第8話 心配しすぎた成の珍しいお言葉。

「結愛!」


 あれ、また遠くの方で声が聞こえる……。


「結愛! ちょっと、本当しっかりしなさいよ!」

「……はっ!」


 あまりの苦しさに飛び起き、肩で息をする。

 私が飛び起きた時、すぐ側で成が真剣な表情をしていた。


「な、成……!」

「ちょっと結愛、大丈夫!?」

「うん、だ、大丈夫……」

「アンタ、このゲームつけたのと同時に倒れていったのよ?」


 成が瞳で示す先には、“LAST TIME”が。


「成、ありがとう……! 成が起こしてくれたから、ピンチから一旦脱出できたよ……」


 部屋の時計に目をやってみると、まだ時刻は日付をまたいではいなかった。

 私を強制送還できる成って凄いと思う。


「何言ってんの、本当に」

「あのね成、私……。“LAST TIME”の世界に入れるみたいなの」

「……」


 成が前髪を上げると、コツンと私のおでこに当ててきた。


「熱は無いみたいだけど……」

「もう! お願い、信じて! このゲーム、おかしいんだってば!」

「結愛……。異世界転生のラノベとか読みすぎてない?」

「本当だもの! 今ね、ジャスっていう猫みたいな生き物……あ、神か! あとヒロっていうその……博之そっくりなのが仲間になって……。魔女と戦ってたの」


 成は私の瞳を逸らさずに、本当に真剣に見つめている。

 私が嘘をついているかどうか、確かめている時の瞳だ。


「ね。アタシは結愛を守るためっていうのもあって一緒に住んでるわけ。そういう手の届かないところでそんなことになってどうすんの」

「成……」


 成が腕を組んだかと思うと、ひらめいたように手を叩く。


「そうだ。その場所に、アタシもどうにか行ける方法、ないわけ?」

「へ!? む、無理じゃない!?」

「何言ってんの。アンタに行けて、どうしてアタシが行けないの。しかも、当たったのはアタシ。本来ならアタシが行っていたかもしれないんでしょ?」


 成のまっすぐな瞳で、冗談を言っていないことくらい分かる。

 だけど、だけどどうやって連れていけば……。


「な、成がこのゲームを起動すると、どうなるんだろう」

「あぁ。そういえば結愛が起動したら、倒れてたわね」


「一体、どうやって……」と成がディスクに触れているのを見て、ダメ元で思いついたひらめきを成に提案した。


「もしかして……成、そのディスクに指を置くところがあるんだけど、そこに成も置いてみてくれる!?」

「ここね。ものは試しだわ」


 成は、私の指の指紋の上に、強く重ねている。それからトレイに入れてスイッチを入れる。

 その瞬間、また私の視界が揺れるのが分かり、成が驚いて私を見ている。


「結愛! アタ……おっ、俺も連れて行け!!」


 そして、衝撃と共に身体に訪れた包容。


「なっる……!?」


 お、俺!!??

 成が俺っていうなんていつぶり!?

 っていうか何年ぶり!?



 驚きつつも、私はそのまま意識が堕ちていった――。

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