条件提示

 ルムネアは、一人で、月下人ムーン・メンの女が集まるの寝床にどうにか戻った。

月明かりの中、上半身裸の男に相手にされていない女が集まって、寝ていた。

 他の月下人ムーン・メンの女のがしているようにして、苔や下生えの草の豊かなところに大椰子の葉を何枚も敷いて手頃な石に、羽葉はねはと呼ばれている、分厚い葉っぱを重ねて、枕にし、横になった、太鼓椰子朴たいこやしぼくの葉の間からは、月明かりが、こまれていた。

 そして、いくつもの、小さな星の光が。ルムネアのように取るに足らない星の光だ。いや、死んだら、ルムネアもあの星の光のようになれるのだろうか、

 大変な一日だったが、状況が大きく変わった、大変な一日でもあった。

 ウリックに言われた事を考えていたが、どれも本当に事だった。

 しかし、間違いもたくさんあった。ルムネアは、まだたくさん、ウリックに話していないことがあった。

 <スパム・タング>が言っていた、巨人の影とバルドラ家が関係していることは、明白だ。

 しかし、<スパム・タング>は"影"といい。月下人ムーン・メンのパック・リーダーたちは、"禁忌"というのだろう。

 バルドラ家の領地の広さや動員兵力をルムネアは、正確には知らないが、バルドラ家の旗手バナー・マンの数は、宮廷で大体は見知っている。

 ギャリトン家とは、比べ物にならない。レディ・バルドラこと、レディ・ミゼアの貧素なドレスと西の国の王妃ゼトアナと比べても、比較にならないほど質素だった。

 そんなことでしか、各家の戦力を比較できないことを、ウリックは、指摘していたのだろう。

 考えれば、考えるほど、ウリックの言っていたとおりだ。

 しかし、ウリックに宣誓させたように、自分もじつは、心に誓っていた。

 弟を救出することと、家を再興させることを。

 この二つだけは、どうしても、譲れない。

 たった半日だが、ここで、月下人ムーン・メンとして、生きるのも悪くない気がした。ルムネアがおしえられていた、月下人ムーン・メン

 そんなことを考えていると、ウトウトしだした。ここ数日間ルムネアは攻城戦の不消瓶投射騒ぎで、ロクにしっかり眠った日々が少なかった。

 急速に眠気が襲ってきた。


 朝、揺り動かされて、ルムネアは起きた。

「起きてください、マイ・レディ」

 ウリックの天を向いた、小さな鼻が、上から見下ろしている。

「なんですか」

月下人ムーン・メンの斥候が、<巨人のねぐらジャイアンツ・ネスト>を出たところの、海草原シー・グラスで、クロージャーの斥候を見たそうです」

「そうですか、、」

 正直、眠い。けど、起きなければ。

「紋章は?」

「二つの拳、バルドラ家です」

 ルムネアの目つきが変わった。

「バルドラ家に何かあるみたいですね。パックリーダーたちが、もう月下人ムーン・メンの移動を決定しました。ひとまず、森の奥地へ移動するそうです。どうしますか、我々は?」

「また、喧嘩になるのでしょうが、私のこころは、決まっています」

「と、思いました」

「ところで、サー・ウリック、怪我は大丈夫ですか?」

「まぁ、なんとか、昨日の夜は、ケシの実が効いていたみたいですね、痛いのは、今朝のほうが、痛いですけど、、」

「なによりです」

「弟君は、何家におられるのですか?」

 短い、沈黙の後、ルムネアが、口を開いた。

「私たちは、西の国の貴族です、バルドラ家の被後見人となっています」

「バルドラ家は、今や、<狼の遠吠え>城を保持する、西の国の王家ですよ、余計難しくなりましたね」

 月下人の醜女だが、若い女<ツー・ムーンズ>が、昨晩とは、うって変わって、しんけんな面持ちで、朝食を運んできた。

「おまえら、若き、継がい《つがい》のクロージャーに渡せる、最後の食事」

「継がい《つがい》では、ありません。主従です」

 ルムネアがすぐ訂正する。

 ウァンダリア人の二人は、貪るように食べた。次、何時食えるか、わからない。

「昨晩から、少し、考えが変わったのですか?」

「ええ少しね」とウリック。

 ウリックから、切り出した。

「お互い、本音で話しませんか、レディ・ルムネア、あなたは俺に対して、隠し事が多すぎますし、会って、まだ二日ですよ、。信用しろという方が無理です」

「誓いを立ててる、直接の誓約者に対しては、私のという意味で、言って、マイか、ム、を尊称の前につけなさい」

「イエス・マイ・レディ」

 しかし、大神天貫大樹だいしんてんかんたいじゅの二人の周りは、騒がしくなってきた。

 月下人ムーン・メンたちは、老いも若きも、健康なものの、そうでないものもここを撤退するのだ。

「まず、最初に言っておきますが、マイ・レディ、あなたが、読んだり、聞いたりして、知っている、すべての騎士物語や英雄譚は、すべてウソです」

 ルムネアは口の周りに、たくさんの白いカデナッツの実をつけて沈黙。まだ、多くの月下人ムーンメンたちのように、そこらの小枝を口に入れて、歯磨きする気には成れない。 

「吟遊詩人も、仕事で、謳っているのです、多少どころか、みなが聞きたがるようにかなり誇張したり、創作したり、しています。史文として残っている英雄譚の本など、もっとです。本を売らなければ、なりませんから。宮廷に訪れた吟遊詩人も、面白い話ばかりしたでしょう」

 ルムネア、かたきを見るような顔をして、ウリックを見ている。

「私は、貞操を完全に守った聖神の教えを守った慈悲深いレディや、レディを守ったナイツなど、実際に見たことがありません。また、無駄な殺生や暴力を自身で戒めているナイツやロードもです。連中は、自分と同等な力を持った相手にだけ、尊敬を与え、条件を出し話し合います、それ以外は人だとすら思っていません、同じナイトや、ロードでも、力が弱いと、動物のように切り刻まれ、焼かれます。それを止めるものなど、誰もいません、誰か、止めたり、戒めたりするモノが居るのなら、逆に教えてほしいぐらいです」

「随分、偏った、モノの見かたですね、ひねくれているとしか、言いようが、ありません。あなたは、職業がら、戦場いくさばでのそれらの人々の振る舞いしか見ていないでしょう。現に、私は、吟遊詩人を経ておらず、直接、騎士の殿方とのがたから、冒険譚を聞きました。そして、私をレディとして、取り扱ってくれました」

 今度は、ウリックがやや黙ったが、短い時間だった。

「私の条件は、単純です」

 ウリックは言った。

「何でしょう、誓いを立てたものの正当なる要求として、このルムネアは聞く用意があります。発言を許します」

「今まで読んだり、聞いて見知った、ナイツ、ロード、レディの貴族に関する、話や概念を一切捨ててください、これから、踏み出す世界はそういう世界です」

「それだけですか」

「もう一つ、重要なことがあります。私たちは、死人や負傷者から武具を剥ぎ取る戦場泥棒いくさばどろぼうに、たった13歳の少女です、弟君の救出はまず、不可能だと考えてくださいこの二つが条件です」

「それだけですか」

「これだけです」

「いいでしょう、ルムネア・オブ・ウァンノリアが、全ての神々、ウァンダリアの大地、そして、一度も、拝んだことがありませんが、この月下人ムーンメンの神木にもかけて、その約束を守りましょう」

「ウァンノリア!?」

 ウリックは、声に出して、言うと、驚いて二の句を告げられなかった。

「これで、あなたも、わかるでしょう、約定をきちっと守る貴族もいるのです。あなたの目の前に」

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