第18話 宇喜多と小早川の参陣


 この間に、三成は最も重要な鍵を握る人物、宇喜多秀家と小早川秀秋と面談した。二人とも、豊臣家とゆかりも深く、何としても多くの軍勢の規模を持つ二人を味方の陣営に誘うことだった。


 家康と戦うにはどうしても必要な不可欠な武将であった。そして、豊臣恩顧の諸大名を陣営に誘うにも、どうしてもいなくてはならない存在であった。


 宇喜多秀家は天正元年(1572)宇喜多直家の嫡男として、備前石山城(後の岡山城)に生まれた。父直家は「戦国の七梟雄」の一人にあげられるほどの典型的な戦国武将であり、斉藤道三に負けないほどの策略家であった。


 宇喜多家は備前南部の土豪の家柄であり、直家の祖父能家のとき,備前守護代浦上氏の重臣として活躍したが、父興家が愚鈍なため同僚島村氏に攻め滅されて、一介の武士になりさがっていた。直家は実母の仲介で、主家浦上氏に出仕し、才覚を発揮して、備前乙子城主を皮切りに次々と備前・美作両国の諸城を掌中に収め、ついに主家浦上氏を倒して戦国大名にのし上がっていった。


 そんな父の最盛期に秀家(八郎)は生まれたが、直家は八郎が八歳の時、岡山城内で病没した。叔父浮田忠家が宇喜多家を後ろ盾していくことになる。忠家は羽柴秀吉の介添いで安土城に参上して、織田信長に拝謁し、継嗣八郎の跡目相続を言上して、父の遺領を安堵する旨の許しを得た。その後、羽柴秀吉が毛利征伐で西上する際、秀吉は八郎の後見役となり、一万の軍勢を加勢して、備中高松城攻めに参加する。信長が本能寺の変で亡くなると、秀吉は毛利と和睦するとともに、宇喜多家に備中・美作両国を与えた。


 天正13年八郎は元服して秀家と名乗り、秀吉の猶子となった。秀家の出世は華々しく、15歳で従三位、左近衛中将、参議に叙せられた。17年には秀吉は前田利家の三女豪姫を養女として秀家に嫁がせた。その後、権中納言に昇進し、豊臣政権の五大老の一人として秀吉を支えたのである。


「中納言様、秀頼様の将来を案ずればこそ、内府を倒さねばなりませぬ。その時は今しかござらぬ。是非とも豊臣のために、ご尽力願いたい。ただ、この一念でござる」

「治部殿の言い分もっともである。今の内府のやり方には納得がいかぬ。秀頼公の将来を安堵するには、亡きものにいたすが妥当だと思う。共に戦おうではないか」

「はっ、ありがたきお言葉。頼もしい限りでございます」


 一方、小早川秀秋は、もともと秀吉の正妻お祢の甥にあたる。そんな所から秀吉の庇護を受けて、出世の道を歩む。


 しかし、成長するともに、暗愚、驕慢な性格を露呈するようになり、秀吉の後継としては及ばないことから、西国の実力者である毛利輝元を養子として送り込み、政権の土台を固めるべく策したが、輝元の叔父小早川隆景が、主家に養子を入れるを好まず、むしろ自分の養子として迎え入れるべく申しいれ、隆景自身は隠居し、52万石を秀秋に譲る形となった。位も権中納言左衛門督となり、朝鮮征伐の折には総大将として朝鮮に渡海した。この時自らも槍を振るったが、それが秀吉の怒りとなる。この朝鮮での出来事を総大将としてあるまじき行為として、報告したのが三成であった。ゆえに、秀秋は三成に好感はもたず、むしろ恨むべき存在であった。


 秀吉が没した後、国替えの話は沙汰止みとなった。動いたのは、実力者家康である。気持としては、豊臣一族でありながら、徳川派に傾いていた。だが、今度の戦は、毛利輝元が秀頼公の後見として総大将になるうえは、徳川に諸手をあげて協力するわけにはいかなかった。それよりも、三成は会うなり

「勝利の暁には、関白に推挙し申そう、秀頼公の右腕となっていただきたい」

とまで言われれば、反豊臣になるわけにもいかず、三成に加担することになった。しかし、心のどこかに家康への思いはあり、家康への密使は出していた。


 北政所が信頼する世継ぎ人は、秀吉の血を継ぐ秀頼ではなかった。むしろ、家康が天下をとった方が政事が安定した世になっていくように思っていた。

 秀秋が今後どうすればと相談した際には、北政所は内府を頼るべしとも言っていた。故に家康に与すると心の中にあったが、なぜか三成方に加担してしまうことになった。


 秀秋は結局最後の最後まで迷いに迷ったのである。


 それでもどうにか、二人が持つ有力な大軍は、三成の陣営に入ったのである。合戦の行方はこの二人の武将の活躍にかかることは明白であった。それは、結果として合戦のとき現れたのであった。

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