7話ー4 抜錨! 魔導超戦艦大和



「――現在導師側の戦力が英国周辺、及びマス・ドライブ・サーキット【ストーンヘンジ】には現れていないとの報告だ。」


 ひと時の航海の後――断罪の魔法少女側の部隊との調整により、英国に程近い海域で【ヤタ天鏡】の偽装展開をしたまま停泊する日本の最大戦力。


「航空輸送及び護衛部隊も、こちらのタイミングに併せて後方1000付近の空域へ到達している。だが――」


 本作戦はここからのタイミングが重要と、魔界【マリクト】の魔王に使えし参謀――明智光秀より念を押されている。


「導師ギュアネスをたばかるため、輸送部隊の接近とこの艦の偽装解除と護衛――さらには【ストーンヘンジ】の防衛全てを計算どおりに行う必要がある。そして、テセラちゃん……光秀殿から立案された君の動き――それこそが最も重要だ。」


 明智光秀という男は、あの魔界最高の頭脳を持つ導師をたばかるため……導師と言う存在が持つ魔族特有の思考的弱点強襲――その策のかなめとして金色の王女テセラに秘策を伝授していた。


「相手は魔界でも恐れられる、頭脳とはかりごとの化身――しかし、こちらに付く光秀殿もかつての戦国時代に、信長公を支えた信にたる頭脳。君は与えられた秘策を解き放つタイミングだけ見失わない様に。いいね?」


 日の本のほこる最大戦力――艦橋にて王女に告げる八汰薙のクールな兄シリウ


『はいっ!私に任せて下さい!』


『落ち着いて行こう、テセラちゃん。私が後方にいる――まずは輸送機の護衛を確実に。ね?』


 多くの支える者達の声を受け――天楼の魔法少女……姫夜摩ひめやまテセラはクールな兄の言葉で奮起しつつ、開放前の船首付近甲板下格納庫で待機する。

 そして隣り合うは、この艦の起動のかなめである魔装撫子まそうなでしこ クサナギ宗家裏門当主――クサナギの小さな当主桜花

 彼女は護衛と支援のかなめとして、王女と共に待機する。


『こちら航空輸送機及び護衛部隊。シリウ、テセラ、桜花おうか――準備はいいですね?』


 決意に頷き合う二人——そこへ殆ど間を置かぬヤサカニ家 裏門当主 れいからの入電が響き、決意も一層強き物へと昇華する。

 その入電に併せたかの様に、英国と輸送部隊間――上空より多数の飛行物体が接近。

 鳴り響くアラートを皮切りに今——地球側最大戦力を含めた輸送護衛部隊と、導師ギュアネスの強襲部隊が……英国の海上で激突する。


「導師側、魔導生命によって構成される部隊多数確認!テセラちゃん、桜花おうかちゃん準備を!——【ヤタ天鏡】解除と同時に船首甲板ハッチ開放!」


「了解!ハッチ開放、同時に【ヤタ天鏡】術式解除!」


 総監を務める八汰薙の兄シリウの指令が艦内全域へ木霊し――その声に従う、宗家が誇る対魔部隊旗艦部門クルー。

 こちらは【真鷲組ましゅうぐみ】若手が騒がしい棟梁カナちゃんさんと共に出向――前線を駆ける者達の決意に同調し、決意も高らかに任をこなす。

 【ヤタ天鏡】によって、周辺空間と隔絶されていた偽装障壁が開放されると——何もいない筈の海上そこに、200メートルを越える巨大な艦影が姿を現した。


 天を穿つ様に聳える、46センチを誇る三連装の巨大砲台——前後に三門と、同じく副砲に加え数多の対空砲台を備える。

 そしてその船体下部から後方にかけて、魔導技術により補完された主動力機関の内二機を内蔵する大翼——巨大な可動式ウイングが畳まれ、本来ある軍艦としての姿へ未来感溢れる様相を融合させた……一種の造形美を打ち出していた。


「【ヒノカグツチ】!桜花おうかちゃんとの霊力接続良好!機関安定、いつでもいけるで!!」


 魔導技術との融合によって……かつて日の本に沈んだ、失われた最大戦力がここに復活する――


「よしっ!霊力反転――魔霊力より反統一場粒子ネガ・クインテシオン抽出、相転移開始!機関最大出力――【魔導超戦艦 大和】……抜錨ばつびょうっっ!」



****



「まさか、魔導姫マガ・マリオンがあれほどまでダメージを貰うとは……。」


 オペレーションD・A・M・Dダムドよりさかのぼって2日前。

 導師側では、完膚かんぷなきまでに叩きのめされた三体の魔導姫マガ・マリオン——その修復と強化を終え策の最終段階に入っていた。


 三体はそれぞれ、副参謀役クイントはインテグラ。

 小柄なスプリンテはレビン――そして、パワータイプのガゼルはシルビアと、先のセブンと同様何の脈絡も無く新型形式として名称が改められる。


「地球のソウケとやらは、王女を中心とした輸送隊を組織し、【ストーンヘンジ】へ向かうでしょう。」


「こちらとしては、【震空物質オルゴ・リッド】を一つでも輸送不能にしてしまえば、策は成功です。ですが念のため……全ての対象撃墜を命じておくとしましょうか。」


 淡々とした口調は変わらずの導師――同反抗部隊最大戦力である赤煉せきれんの魔法少女……そして魔導姫マガ・マリオンへ作戦を伝達して行く。

 その背後に聳える無数のシリンダー ——セブンらが入れられた物より、数段巨大なサイズ。

 しかし、魔導的な液体により生成されるその生命――否、生命かどうかも判別し難いが、数百を超える数待機させられる。


 それは地上で発生した野良魔族を、魔導により戦闘兵士として強化した——この地上で言う、である。


「――私は、当時最凶の魔王として恐れられたの白魔王シュウ……そのお方を主とあおぎ策をめぐらせ、魔界の下級魔族を次々と打ち倒しました。」


 眼前の吸血鬼らに向けられた物か——ただの独り言なのかが判別に苦しむ呟き……遥かな過去を懐かしむ様に、己が昔話を始めた策謀の反逆者。


「魔界に無用な落ち着きが巡り、名だたる魔王も存在せぬ世代は我らの天下でした。——それが今は見る影もない、哀れな抜け殻となり……なんとなげかわしい……――」


 独り言に混じりチラつく、幽閉されし白き魔王への嘲り。

 しかし、反逆者の前に居並ぶ人形と呼ばれた魔導生体兵器の少女達——

 その意味も……価値さえも理解出来ぬと――語られる呟きに対し、聞く耳をあらぬ方へと向けている。

 その一方――

 白き存在を蔑み、嘲る反逆者――その男へただ一人……視覚を、聴覚を研ぎ澄ませ突き付ける者。


「その魔王を骨抜きにし、堕落させた――なんと言ったか……神に仕える聖女シスターか?まあどうでもよい事ですが……この地上の人間共に少し情報を流したら、何と愚かなる同士討ちに巻き込まれて——」


「見るも無残に打ち倒され——あれは中々にいい様でしたよ。クククっ。」


 内容を理解し難い反逆者の発する言葉の羅列—— 一切の興味も示さぬ人形の少女マガ・マリオンらは、自分達をただの道具して認識している故……意味を理解したとて反応もせぬであろう。


 だが——導師が口にした「神に仕える聖女シスター」……そして「見るも無残に打ち倒されて」――


 意味の無い筈の言葉の羅列は、たった一人の少女の思考を

 傍目には悟られぬ様――しかし爆発する様な激情は、歯噛みするその口角に憎悪の赤を滲ませ……軋む爪が食い込むほどに握られた拳。


「——わざわざその朽ちた愚か者が擁護せし下等の獣より、あなたは使えそうであると今まで。今後も、作戦の成功に貢献してくれる事を期待していますよ?」


 言葉と共に、反逆の導師が赤き吸血鬼レゾンに視線を向けた。

 

 映る表情は俯き——今、その瞬間の面持ちも読み取れぬ陰りに沈む。

 そう……その導師は理解が及んでいないのであろう。

 今その赤き吸血鬼の、――……。

 同時に——赤き吸血鬼が全ての魔族に向けていた憎悪が……今、反逆を企てたに向けられている事を――


 その導師の心無い言葉——しかし現状、激情を駆り立てるべきでは無いのもまた事実である赤き吸血鬼……滲む口角の憎悪もそのまま耐え凌ぐ。

 そして……耐え凌ぐマスター見据みすえた竜の使い魔ブラックファイアは、愚かなる導師が吐き捨てた昔話――その同じ頃、記憶の中で自分に掛けられた言葉を思い返す。


『……この様な地上の下等な魔族を庇うなど、神に仕える聖女シスターとやらは気が触れているのか。まさに、正気の沙汰とは思えませんね……。――ふむ、この魔族は唯一——駒としては上々か——』


『この野良魔族……任せます。よい駒に仕立て上げてみせなさい。まあ、あなたがかつて使えし魔界最強の不死の王ノー・ライフ・キング【竜魔王ブラド】と比べればただのカスですがね……。』


 脳裏に浮かぶは同族を同族とも思わぬ、己が全てを生んだ創造主と言わんばかりの増長の渦中であった導師――竜の使い魔をして虫唾が走る姿は、何も変わらぬ愚かさを未だばら撒き続ける。


「(導師ギュアネスよ……貴殿は分からないでしょう。我が主はすでに目覚めの時へと近付きつつある――いずれ貴殿が想像だにしない、途方もない存在となります。……!)」


 己がマスターと同様に、その使い魔も――いつしか導師という存在に対し、激烈なる憎悪を纏う敵対意識を募らせ始めていた。



****



 英国近海上空――導師の私設要塞より、襲撃部隊を乗せた魔導航空艇が目標地点へ向かう。

 そこは言わずと知れた、宗家を引き連れ金色の魔法少女テセラが向かう宇宙への重要物資オルゴ・リッド輸送地点――【ストーンヘンジ】へ向けた英国~北欧間航路。


 すでに出撃準備を終えた吸血鬼レゾンに、剣の魔導人形セブンが無機質であるも――以前の姿が嘘の様な、多分な感情に富む面持ちで念を押してくる。


「レゾン・オルフェス――言っておきますが、この作戦中にもしあなたが再び我らの状況を混乱させる行動を取ったその時は――」


「どうした、セブン?今日はやけに感情がこもっているじゃないか。私はそちらの方が気が合いそうだがな……?」


 剣の魔導人形が言うが早いか、吸血鬼が被せる様に言葉を送り返す。

 それもまるで、長年戦地で共に戦った盟友を慮る心情を篭めて――

 同時に、全く予想だにしない吸血鬼の表情――今まで見た事のない暖かさを感じ、驚愕の余り硬直……そのまま押し黙ってしまう剣の魔導人形。


 少しの間……なんとか硬直した思考を呼び戻し――再び口を開く魔導人形。

 だが……その返答も――そして表情までもが、吸血鬼の想定だにしない物として返納される。


「……我らは、星霊姫ドールになり損ねた者です……。それは生まれ出でた時点で定められた事――……。」


 歪む眉根……機械人形にあるまじき悲壮感を湛え——放たれた言葉。

 それは吸血鬼の少女が自分を蔑み——そして自虐していた言葉と違わぬ

 機械人形の嘆きが……赤き吸血鬼の思考へ一つの解を導いた。

 ――彼女らマガ・マリオンは、劣等感に苛まれる自分と同じであったのだと――


 それは魔族の王女に対して、吸血鬼の少女が抱いた物と正しく同じ――しかし彼女らには、そこへ手を差し伸べる者が皆無であった。


「そうか……。」


 もはや赤き吸血鬼には、ただの生体兵器として生み出された哀れな少女達に対しての悪態すらも浮かばない。

 ――否。

 その哀れさを罵倒し、嘲る様な下劣極まりない性分など……持ち合わせてはいなかったのだ。

 

 そんなやり取りの最中――愛しき主の後で控える使い魔は、例の魔導通信を主の思考へ送って来る。


『レゾン様……本当によろしいのですね……。』


『今更だな。この作戦の後……必ず導師は最後の手段に出る。それは大方私かシュウのどちらかを、人質に仕立て上げる策を講じるはずだ……。』


『けど、ただの人質ではない――それこそ人柱の類にと考えているだろうな。そうなればより、利用する可能性は低くはない。』


 愛しき赤き主の言葉には、己が窮地に立たされる事を予見し――それで尚、揺るぎなき決意を滾らせている。

 使い魔の少年は、主に問いただすまでも無くとも分かっていた事実――それでも……その主の決意に言葉を詰まらせた。


 そして――


『この後、作戦の成功如何いかんに関わらず予定通りに動け。お前は王女の――テセラの元に行き……魔王シュウの救出をあちら側に願い出ろ。いいな?』


 使い魔の少年は無言で瞳を閉じる。

 ――歯噛し……浮かべる渋面そのままに。

 主が決断したならば、彼にもそれを否定する余地など残されてはいないのだ。


 その後導師の軍勢――赤煉の魔法少女レゾン・オルフェスと兵器である魔導の少女達マガ・マリオンは、金色の王女テセラ率いる三神守護宗家の輸送部隊と相見あいまみえる事となる。

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