6話ー5 西の居城 W-1新呉市



 「現時刻より、宗家の指揮系統を、東首都より西の首都へ。あわせて軍事関連設備をウエスト-1【新呉市】へと移行します。」


 導師ギュアネスの勢力による軍事施設襲撃を受け、再度の襲撃の可能性をかんがみた守護宗家——後の作戦に必要とされる関連設備を海路にて移設する事となる。


 その先に選ばれたのはメガフロートウエスト-1【新呉市】。

 瀬戸内の島々を見渡す中心地、中四国から南海方面を守護する大型海洋設備。

 今回の地球と天の魔界セフィロト衝突回避防衛作戦のかなめ——守護宗家がを内包する場所でもあった。


 そして間もなく開始されようとしている、両世界の防衛計画の最初のミッション――震空物質オルゴ・リッド輸送任務。

 そのための事前会議が開かれる。


「いえ——ですから何度もお断りした様に、すでに竣工間近ですので。はっ??いや……二番艦は——」


 その会議が開かれるはずのウエスト-1【新呉市】統括室。

 メガフロート施設管理を任される支部局長亜相 沙織が、毎度の様に極秘戦力の建造受注を何処いずこより聞きつけた企業――執拗しつように交渉を持ち掛けて来る企業それへの対応にいそしんでいた。


「はぁ~……いったいどこから聞きつけてきたのよ……。宗家の極秘事項じゃなかったの?」


 電話先で局長殿の頭を悩ますのは、世界崩壊の危機を免れて以降——旧世代の思考のまま、未だに瀬戸内近隣で世界の求めぬ無用の長物を作り続ける三流企業。

 すでにその企業が生み出す物は、大型ゴミ放置による世界規模の環境汚染拡大を問題視され——世界諸国から再三に渡り製造停止を突き付けられる、時代遅れの産物であった。

 その企業のあまりに執拗しつような交渉に、さすがの支部局長も嘆息と愚痴を漏らす。


「入るぞ……ってまたあの企業の対応か?」


「あっ、闘真とうま聞いてよ……あの企業しつこ過ぎ……!ウチで竣工予定のはその辺に浮かべる船とは訳が違うのに、なんで旧世代思考の企業は理解出来ないかな!?」


「ていうか、どこからこの情報聞きつけたのかが知りたいわよ……!宗家極秘じゃなかったの!?」


 亜相 闘真あそう とうま――先にクサナギの小さな当主の危機に駆けつけた【日の都の暁ライジング・サン】の一人。

 彼は言い様のない面持ちで後悔を顔に浮かべる。

 会議に先立ち、必要な事項を確認に来てみれば当の支部局長――彼のパートナーである女性の癇癪かんしゃくに付き合わされるハメとなったからだ。


「……落ち着け……。ここは瀬戸の中心――その筋で情報屋が動いた可能性もなくはないだろうが、ちょうどそれも含めて確認したい事がある。」


「——まあそもそも、あんな張りボテ企業が建造する代物ではロクな目に遭わん。それを扱って危険を被るのは我々だ……しっかりお断りを入れておいくれ。」


 なんとか支部局長のご機嫌を調整した、兵装教導官闘真――気を取り直し本題へと移る。


「それより、この【新呉市】――警備は万全か?導師の勢力による襲撃前……イースト-1【新横須賀市】で侵入者を確認したと報告されている。」


 その報告に元の調子を取り戻した支部局長女性が、ようやく纏う凛々しき雰囲気に見合う冷静さで返答する。


「それについては問題ないわよ?……あっちは都市部復興中でもあるから、その影響で警備が手薄だったみたい。本来万全な設備体制のメガフロートなら、例えそれが【星霊姫ドール】であっても侵入は困難よ——」


 支部局長の言葉に逡巡する教導官殿――少しの間を置き、同様の解を得るパートナーへ感嘆を贈った。


「流石だな——やはり、沙織さおりも【星霊姫ドール】が侵入したとみているか……。」


「でも【新横須賀市】に直接の被害がなかったんでしょ?それを踏まえて考えれば……あの企業に極秘情報がれたのも、【星霊姫ドール】がからんでる可能性があるっぽい?」


「ていうか、私の想定が当たってるとしても――ほんとに、何て事してくれてるのよ……星の守り人様方は……。めんどくさいったらありゃしない……。」


 パートナーである教導官の言葉に、想定した状況が頭を打ち項垂れる支部局長。

 至る結論——東の居城E-1への被害を見ぬならば、情報のみのリーク。

 それを悪戯心であえて影響の無い方面へばら撒くのは、【星霊姫ドール】と言う存在が星の試練を撒く者と呼ばれる所以ゆえんとされる。


 ただ、現在の頭を悩ます状況が星の守り人ドールの仕業であるとするならば――支部局長の女性は守り人に振り回されている感じであろう。

 そのを、語る言葉へ支部局長であった。


 項垂れたままであるが、今は今後の作戦に向けての重要会議を控える身――パートナー闘真とうまへ先に行けとうながす支部局長。


「それよりも、すぐに会議……始まるんでしょ?——私も少ししたら向かうから。」


 彼女に関わらず——多くの大戦を経た者達の経験上、星霊姫ドールと呼ばれる存在は星の観測者【アリス】の啓示けいじを受け……初めて行動を行うとされている。

 通常行動を開始したそれらは、人類に対する監視——或いは支援に終始する。

 しかし、人類の行動が地球に災い成す物と見なされた場合——状況によっては敵対行動を取る……いわば、地球の最終安全装置の様な物との認識を共有していた。


 現段階で何も影響がない――であれば現状最低限監視の対象とされている。

 監視対象側である人類にとって、そう捉えるのが最も妥当であった。


 少しの間を置き、ウエスト-1【新呉市】中央層大会議室――宙空に浮かぶ大型モニターと複数の立体モニターを囲む、金属テーブルと重みのある椅子が立ち並ぶ一室へ……作戦遂行における主要メンバーを初めとする者達が集められた。

 

 すでに各椅子へ座した面々――緊張に彩られる。

 まず任務のかなめである天楼の魔界セフィロト――ティフェレトの第二王女姫夜摩ひめやまテセラにその使い魔ローディ。

 次いでサポートを担う魔法少女戦力として、魔装撫子まそうなでしこのクサナギ桜花おうかと守護神霊【ヒノカグツチ】——ヴァチカンより出向した断罪だんざいの魔法少女ヴァンゼッヒ・シュビラ。


 三神守護宗家より、地球側の作戦立案者 ヤサカニ れい八汰薙やたなぎ家のにない手、八汰薙やたなぎシリウ——同じくロウ。

 そして後方の情報統制とバックアップにあたる、クサナギ家表門当主 クサナギ 炎羅えんら


 日本国防衛省直衛戦力より作戦支援として【日の都の暁ライジング・サン】から、亜相 闘真あそう とうま亜相 沙織あそう さおり叶 奨炎かのう しょうえん が参加。

 防衛省長官 狩神 音鳴かりみ ななる は、輸送任務進路上――関係各国への事前連絡をふくむ対応で支援に徹する。


 地球と魔界を救うために集められた、錚々そうそうたる顔ぶれである。


「それでは作戦前の情報整理として、王女から導師側の魔法少女――レゾンより得た情報を提示いただきます。」


 例によってヤサカニ家の裏門当主が議長となり、共有すべき情報提示を金色の王女テセラからの発言として求める。

 僅かな緊張を宿す王女がおもむろに立ち上がり——導師側戦力であった赤き吸血鬼から得た、己の知り得た情報を口にする。


「え……っと、まず最初に私が彼女から聞いた情報です。現在地球のいずこかに降りてきてる魔王シュウ――ジョルカ・イムルさんについてですが——」


「捕らえられ……導師側の手にあると思います。」


「それは、導師側の仲間という事ではなく?」


 ヤサカニ裏門当主の問いへ首肯——それが確信に足る情報と視線送る王女。


「違います。幽閉されていると――レゾンちゃんはその彼女を助けてやってくれと言ってました。」


「分かりました。相手側の策である線も捨て切れませんが、今は王女が対話に成功した吸血鬼の話を信じましょう。」


 逡巡……思考内で情報整理の後、まず一つうれいを断つ裏門当主。

 少なくとも、導師側の魔王は協力体制にはない事を確認する。

 続けて王女が吸血鬼レゾンと共にいた、刀の魔導姫マガ・マリオンの口にしていた発言を付け加える。


「あと——魔導姫マガ・マリオンのコスモと言う名の少女が【セブン】と改称されたと言ってました……。さらにそこへ三人の魔導姫マガ・マリオンが現れましたが、桜花おうかちゃん達が撃退に成功しています。」


「改称——意味も無く名を変える事などはないでしょう……。ならば少なくとも、導師が魔導姫マガ・マリオンを強化する方向で戦力増強して来た可能性はありますね。——魔法少女と三体の魔導姫マガ・マリオン……そして——」


 紡がれる情報から今後の作戦への障害に対する策を、順を追って構築していく裏門当主。

 事前の情報整理を終え、本題へ移る――が、今回は作戦を立案するにあたっての重要な件を準備している宗家陣営。

 それを踏まえた戦略の公表に移る。


「では、この情報を考慮に入れた上で——英国までの輸送路・必要戦力準備・導師側と会敵かいてきした際の戦略等立案に移ります。」


「ただその前に、作戦へ参加するメンバー皆へご報告があります。……それは今回、ようやく合同作戦に相応しい状況が確立できたという朗報です。」


 議長である当主の言葉——来たかと教導官が反応する。


炎羅えんらさんが取りつけただな?」


 その言葉に首肯する議長である当主……手早くモニターを操作し、宙空に映し出されたそこには――


『みなさん初見の方々は初めまして。私の名は天楼の魔界セフィロトが一世界……ティフェレト――その世界の魔王……ミネルバ・ヴァルナグスと申します。』


『今回の合同作戦に当たり、【魔神帝ルシファー】卿の代理として——及ばずながら作戦への支援を行う事となりました。』


 宙空モニターを占拠するは——それがである事を忘れさせる様な、容姿が凛々しくもきらびやかに映し出される。

 ようやく調整も済み、臨時回線を確立した両世界――魔界側の作戦支援者である魔嬢王の名で知られる女性が、遥か十数天文単位の距離を経て地球側の作戦メンバーと相対する。


 それは未だかつて、明確な通信手段を持たなかった地球と魔界——その貴重なコンタクトの瞬間でもあった。


『……そして、せっかくの初の合同作戦会議という場ではありますが――ひとつ……地球の勇士の方々へ謝罪があります。』


 一瞬魔王の言葉に表情がくもる裏門当主――魔界側に落ち度が存在したかと推測を立ててしまう。

 が、それは杞憂に終わり――むしろ次に魔嬢王より語られた言葉で、あらぬ驚愕の事件を知る事となる地球側の面々。

 中でも日本を故郷に持つ者に至っては、歩んだ歴史を知る者が皆――全く予想だにしない斜め上の状況へ吹っ飛ばされる事となる。


『両世界の危機回避作戦にあたって、こちらで是非とも協力したいと申し出てくれた勢力がいます。』


『地球側が恐らくこのたぐいの通信手段を用立てると踏んで――魔界側でも作戦成功率上昇のため、あなた方には内密に別件の手段、それも導師側にも悟られない様進めさせて頂きました。』


 続けられた魔王ミネルバの言葉に含まれた、――宗家の中心となる者達は、と言う点が引っ掛かり……驚きと疑念を表情へと浮かべる。


『その協力勢力から提示された案の関係上、このタイミングまで明かす事ができず――結果的にあなた方を騙す様な形になり、申し訳ありませんでした。』


 この魔界の魔王という存在は、皆がことごとく腰が低い――否、深き礼節を併せ持つと地球陣営が舌を巻く。

 先の魔神帝に続き、またしても謝罪の念をあらわとされ――その余りある礼の深さに慌てて対応する裏門当主。


「か……顔を上げて下さいミネルバ卿!我が国の古き兵法の中に、敵をあざむくにはまず見味方からという言葉もあります……。世界の危機を救うための策と言う事であればなおさら――」


「――ミネルバ卿……もしや協力勢力とはこの日本に精通する者が……?」


 裏門当主自らが言葉にした内容――そこへ同時に思考に浮かんだ、想定しうる状況を女神の様な魔王へ問いかける。

 その問いへまさにと首肯で応答する女神の様な魔王ミネルバは、その者達の紹介へと移った。


『……では紹介しましょう。百聞は一見――恐らく日の本と言われる国に住まうあなた方なら存じていると思います。……さあ、こちらに――』


 ――そして……その勢力を代表する者。

 女神の様な魔王と入れ替わり、魔界側――モニターを一瞥出来る席に鎮座する姿。

 それは一見地球で言えば、十代も中等部クラスの容姿――幼くはなくとも、大人と評するには若すぎる者が映っている。

 だが――その者から発せられる魔霊力の高は、そこに今いた女神の様な魔王と同等とも取れる強烈にほとばしる霊圧が……モニター画面へノイズの歪みを生む。


 モニターを睨め付ける様な双眸――したり顔を浮かべる少年とも取れる男は、尊大な物言いで吊り上がる口よりその名を発した。

 同時に——宗家を初めとした日の本の民の聴覚を、が強烈に振るわせる。

 が――に……現われた。


『おおっ……そなたらがとなる者達か……!まさに出で立ちも面妖じゃな……!確かにが収集した情報どおりと言う所か――』


『そなた等ならば過去の歴史なりで知り得ておろう。我が名は信長――魔界の一世界……【マリクト】を治めし魔王、織田信長じゃ……!』

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