黒ずんだ高瀬舟


 この作品を読み終わった時、脳裏に浮かんできた作品があります。
 森鴎外の名作――高瀬舟。弟殺しにより島流しの刑となった罪人と、その人物を護送する任を受けた役人のやり取りを描いた短編作品。

 実際に読めば分かりますが、話の展開も登場人物の役回りもまるで違います。潮騒の告白は高瀬舟のそれよりも幾分黒ずんでいて、聞き手を呆然とさせるような内容となっています。
 しかし、両作品の読了感はかなり近いです。なんというか――遣る瀬無いというか、それこそ高瀬舟の役人が抱いた「オオトリテエ(権威)に従うしかない」という感情なのでしょうか。
 前半の描写も優れており、「後ろ向き」な話の雰囲気や、主人公に共感を覚えることが出来、告白の部分に無理なく(といってもかなりの衝撃ですが)入ることが出来ました。

 彼のやったことは許されるのか。それを決める権利が誰かにあるのか。
 怖いのみならず、悩ませるあたりが、高瀬舟とよく似ているのです。