彼氏の性格を治してー後半①

 奥の襖から白がぬっと

姿を見せる。


白と健二の顔を交互に見る。


今眼前には反省した先の

健二(未来)と

理想の健二(未来)がある。


決められないと思った。

どちらも理想通りかも

知れないと思った。


 ただ、ふと部屋の隅に飾られた

小さい頃の写真が目につく。


私が元気で素直な健二を

好きになった頃の写真。

健二の寝顔を見る。

そして唾を飲んだ。


晴香「たぶん……

私の理想は過去にしかない……」


 無機質に私がそう言うと

白は耳まで裂けそうに

口元を歪めて笑った。


白「では……"治そう"か」


 奇妙な香り、

ヘッドホン、


そもそもあの不純物も

その類だったのかも知れない。


白の異様な行為は言うまでも

なく医療的な手術とは似ても

似つかず、むしろ儀式の様に

思えた。


笑い声が響く。


白「ははっ!君は大野晴香に

素直で優しいんだ!そう、

幼な子だったあの頃の様に!!

そして料理が得意で頭も良い……

目覚めたら大野晴香を

大切にするんだ。

それが君のあるべき形……

さぁ"治れ"

治った君はそういう人間だ」


 あぁ、まるで儀式だ。

歪んだ笑みで踊り狂う白と、

椅子に縛られ魂さえ抜け出し

そうに口を開いて昏睡する健二、


私の心から飛び出した

白い悪魔が嬉々として踊る


一際異形の儀式だった。


晴香「……ごめん」


 儀式の終盤、

自分でも言葉にできない涙と

言葉が溢れた。


 儀式は深夜まで続き、

気づけば私は眠っていた。


朝になって目覚めると、

そこには白も健二も

いなくなっていて、

奇妙な儀式の残り香さえも

なくなっていた。


晴香「夢……じゃないよね」


 全てが消えた今でも私はそれが

夢でなかったと確信出来た。


強烈な記憶、葛藤の末の決断が、それを夢じゃなかったと

理解させる。


朝の準備を済ませる。

学校で健二に会えば

全てわかる……

そう思った時だった。


"ピンポーン"


 インターホンが鳴る。


ボタンを離すのが遅くて微妙に

癖のある音が呼び出した相手が

誰か分かり驚く。


晴香「け……健二!?どうして」

健二「どうしてって、

迎えに来たんだよ?晴ちゃんを」


私は呆気にとられた。

健二の家は近いけど、

一緒に通学なんて小学生以来だ。


なぜなら健二は野球の朝練が

あって……はっとする。


晴香「健二……野球は!?」


慌てた私に不思議そうに

微笑む健二。


健二「朝練が終わったから、

家に帰ってシャワーを浴びて

迎えに来たんだよ。

晴ちゃん汗臭いの苦手でしょ?

どうしたの今更……?

さ、遅刻しちゃうよ?」


 そう言って健二の手が

私の手首を掴んだ。


晴香「……これ……あ!?」


あまりの待遇に健二を見ることも

出来ず、赤らむ頬を隠す事も

出来ずに手を繋いで道を歩く。


歩きながら思い出す。

あぁ、確かに書いた。

あの白医院で、催眠術の備考に

書き込んだ理想の彼氏像……


【素直、優しい、料理上手、頭がいい、私を大切にしてくれる】


【私を大切にしてくれる】


 弾ける程に頬が赤らむが、

自覚してしまった。


晴香「……これ、私のせいだ」


やり場のない羞恥心を堪えて

手を握る。顔は、相変わらずの

健二なのだけど……


健二「ん?晴ちゃんどうしたの?熱でもある?」

晴香「!?!?!!?」


 態度が違うだけでこうも

変わるものだろうか。


手を引かれ、おデコを重ねて

熱を測られた瞬間、私の何かが

限界を超えたらしい。


晴香(健二のくせに……)


 そう思いながらも私は

気を失った。

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