第23話 くまさんの基本的食事メニュー

 椅子に座って待つこと暫し、よく嗅ぎなれた仄かに甘い匂いが漂ってくる。


 くんか くんか


 何の匂いだろう? 


 もやっとするぞ~~~。思い出せ私!


 ほれ、これは炊きたてのほかほかご飯の香り。って! そんなバナナ!!


 「くうま~(お待たせしました)」


 マリアさんが、大きなお皿に載せて持って来たものは、でっかいクルミ。見た目、まるっきりでっかいクルミ。それを、机の真ん中に置いて、又何かを持って来るために奥に戻っていった。


 それを、口を開いたまま呆然と見送る。視線を戻せば、机の上に20倍にした大きさのクルミが5個。20倍のサイズのクルミが5個。


 大事なことは2度言うなんて、誰が始めたかしらないけど、思わず繰り返してしまった。


 それだけ、気になる木だったんだよ~~~。って古い? 知らない?


 私は断言します。匂いは、このクルミからしている!


 ご飯の香りのするクルミ。


 まさか、この中には、ご飯が・・・?


 淡い期待に胸が、胸が、高鳴るぅぅ~~~!


 「くまくま くくぅーま(お口に合うか分かりませんがどうぞ)」


 マリアさんが、持って来た小皿を一人に一枚配り、スプーンを一緒に置いていく。そして、よく分からないけど、木の実の炒め物の様なものを、でっかいクルミの隣に置いた。


 「ほほー、美味しそうだな。『クルマイ』と『ドンドンの炒め物』か」


 カムイがそう言って、クルミをかぷっと口にくわえてとる。お行儀が悪いって・・・・・・・、でも、カムイにはそれしか方法がないか。


 私も、慌てて1つを取った。触った時、物凄く熱くて、思わずお手玉のように右に左にと投げていた。


 あつっ  あちちち  あつっ  あちちち


 何とか自分の小皿に載せたけど、食べ方が分からなかったので、マリアさんの方をこっそり見て食べ方を真似することに。


 秘技、「まねまねの術」ってね。


 マリアさんは、器用にスプーンを使って、クルミを半分に割った。すると、一層ご飯の良い香りがこちらにも漂ってくる。


 ここからでは、中がどうなっているのか分からないので、私も真似して半分に割ってみる。


 クルミの皮を、割って食べたことがある人は知っていると思うけど、これがかなり固い。だから、私が昔食べた時は、専用の道具がついていた。


 クルミの皮は筋? 切れ目? のような物があって、そこに道具を使って割るのだが、これが結構力がいる。


 ところが、このクルミはぐにゅんとあっさりスプーンが入って半分に割れる。


 割れると同時に、ほかほかの湯気が、鼻をくすぐる。


 くんか くんか


 美味しそうなご飯の香り。目を積むって香りを楽しみ、そしてゆっくりと期待を込めて中身を見た。


 おおー!! 


 そこには、予想通りの銀シャリだー!!


 ご飯だ! もう食べれないだろうと諦めていたご飯だ! 


 じーーーーん。スプーンを持って涙していると、カムイが気持ち悪いものでも見たような顔で私を見る。けれど、今の私にそんなことは些細なこと。


 スプーンで一匙、ぱく。もぐもぐ ごっくん


 「おっ・美味しい~! 幸せ~」


 ご飯に感動していると、さくらこさんが私の右手をたしたし叩く。


 「ううん? なに?」


 さくらこさんを見ると、恨めしそうに睨まれる。


 「???」


 「みゅみゅ みゅうぅぅ!(自分ばっかり、ずるい!)」


 へっ? そうか、さくらこさんは、カムイと違って小さいから、自分で取ったり出来なかったんだ。どう少なく見ても、さくらこさんの2倍のサイズだから、そりゃそうか。


 そう言えば、目の端の方で、熱いクルミにわやわやして苦戦していたさくらこさんが見えた気がする。一見、遊んでいるように見えて可愛いなって思っていた。


 ご飯に出会えた嬉しさに、ちょっと浮かれて回りが見えなくなっていたかも・・・・・・・・・。


 「ごめんなさい、さくらこさん」


 直ぐに、さくらこさん用にクルマイを取って、スプーンで、くにゅんと割ってさくらこさんの前に置いた。


 ふんっ!!

 

 そっぽを向いて怒り続けるさくらこさん。


 「みゅっ! みゅみゅみゅっ!! (どうせ私のことなんか! 美味しいご飯を前にすれば忘れてしまうぐらいの存在なんだ!! )」


 「そうじゃない! って言っても、全然説得力ないよね・・・・・・」


 しゅん 落ち込んでしまう。 とってもとっても大事なさくらこさんを蔑ろにしてしまうなんて・・・・・・・。


 私の、ばかばか! もしかして、取り返しのつかない事をしてしまった?

 

 このまま、さくらこさんに許してもらえなくて、別離!? って、ないない!!


 恐ろしい事が思い浮かび、思わず地面とお友だちになってめそめそ泣いてしまう。


 「うーん。昼ドラのようだな」


 「くうま? くまくま? (それは、何ですか? )」


 「良くわからんが、女神様がそういって笑っているのが聞こえる」


 ひっ酷い! 女神様。 私、こんなに真剣に困っていて哀しいのに・・・・・・・・・・。


 「 お願いします。許して下さい。もう忘れません。今まで以上に大切にします、さくらこさん」


 


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