宇宙子と刑事

 先生を連れて戻ると数人の生徒が割れた窓から旧校舎の中を、現場を覗いていた。先生が倒れている生徒の様子を見て救急車やら警察やらに連絡を入れ、他の生徒を追っ払う。

 僕達は発見者だからか残るように言われた。


 ひとしきりドタバタした後、職員室の隣にある小部屋に通された。空湖は部屋の前で待っている。一人ずつ話を聞く場を設けるようだ。

 部屋にはさっき呼びに行った担任の先生と、知らない大人が二人いた。言われるままに席に着く。

「彼らを見つけた時の話を聞きたいだけだから、恐がらなくていいよ」

 と優しい口調で言う大人は刑事だろう。僕にとってはそれだけで十分恐い。

 昼間には彼らはまだ生きていた。死亡時刻には僕は何をしていたか、というアリバイを自分の中で整理していると、

「この子は昨日転校してきたばかりでして、三人の事も何も知らないと思いますよ」

 と担任が口を挟む。

「いや、別に事情聴取ではありませんので、そんなに構えなくて結構ですよ」

 刑事は僕の事について、名前や家庭環境やこの町はどうだ的な何気ない会話をしてきた。テレビドラマで刑事物や鑑識物が好きで、よく見ていた僕には拍子抜けしてしまう内容だったけど、容疑者と言うよりは死体を発見してしまった児童のメンタル面を気にしているような聞き取りだっだ。もちろん怪しい部分があったならそこを突っ込まれたんだろうけれど。

 ドラマで見るのと違いますね、と軽い談笑も混じる。

 だけど「彼らは誰かと喧嘩したりしていなかったかな」という質問にギクリとした。

 よく知らないので、と答えたものの自分でも反応を悟られたんだろうな、と思う。

 それじゃもう一人を、と交代を促す彼らに僕は、

「あの……、僕も一緒にいていいでしょうか。……女の子だし」

 刑事達は顔を見合わせ、まあいいんじゃないかと言うと、

「でも話は彼女から聞かなくてはいけないからね。君は頭がよさそうだし、彼女の答えを誘導するような発言は、彼女の為にならないのは分かるね」

 はいと答えると、「じゃあ、呼んできてくれるかな」と言われたので空湖を連れてくる。

 君が最初に見つけたんだよね? 他に誰か人はいた? など僕よりは核心に近い質問だ。空湖は臆する事無く淡々と答える。僕から見ても小学生の対応ではない。

「お前が関係してるんじゃないのか!」

 突然先生が机を叩いて声を上げる。空湖より僕や刑事達が驚いた。

「大体お前は今日休んでるはずだろ。なんで校内にいたんだ」

「でも、水無月さんは僕が行くまでずっと家にいたんですよ。僕と一緒に学校へ来たんです! 水無月さんが最初に発見って言っても僕もすぐ二、三分で」

 喚き立てる先生と、捲くし立てる僕を刑事達が、まあまあという感じで宥める。

「まだ事件か事故かも分からないんです。お話を聞いているだけですよ」

 事故って、あれが? とも思うが、釈然としないまま僕達は帰っていいと部屋を出された。


「あいつが何かやったに決まってますよ! 今までにもどれだけ問題を起こして、今でもどれだけ保護者から苦情が来るか!」

 と先生の怒声が聞こえた後、急に静かになる。刑事に窘められたのだろう。

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