自走車

 チラシによるとギリシャの美術品らしいが、模様の雰囲気と言うか感じが似ているように思う。

「そうね。美術展が開かれる時期と同時に、似た模様を残す犯人。無関係とは思えない」

 こじつけっぽいかな、と思ったが空湖は乗り気のようだ。

 確かに美術品を盗むために騒ぎを起こしたと言うのは考えられる話だ。

「行ってみよう!」

「今から? 展示会明日だよ?」

 善は急げよ、と空湖は言うが今からだと帰りは遅くなってしまう。電車で行ける場所じゃないし、バスだと帰りの時間が心配だ。

 と考えている内に空湖は外へ出てしまう。

「お金持ってないでしょ? 僕もお祭りでお金ないよ」

 アパートの裏で空湖は大丈夫、と言いながらガタガタとゴミの山をどかしている。

 積み上げられたゴミの中から出てきたのは……。

「自動車?」

 世界初の自動車のような形をした乗り物だ。

 ただの箱の側面に自転車の車輪。前輪は三輪車の車輪のように小さい。というより本当に三輪だ。補助輪のような物を合わせれば五輪か。

 ハンドルにギアの様なレバー。屋根もない。まるで骨董品だ。

「わたしの作った『コスモ・ビークル号』」

 空湖が得意げに言う。

「動くの?」

「もちろんだよ。乗って」

 恐る恐る椅子に座る。シートというより木の椅子に座っているだけだ。と空湖を見ると後ろで大きなゼンマイの様な物を回している。

 スターターだろうか。ああやってエンジンを掛けるのかな? 免許も無しにいいんだろうかと思うが、これが本当に動くのか気になったので、大人しく待ってみる。

 だけど空湖は後部の大きなゼンマイをギリギリと回し続け、もう十分は経ったろうか。

「もしかして、ホントにゼンマイ仕掛けなんじゃ……」

 そんなの何メートル進むんだよ。と半ば呆れて降りようとすると、

「準備できたよ」

 と言って僕の隣に座る。

 ガコン! とレバーを動かすとすうっと車は動き出した。

 思ったより早い、通りに出てハンドルを回し、道なりに進む。

 ガタガタと揺れる椅子に掴まりながら思ったよりまともに動く事に驚く。

 背中の箱の中では、何か重い物が唸りを上げて回転している様な音がする。単純にゼンマイ仕掛けではなさそうだ。

「動力は? 何で動いてるの?」

「ゼンマイだよ」

 突っ込んでも無駄そうなので椅子にしがみつく事に専念する。

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