第5話 

「いってえな顔にもみじできるじゃねえか」


と言っているハクの頬には大きなジェシカの手のサイズのモミジができあがっている。


「ハクがおかしなこというからでしょ。それともハクはお姉ちゃんに欲情しちゃうシスコンなのかな?」


「傍からみたら姉ちゃんがいたいけな子供を誘惑しようとしてるショタコンにしか見えないんだけどな」


これが効いたのかジェシカはぶつぶつと怨念のようになにかを呟きながら比較的静かになった。子供の特権というやつはこういうときに使えばいいのかと勉強になった。


「今日は帰るかな...」


「おいあんたら...」


声をかけてきたのは、さっきからそこでうずくまっていた男。ようやっと立てるようになったらしい。


「そこの小さいの余計なことをしてくれたな」


いやあんた歯向かってるよね。歯向かったから殴られたんだよね。それって同じじゃないかな。とか、いろいろ言いたいことはあったが、火に油を注ぐようなことはすまいと黙っておく。


「あいつらは高利ギルドのハイエナロック」


なんともださい名前。しかもハイエナというのがいかにも小物感丸出しで思わず吹き出しそうになる。


「あいつらは一人が失敗するとギルド総動員でその報復にやってくる」


ハイエナというか蜂みたいだ。ということは、今頃さっき去っていった男がギルドに帰ってギルドのボスかなんかに報告して、この街に総動員で仕返しにやってくる。


「終わりだー!この街は終わりだー!」


まるで終末論を語って人に取り入ろうとする宗教者みたいだ。


「姉ちゃんこういってるけどどうおも...」


「あー終わったーこの街は終わりだー」


いやお前もかい。しかも棒読みだし、合わせているとしか思えなかった。


「はいはいわかったから帰るぞ」


と、杖をつくほうとは反対の手でジェシカを引っ張って家まで歩いて帰った。

その後男がどうなったかは知らない。


家に帰るなりジェシカは家にある本棚をかき回してなにかを探しているようだった。探すために本棚からこぼれた本が、ニ・三冊バサリバサリと床に転がっていく様を黙って見ている。


「あーもうどこにやったんだっけあの本」


なにか本を探しているようだが、この調子でいくと探すまでには家が本まみれで探すどことじゃすまなくなりそうなので、ハクも静かにその本とやらを探す。どんなものを探しているかわからないが、興味ありそうな本を手にとって読んでいればなんとなくわかるのだろうとよくわからない理論のもとで本を探し始める。

探していくうちにわかったことだが、本棚にあるのは魔法関連の本ばかりと、少々の料理本と世界の国の特徴などを記したバイブルなど様々だった。

そこで魔法基礎と書かれた本を一冊手に取る。


---魔法とは心を世界に映す鏡である。才あるものは使え、才なきものは魔法使いにあらず。


と、ちょっと小難しい触りから入る文章が、明らかに日本語ではない文字で書かれていたが、なぜか読むことができた。

要約すれば、魔法は使えるものと使えないものがいて、魔法は使うものの心次第で変化する。といったことが書かれている。


「姉ちゃんこの本か?」


「あーそれ!」


なんとビンゴだった。


「やっぱり私たち実の姉弟なんじゃないかな~」


「アホ言ってんな」


「だってなにも言ってないのにわかってたみたいにって以心伝心って感じじゃない」


「それで?これを探してた理由は?」


このままいくと話が進みそうにないので強引に進めた。


「これね魔法の本なんだけど、たぶんハクは魔法の才能があるほうだと思うの」


「この状況でそれを俺に言うってことは、俺に戦えと」


「撒いちゃった種だし...ね?」


それを言われると言い返しのしようもない。

確かに、見ず知らずのハクを引き取ってくれた街に迷惑をかけるのも、忍びなくはあるので、ここはハクがやることで恩を返すこともできるだろう。


「その本読んだら使えるようになんの?」


「大丈夫...なのかな。私は適正なかったしちょっとわかんないな」


そんな本を勧めるな。


「ミスっても死ぬわけじゃないから試しに簡単なの使ってみようよ」


と、パラパラとページをめくって最初のほうの初級と書かれた部分を指さす。

どれどれと眺めていると、火球--フレイムボールと書かれたものを見つけた。

魔法といえばというところもあるが、某ゲームの配管工のあれをイメージすればそこそこできそうな気がした。


「魔法はイメージして唱えるだけ...か」


難しい詠唱とかがいらないなら覚える必要はない。これなら簡単にできそうだった。

イメージは手のひらに野球ボール大の炎で作られた球を作る。

手のひらに意識を集中すると、目に見えて力がそこに集まってきた。


「フレイムボール」


いきなり手のひらの上で発火して、赤く煌きを放つ炎の玉が完成した。


「こんな簡単にできるものなのかな?」


確かにこれでは簡単すぎるし、この程度なら別に適正がなくてもできそうなものだが。

と、それを疑問に思って最初のページに戻ると魔法についての追記があった。


--- 魔法は魔力によって発現する。魔に好かれぬものには扱えぬ。


つまり使えない人は生来魔法に嫌われてるか、魔法が受け付けないのだろう。

どっちにしてもこのガサツさからして、ジェシカに魔法は無理な気がした。

ともかく初歩はできた。あとは、敵を攻撃するための魔法を覚えれば、誰がきても対抗できる。

一通り初級の魔法を流し読みしたところで、中級と書かれた章のページをめくる。

中級からは少し分類が分かれて、錬金術、魔導、精霊術、魔法、神宣術と種類が多くなっていた。

初級はほんの基礎だったらしく、ここからは実用的な魔法らしい。

とりあえずものの試しで書いてあったサンダーボルト--雷撃を使ってみる。


「私買い物行ってくるからね~」


なんか声が聞こえたが、気にせずいこう。

イメージとしてはまさしく雷。これも手のひらからの放出をイメージする。


「サンダーボルト!」


と、なぜか家の屋根のほうから雷の落ちた音がした。

ついでに、なぜか悲鳴が聞こえた。聞き覚えのある声で、嫌な予感がしながら飛び出してみると、ジェシカがいまの落雷を直撃で食らっていたらしい。

制御が上手くいっていないらしく、ランダムで落ちるはずの雷がたまたまジェシカに直撃したらしい。


「えっと...これは」


「ふんっ!!」


有無も言わさず今日二回目の張手を食らった。

魔法を使うときには細心の注意が必要だと肝に銘じたのだった。








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