第三章 学校へいこう

春が来て

 冬を迎え、リュシアンは錬金術と魔法の練習を自己流で進めていった。

 図書館でたくさんの魔法陣を覚え、また錬成陣もいろいろ詰め込んできた。すぐには役に立たなくてもいつか使うかもしれない。

 そして、なによりこの冬をかけて開発した使い捨ての巻物。

 どうしても焦してしまうなら、もういっそ燃やしてしまえと開き直ったのである。

 魔法陣を描く紙はケチらず良いものを使い、台紙は潔く燃える、かつ魔法陣が歪んだり折れ曲がったりしない最低限の厚さがある、ただそれだけの厚紙。どちらにしても長期の保存はできないので、あくまでリュシアン専用の、使うときさっと念写して発動するという、お手軽版といったところだ。

 普通はすぐに書いて使う、などということはできないので、ある程度持ち歩いたり、保存したりしないといけないし、魔力に何度晒されても大丈夫なように耐久性も求められるのだが、それが一切いらない。

 リュシアンの能力ありき、の巻物である。


 これで何がやりたいのかというと、エルフの生活魔法だ。

 図書館には、エルフの国の書籍も山ほどあった。エルフは大抵は誰でも普通に魔力があるので、生活魔法が充実している。けれど、全属性を当たり前のように持っているエルフの考えた魔法は、その初歩の生活魔法がすでにとんでも魔法なのだ。

 そもそもほぼ貴族しか魔力をもたないという人間にとって、生活魔法の需要自体あまりない。なにしろ使用人がいるのが当たり前の身分なのだ。


(普通、貴族は自分で洗濯しないしね……)


 また、手間やその過程にこだわるのも身分の高い人間には多い。

 たとえば、水魔法と風魔法と火魔法の複合魔法、ウオッシャー。要は身体全体の丸洗いで、服も体も一気に洗える上に、乾燥つき。すごく便利だ。

 おそらくこれも、貴族のほとんどはエレガントではないとかいう理由で嫌いそうである。「そんなものよりお風呂に入ればいいじゃない」と、言ったとか言わないとか。

 ともかく初級程度の魔法なら、この巻物で事足りる。これでもう少し魔法が身近になるだろう。


 エルフといえば、冒険者ギルドのマスター、ジーンにも会いに行った。

 ベヒーモスを見せたら、さすがに驚いてたのでエルフでもびっくりの存在なのだろう。そして、あの時の出来事のことも、彼にいろいろ聞いてみることにした。

 そこで出会った人物のこと、向こう側のことを。

 実は、リュシアンには予感があった。あの声の主が…、誰であるか。

 もし本当にそうなら、なぜか懐かしく、そして離れがたく思ったのか、その理由がわかるような気がしたからだ。


※※※


 春になり、リュシアンは六才になった。

 あの王都への旅の後、すぐに父に学園都市に留学したいとお願いした。もちろん反対されて、こうして屋敷にくすぶっているわけだけど。

 もちろん諦めてなどいない。こうしていろいろ魔法や体術、錬金術に精を出しているのもそのためだ。


 学園都市の学校は、いわゆる学年という概念がない。ただ教科ごとに十段階の位があるのだ。たとえば、魔法科Ⅰとか薬草学科Ⅲとか言った具合だ。学科を何種取るか、またどの段階まで修了するのかも自由だ。

 あえて区切りをつけるとすれば、どの学科でもⅥまで修了すれば一人前といえる。そしてⅩまで取れば、その道ではかなりの知識や修練を積んだことになる。

 大体は途中までは何科目か取って、上に進むほど数を減らしていく。実際Ⅵを超える頃になれば、二教科程度でもいっぱいいっぱいになってしまうのだ。

 またスキップがあるので、必ずしもⅠから順番に取っていくというものでもない。

 

 このように自由なスタイルの学園だが、ただ一つだけ、教養学科のⅥまでは必須課程になっている。教養科は、一般常識や礼儀作法、簡単な体術など様々だが、選択している教科で重複している内容は免除できるらしい。

 学年がない代わりに、この教養科がある意味、基準になっている。クラスも、この教養科の段階ごとで分けられていた。


 リュシアンは六歳だが、家庭教師に入学は問題ないと言われた。

 すでに従魔も持っているし、無属性も使えるので、体術や魔力操作もそれなりにできる。魔法はどういう扱いになるかわからないが、おそらく最初の実力テストでは、いくつかⅡがとれるだろうと太鼓判を押してくれた。

 とはいえ、父親のエヴァリストの…、そしておそらくは国王陛下の許可が出ないと無理だろう。

 入学試験はこの夏、そして入学は夏が終わってすぐの秋頃である。

 なんとしてもそれまでに父を説得したいと考えていた。

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