第26話 スペインとインカに弄ばれた謎の女性、キスペ・シサ/イネス・ワイラス・ユパンキ

フランシスコ・ピサロがインカ帝国へ侵略してきたときの兵士数はわずか200人ほど。

対するインカ帝国のアタワルパの軍勢は数万だったと伝えられています。


そんな戦況でフランシスコ・ピサロはアタワルパを生け捕りにしてしまいます。

スペイン側が鉄砲を持っていたからだとか、インカ側がスペインの馬に驚いたからだとか様々な推測がなされていますが、本当のところはわかりません。



ともかく捕まったアタワルパは自分の身代金を払う約束します。

そのときに金銀と一緒に差し出されたのが、アタワルパの妹、キスペ・シサです。



当時のインカ帝国周辺では、戦争の敗者は勝者に対して貢物として金銀財宝に加えて若い女性を差し出す慣習があったようです。


キスペ・シサの母親コンタルワチョもインカ帝国が周辺諸国を征服していく際に、『貢物』として差し出された女性だったのです。

彼女たちは『アクリャ(おとめ)』と呼ばれ、物扱いされながらも神聖視されました。



アタワルパの腰抜けぶりには呆れてしまいますが、ともかくキスペ・シサはフランシスコ・コルテスの所有物となりました。


そしてキリスト教徒に改宗させられ、名前も『イネス・ワイラス・ユパンキ』と改名しました。


イネスはフランシスコ・ピサロの子供を一男一女産んだ後、褒美として部下アンプエロに与えられ、3人の子供を産みました。



これだけなら、『悲劇の女性』で済むのですが、フランシスコ・ピサロの愛人となったのち、イネスは精力的に活動します。


ピサロの傀儡皇帝マンコ・インカ・ユパンキが反乱を起こし、ピサロのいるリマを包囲すると、イネスは母親のコンタルワチョと共謀して援軍を集めこれを撃退しました。


また同じインカ帝国の皇女をスペインに対する謀反の疑いで告発しました。


また自分の身柄が褒美としてアンブエロに与えられた後は、夫を財産の横領で訴えたり、毒殺しようとしたりしました。


なんともすさまじい生きざまですが、彼女の晩年はよくわかっていません。



では、イネスの子供たちはどうなったのでしょうか?


彼女がフランシスコ・ピサロとの間に設けた一男一女のうち、男の子のほうは幼くして死にました。


しかし娘のフランシスカ・ピサロは立派に成人し、叔父にあたるエルナンド・ピサロ(フランシスコ・ピサロの嫡出の兄)と結婚してスペインで暮らしました。


叔父と姪で結婚するなんて現代では考えられませんが、どうやら政略結婚だったようです。


それでも5人の子供をもうけ『コンキスタ宮殿』と呼ばれる豪邸に住み、64歳で天寿をまっとうしました。


屋敷にはフランシスカ・エルナンド夫妻と両親のフランシスコ・ピサロ、イネス・ワイラス・ユパンキの胸像が彫り込まれています。



イネスやフランシスカは不幸だったのでしょうか?

それは本人にしかわかりません。

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