第11話 光の尼僧

 あの日から何日も経過し、僕とミランダは一日に何度も写真を撮った。

 その日もミランダの快進撃は続いていて、彼女はすでに3人のプレイヤーを葬り去っていた。

 プレイヤーのしかばねを前に、嬉々として写るミランダと、写真の隅っこのほうに遠めに写る僕。


 え? 

 何でもっと近くで堂々と写らないのかって?

 おいおい。

 そこまで考え無しじゃないぜ僕も。

 一緒って言ったっていつもミランダとツーショットだと僕が国を裏切って魔女の手下になったと思われちゃうからね。

 仕方なく端っこのほうに写ってるんだよ。

 これでも王国の兵士だからね。

 ハハハハッ! 

 ……ええウソです。

 近くに寄って写真を撮ろうとした僕はミランダに邪険にされました。


「あんたは脇役中の脇役でしょ。端役は隅っこにちょこっと写ってればいいの! 何ずうずうしく私とツーショットで収まろうとしてんのよ。一度だけ二人で撮ったからっていい気にならないでよね! いやらしい! キモい! 変態!」


 そう言ってミランダは僕を写真の隅に追いやった。

 泣いていいですか?


 この扱いのヒドさは何なんだ一体!

 こんな端っこにチョコッと写ってるだけなら、いっそのこともうフレームアウトしてくれていいですよ(泣)。


 そんなことを繰り返しながら平和な日々を、いや悪の魔女たるミランダが次々とプレイヤーたちを虐殺するから決して平和ではないんだけど、まあいつもの日常を過ごしていた。

 僕は先日のミランダによる暗黒魔法『悪魔の囁き』テンプテーションをかけられた時に自分が言わんとしていた最後の言葉をあれから何度も思い返していたけど、答えに思い至ることはないまま時間だけが経過していた。

 まあ、そのうち分かるかな。

 ゆっくり考えればいいか。

 時間はいくらでもあるし。


 僕がそんなことを考えていると、訪問者の来訪を告げる警報が僕のコマンドウインドウに表示される。

 その日、現れた4人目はプレイヤーではなくライバルNPCだった。

 その人物の頭上に浮かぶ三角形のマークは赤色に染まっている。

 通常、プレイヤーマークは緑色であり、赤いそれはライバルNPCを示していた。

 ライバルNPCっていうのは、プレイヤーたちと競ってイベントをクリアーしたりする役目を持っている、いわばプレイヤー達の競争相手だ。

 同じNPCでも僕とは違ってライフゲージを持っていて、戦闘に参加したり時にはプレイヤーとも戦うことが出来る。


 でもこの洞窟にライバルNPCが訪れるなんて珍しいな。

 そんなライバルNPCは女性で神に仕える僧侶だった。

 彼女は白い衣をまとった美しく清廉せいれん尼僧にそうであり、手には白銀色に輝く錫杖しゃくじょうを持っていた。

 ミランダとは正反対の尼僧にそうの清らかな雰囲気に圧倒されながら、僕は自分の仕事を果たす。


「この先には恐ろしい魔女がいるから用心しろ」


 僕がそう言うと尼僧にそうは柔和な笑みを浮かべて僕に一礼した。


「ありがとうございます。あなたに神の御加護を」


 NPCであるこの僕にそんな優しい言葉をかけてくれたのは彼女が初めてだった。

 優しそうな人で、彼女がミランダに虐殺されることを考えると僕は少しだけ気の毒に思ってしまった。

 ただ、尼僧にそうは僕のそんな気持ちにはつゆとも気付かず、きびすを返すとミランダに向かって歩を進める。

 その足取りはりんとしていてミランダに対する恐れは微塵みじんも感じられない。


「悪の魔女ミランダ。あなたを神の御許みもとにお送りいたしましょう」


 毅然きぜんとした口調でそう言うと尼僧にそう錫杖しゃくじょうを構えた。

 その顔は信念に満ちていて、悪を倒すことに何の迷いも抱かない者の顔つきだった。

 ミランダは邪悪な笑みを見せると得意げに口を開く。


「私さ、あなたみたいなのを物言わぬむくろに変えてあげる時、魔女やってて良かったなぁって心底幸せな気分になるの。そのました顔を泣きっ面に歪めてあげる」


 むぅ。

 何たる外道な思考。

 どう考えても悪役です。

 いや、悪役なんだけどね。


 ミランダは黒鎖杖バーゲストを構えて尼僧にそう対峙たいじした。

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