第3話 三成と豊臣恩顧の武将らの対立

 太閤殿下の死は朝鮮の遠征軍のこともあり、しばらくは極秘にするとしたにもかかわらず、なぜ三成は正直に家康に伝えたのか。彼の考える策があったのであろう。家康がどう動くが興味があったのであろうし、家康の歓心を買うという意味もあったろう。また、同じ奉行の浅野長政と家康と普段からの関係もあり、長政に先回りして行動して、長政と家康の仲を離間することも考えたのであろう。


 とにかく、豊臣の政治機関の機能は今後どうなるのか、誰にも及ばなかったが、一人三成だけが、将来のことを考えると色々な思いが脳裏に現れたであろう。


 しかし、その反面、違う指示もしていた。

 

 秀吉が息を引き取る間際、石田三成は家臣三木主善に指示を出した。三木は甲賀者を束ねる頭領の地位にあった。


(家康をこのままにしておいては、豊臣の為にならぬ。葬れ)


 甲賀組組頭三太夫は数人を引き連れて、家康の所在を追った。そして、19日未明、伏見の家康邸に潜伏した三太夫らは暗殺を試みるが、服部半蔵配下の伊賀者に邪魔され、家康は傷を負ったものの命に別状はなかった。しかし、傷を追ったのは影武者であり、家康が登城するのを見た三成は、驚きのあまり色を失った。


「治部殿、いかがなされた。顔色がわるいようだが」

「いや、故太閤様の整理することが事の他多く、夜更けまで続きました故」

「ほう、それは体をいたわれよ。先はまだ長いことよ」

「はっ、いたみいりまする」


(やはり影武者がいたというのは事実だったようだ)


三成は家康には複数の影武者が存在するという噂は耳にしていたが、この時その実感をひしひしと感じていた。

 三成は家康の存在が大きく感じるを認めざるを得ないかもしれないと思うようになっていた。


 石田三成が何故豊臣恩顧の大名等と確執に及んだかは、朝鮮出兵が原因ともいえる。三成も秀吉子飼いの武将の一人といっていい。近江の観音寺で修行していた三成は、鷹狩をしている途中で茶を所望するために寺に飛び込んだ。そこで出会ったのが三成であり、弱冠十五歳の小僧であった。その応対の気配りのよさで、三成は秀吉の小姓となり、その後才覚を発揮し、秀吉側近の一人として、出生活躍の道を歩んでいく。


 加藤清正や福島正則のような豊臣恩顧の大名でも、戦場を疾駆しっくして戦功をたてて出生した武将もいれば、三成のように後方支援や内政面での功績で出生の道を歩む武将もいた。


 これが後々に対立を生むことになる。


 文禄元年(1592)4月、秀吉は九州名護屋に本陣を置き、30万以上の軍勢を集めて、朝鮮及び明国への征討する触れを出した。


 日本軍は圧倒的な兵力と装備で、朝鮮軍を撃破し、瞬く間に首都京城は陥落した。平壌も陥落させ、北京入城も間近と秀吉は有頂天になったが、援軍の明軍の来援と朝鮮民衆の義勇兵の活躍や、朝鮮水軍の日本水軍に対する攻撃で、日本軍の補給が続かなくなり、苦戦が続き、徐々に守備戦が縮まっていった。明軍に撃退され後退した日本軍は、最後には明軍を撃破した。これにより、明軍は講和交渉に希をいだき、戦意も衰え、補給もままならない日本軍は講和交渉を受託した。

 しかし、豊臣秀吉の講和条件は過酷なものであり、結局講和は決裂し、激怒した秀吉は再征の令を発した。日本の遠征軍も今回は士気も鈍く、朝鮮での抵抗も前回より烈しいものであった。士気が鈍っていたのは、各大名への恩賞が全くなかったからでもある。


 その矛先が石田三成に対する憎悪となって鬱積うっせきする。秀吉公への報告を怠っているに他ならないと感じていた。当然、朝鮮を占領したわけではないので、領地加増があるわけではなく、戦費がかさんでの台所事情は憎悪を噴出させずにはいられなかった。


 そんな中、秀吉は他界したのである。戦争遂行中なので、秀吉の喪は隠したままにしておかなけらばならない。五大老にとっては、秀吉が死んだあと、いかにして朝鮮へ出兵している全軍を無事に撤退させるかが課題であった。より速やかに全軍を撤退させる必要があった。

 

 三成派対家康派の抗争は、全軍撤退後、徐々にその幕を開けることになる。

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