同居



「「「「……えっ?」」」


 雇われた男たちは思わず声を上げた。


「えっ?」


 受付の女もまた。


 ただ、ヘーゼンのみが平然とした表情で笑う。抉るような鋭い瞳で、怯む男たちの心の底までも覗き込む。


「わからないかい? 簡単な取引だよ。その女を縛って、連行、監禁してくれれば、君たちに希望のギルドを斡旋させるよう指示しよう。ついでに調教もしてくれればいいが、それは期待せずにおくよ」


 ニッコリ。


「……っ」


 晴れ晴れとした、綺麗な笑顔で、鬼畜発言をサラッとするキチガイ元魔法使い。


「な、な、なにを……そんなこと、私がする訳ないじゃない!」

「みんな、最初はそう言うんだよ。しかし、爪の3本目を剥ぐあたりから、だいたいの者は従順になる」

「はぐっ……」


 異常。異常異常異常。目の前で歪んだ笑みを浮かべる男は、そうとしか表しようがない。受付の女も、雇われた男たちも、ヘーゼンの人間性に恐怖しか抱かない。


「……わかりました」

「は、はあああぁ!?」


 リーダーらしき大男が、頷いて受付の女の下へと近づいていく。

 突然の裏切り。自分の雇った男に、密かな好意を抱いていた彼女は、この後、飲み会にでも洒落込もうと思っていた。そんな軽はずみな気分など、今はどうやって抱いていたのか想像すらできない。


「ちょっ……正気?」

「……すまんが、あいつ、ヤバイよ。どう考えても普通じゃない。こんな騒動に巻き込まれちゃかなわんので、利だけ貰っておくことにする」

「……っ、い、いや。来ないで」


 速攻で裏切られた受付の女。雇われ男たちが、彼女に一歩ずつ近づいていく。彼女は腰を抜かしながらも、手足をバタつかせながら絶叫する。


「きゃあああああああああ! いやあああああああ! いやああああああ! いやあああああああ! いやああああああっ!」

「おい、うるさいから喉を潰せ」

「……っ」


 非道。容赦のない鬼畜指示に、恐れ慄く受付の女と雇われ男たち。


「抵抗するようだったら、手足の関節も外せよ」

「……っっ」


 圧倒的鬼畜。なんと恐ろしい異常者に喧嘩を売ってしまったのだろうと、後悔する受付の女。泣こうが、抵抗しようが、許されない。その事実をむざむざと思い知った彼女は、地面に顔をつけながら懇願する。


「ご、ごめんなさい! い、いえ。申し訳ありません! 私が悪かったです! どうか、どうかお許しください!」

「……今更、なにを言っている? お前が謝って許されたのは、裏切った彼らが僕の味方をする時までだ。負けが確定した時点で、無かったことにするなんてのは、この世の道理ではあり得ない」

「ひっ、何卒……何卒……」


 受付の女は、何度も何度も地面に顔を擦り付ける。こんな異常な男の奴隷など、人生が終わったようなものだ。奴隷の中でも、最も過酷な奴隷になることは間違いない。懇願しながら、なぜこんなことになってしまったのだろうと、我が身の上を走馬灯のように振り返る。


「大丈夫。これから、四六時中一緒に生活することになるのだから、最低限の許可は出すさ。僕の言うことを聞きさえすれば、奴隷として重宝してやるから頑張れ」

「し、四六時中一緒!?」


 住もうとしている。この異常な男は自分の家に押しかけて、衣・食・住をともにしようとしている。一日中、こんな男と一緒にいるなんて、とてもじゃないが自分の精神がもたない。


「だが、家族がいると面倒だな。一人暮らしだといいが、どうだ?」

「か、家族といます! 一人暮らしじゃないです! 家族と一緒です! だから……」

「断っとくが、僕に嘘はつかない方がいい」

「ひっ……一人暮らし……です」


 もはや、どうすることもできない。怒っても、泣いても、懇願しても、嘘をつくことすら許されない。受付の女は絶望した。今までの生活が、どれだけ素晴らしい日々だったのかを、思い知った。


「さて、大人しくなったところで行こうか」


 かたや、ヘーゼンは爽やかな笑顔を浮かべた。

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