さよならは突然に

 外国人労働者の日本での労働期間は一年ないし三年。

 期間満了で帰国するのがベストなのだが、勿論そういう労働者ばかりではない。



 中国地方で漁業の仕事をしているTさん(20代後半 男性)は、期間満了まで僅か二ヶ月だった。

 Tさんには三歳になる息子がいる。会う度に私に家族の写真を見せては「帰国するのが楽しみ」と話していた。


 そんなある日、Tさんの社長から電話があった。「Tが逃げた」と。


 始業時間になっても作業場に現れないTさんを心配して彼の寮に入ったところ、部屋は既にもぬけの殻だったそうだ。

 そこで慌てた社長が、労働者管理をしている私たちのところに電話をしてきたのだ。


 慌てる社長には申し訳ないのだが、期間満了間際に労働者が失踪するというのはよくある話である。

 理由は、国へ帰りたくないから。

 母国と比べると、日本での賃金や生活のレベルが上に思えるらしい。別の場所でこっそり働き続けるのだ。所謂いわゆる「不法滞在(オーバーステイ)」である。


 労働者が失踪した場合、警察や入管など各機関へ届け出なければならない。

 書類を作成しながら、私は会ったこともないTさんの家族を想っていた。



 それから数ヶ月後、警察から連絡があった。


「Tさん見つかりました。名古屋にいます。身元引き受けはどうしますか?」


 場所は九州、時刻は深夜一時。

 さてどうする。

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