、フレデリックは驚いた顔をする。
「あのクレア少尉でしか?」
フレデリックに尋ねられて、クレアは嫌そうな顔をする。
「あのは余計よ。多分、そのクレア少尉よ」
「し、失礼しました」
フレデリックは背筋を伸ばす。
「まぁ、どう呼ばれているかは聞かないけど、噂はあくまでも噂だから」
「い、いえ、あの、その、前線で勇猛果敢に戦い、貴族を5人、血祭りに上げた指揮官として、広く名が知れ渡っております」
クレアはますます嫌そうな顔をする。
「えぇ・・・そうね。お蔭で、部下の顔を覚える前に次々、死んでいったけどね」
「そ、それは・・・」
フレデリックは掛ける言葉を失って、しどろもどろになる。
「良いわ。慣れているから。それより、その馬で司令部まで連れて行ってくれるかしら、こっちは前線勤務と長旅で疲れているのよ」
「は、はい!」
クレアは馬に跨り、フレデリックが下で馬の手綱を手にして、付き添って歩く。司令部までの10分程度の道のりを他愛もない会話をしながら時間を潰した。
司令部に到着すると、すぐに司令官との面会が許可された。通常は司令部に命令書を確認して貰えば、終わるぐらいの事なので、珍しい事でもある。
「クレア少尉、どうぞ、お通りください」
警備兵がクレアを司令官執務室へと通す。扉を開き、中に入ると、元々貴族の執務室だっただけに広く、片方の壁には一面が本棚になっていた。
「クレア少尉、御苦労様」
執務机の椅子に座っていた男が立ち上がる。彼はこの司令部の最高責任者であるラック大佐だ。元々、貴族の下で軍人として長年勤めたベテランでもある。
「はっ、ありがとうございます」
クレアは緊張した面持ちで脱帽した頭を下げる。
「君の事は話には伺っていたが、何せ、独立部隊だから、近くに居てもなかなか会う機会が無くてね。折角のチャンスだと思って、呼ばせて貰ったよ」
ラックは笑いながらクレアに歩み寄る。
「どうぞ、お掛けなさい」
彼は部屋に置かれている応接セットのソファにクレアを座らせた。彼は席を挟んだ前の席に座る。
「君の武勲は非常に興味がある。特に貴族を殺す戦術だ」
「戦術と呼べるような・・・運が良かっただけです」
「運か・・・君は運だけで生きるか死ぬかの戦場を戦い抜いているのかね?」
ラックは軽く笑いながら尋ねる。
「えぇ・・・残念ながら、戦場は自分の考えが及ぶ余地は少なく、圧倒的に運に左右される事が多いかと」
クレアの言葉にラックは少し考えるような素振りをする。
「なるほど・・・私も長年、軍人をやって来た身だが、確かにそう思うね」
「そういう事であります」
クレアはニコリと笑って応じる。
「しかし、それでも小隊規模で貴族を5人も殺し続けるなんて、奇跡に近いよ。我々としては君のような人材により大きな規模の部隊を動かし、もっと効果的に貴族を倒して欲しいのだがね」
「冗談を・・・元々、軍人ではありません。ただの学生。小隊規模以上となれば、自分の目が届かない部隊をどう扱って良いか解りません」
「なるほど・・・それも道理か・・・ちゃんとした将校としての教育を受ければ・・・どうかな?」
「ははは。戦争が終われば、私は医学の道へと戻ります。今更、ちゃんとした将校になろうと言う気はありません。もし、将校が足りているのでしたら、私を軍医見習いや看護師に配置転換をしてください」
「君のような英雄を後方勤務にしたら、士気が下がるよ」
ラックは困惑気味に答える。
「では・・・うちの小隊は休息に入っております。部隊の定数も割っておりますので、補充をお願いしたいのですが」
「解った。予備部隊からそちらに回すようにする。さすが・・・」
ラックは何を言い掛けて、止める。
「えぇ・・・まだまだ、戦場に流れる血は増えますよ」
クレアはその何かを解っているように答えて、席を立った。
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