折衝

 月下人ムーン・メン先取り屋ポイント・マンは、矢をつがえたまま、ルムネアのところまで、やってきた。

 ルムネアは、なんと声をかけたらいいのか、全くわからなかった。

 相手は、10人強。

 囲まれて犯されるのだろうか?、それとも、皮を剥いで巨人への貢物にされるのだろうか?巨人が伝説なことぐらいは、知っている。しかし、月下人ムーン・マンは知っているのだろうか、もう何百年も前に最後の巨人が死んだことを。

 馬は取引の材料になるのだろうか、通過するだけとか、一晩泊まるだけなど、理解してもらえるのだろうか。

 彼らは、自分が有利な立場にいることを認識しているらしく続々と、廻い詰めてきた。 月下人ムーン・メンの中には、女性もいた。

 ルムネアは、ちょっと安心した気がした。同族の女性の前で、犯すことはありうるのだろうか、

 月下人ムーン・メンたちは、女性も含めて、上半身は肌で、全身に届月山の泥炭の炭をその上半身に塗っている。同じ模様の月下人は老若男女、誰一人としていない。

 点取り屋が、とうとう、ルムネアの目の前まで来た。

 最初に、口を開いたのは、月下人だった、点取り屋でなく、このパックのリーダーである、<クロー・ビーク> だった。帽子の代わりに、。鴉の頭部の骨を髪留めに使っている。もちろん男性だ。

「ギャリトンの城が、燃えた」

 側面と背後に回られるのをルムネアは気にしていたが、月下人はあっという間に、側面背後に回られた。

 もう、これで、逃げ道はない。

「紋章は見た。責めたのは、ギャリトンのダウナー家臣

「そうです」ルムネアは、答えた。

 月下人は、自分たち以外の部族と出会うときは、顔を異常なまでに相手に近づける。

 <クロー・ビーク>も、ルムネアの胸元から、口先、おでこまで、匂いあげていく。

「女、今日、飯食っていない。月の血は始まっている」

「そうです」

 ルムネアは、やろうと思えば、馬に突っ伏しているウリックの帯剣を抜くことは、可能だったが、その瞬間に、何本もの矢がささり、ルムネアもウリックも命を落とすだろう。

 そしてこの馬も。

 <クロー・ビーク>は、パックの全員に弓を降ろさせた。

 少し、緊張が緩和した。

「男は、フリー・ガイだ」

「フリー・ガイ」

「フリー・ガイ」

月下人ムーン・メンたちが口々に言った。

 ウリックは月下人ムーン・メンと面識があるらしい。

「フリー・ガイは怪我をしているぞ、お前が痛めつけたのか」 

 <クロー・ビーク>が尋ねた。

「痛めて、運ぶ馬鹿はいません」

 <クロー・ビーク>の表情が、馬鹿という言葉で変わった。

 ルムネアは、慌てて、言い直した。

「あなた方を指して、馬鹿とは言っていません、言葉の表現です。馬鹿は私を指します」

 <クロー・ビーク>の表情は、そのままだったが、

「このクロージャーの女は、自分を馬鹿といったぞ」

 くすくすくす、、、程度の笑いが、月下人のパックにおこる。

「<遠吠え>の城を襲ったのは、ギャリトンのダウナー家臣、子の親殺しか?」

 <クロー・ビーク>は、まだ尋ねる。

 彼らも、西の端のステッチャーが戦争を起こしたことを重大な脅威か、懸念事項としてとらえているのだ。

「おそらくそうです。旗手バナー・マンのバルドラ家の謀反です」

「なぜ、子が親に勝ったか、わかるか、クロージャーの女」

 それだけは、ルムネアにも謎だった。<遠吠え>城をめぐる攻囲戦になる前に、一度、大きな会戦が北西部の海岸線であり、数が多かったはずのギャリトン軍は、ぼろぼろになって、。城内に逃げ込んできた。この戦いにもクレイダス二世は従軍していない。そして気がついたら、<狼の遠吠え>城は囲まれていた。 被後見人のルムネアには、それだけしかわからない。

「バルドラ、二つのフィスト」

 バルドラ家の紋章の事を言及している。

「そうです」

 たとえ数少ない事実でも、合意して、同じサイドに居ることを理解してほしかった。

「バルドラは、禁忌、破った」

 禁忌!?なんのことだか、ルムネアも知らない。

 その時、独りの月下人、<スィート・トウィグ>が雄馬のすぐ側までやってきた。

 そして、馬に触り、嬌声を上げ

「俺が、一番に触った、俺の馬だ」と狂ったようにわらいながら言った。

 すると、<クロー・ビーク>が、瞬時に小さな刀を下半身のどこからか居抜きでだし、<スウィート・トウィグ>の片目に投げつけた。

「ぎゃああああ」

 <スウィート・トウィグ>は、片目を抑え悲鳴を上げた。<スウィート・トウィグ>片目に深々と小刀が刺さっていた。

 年かさでバイス・パックの<レッド・マインド>が、<スィート・トィッグ>の後頭部を両刃の幅広の大刀のつかで、打ち付けて、、<スィート・トィッグ>を昏倒させた。

 月下人ムーンマンの間では、上下関係は、実力勝負で常に変わり、また、絶対だ。

 そして、それに親や身分の差は一切関与しない、正に実力だけが支配する上下関係だ。

上位のものは、実力で押さえつけ、下位のものの挑戦を受けなければ、ならない。そのかわりに、挑戦はこのように大きな代償も払う。

 <スィート・トィッグ>は、片目を失った、残りの人生を片目で生きなければならない。

 <レッド・マインド>は、<スィート・トウィッグ>に刺さったままの小刀を抜くと、パック・リーダーの<クロー・ビーク>に渡した。

 小刀には、べったり血がついていた。

 禁忌とは、謀反の事を言っているのか?

 <クロー・ビーク>は、ルムネアからやや離れて言った。もう月がのぼり始めていた。

「フリー・ガイは、我らの血を分けていないアンブラッデドブローだ、もし、武器を置いて、<巨人のねぐら>に入るなら、フリー・ガイを運んだクロージャーの女も客人として歓迎する用意がある。ただし、武器はダメだ」

「武器は、持たない、馬はどうすれば、いいのです?」

「馬もフリー・ガイを運んでいる、客人だ」

「フリー・ガイを手当してやってほしい、それが、唯一の私の望みだ」

「無論だ、フリー・ガイは、血を分けていないブローだ、見殺しにはしない、<遠吠え>城ハウルから逃げてきたんだろこっちこそクロージャーの女に、訊きたいことが山ほどある」

 <レッド・マインド>は<スウィート・トィッグ>を肩に担ぎ、<クロー・ビーク>は、さっさと踵を返し<巨人のねぐら>にはいっていった。

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