深夜、コンビニ、探訪録

刻一(こくいち)

第1話 常にそこにある軽自動車

 遭遇率99%


 それと初めて遭遇したのはいつの頃だったか。

 少なくとも、私が深夜にコンビニへと行く事が増え始めた数年前の時点で既に目撃していた記憶がある。

 まずはその日の話をしよう。


 その日、私は深夜にコンビニへと向かう事になった。

 理由は色々あるが、ここでは省略しておく。


 家を出て、大通りを歩き、一番近いコンビニへと向かう。

 この当時はコンビニなんてぶっちゃけどこでもいいと思っていたので、単純に一番近いコンビニへと向かっていたのだ。

 角を曲がり、コンビニに近づくと一台の軽自動車っぽい車が見えた。深夜でも大通り沿いならそれなりに客は入る。なのでこの時点ではまだ何も違和感などはなかった。

 この軽自動車が停まっている位置は丁度、私の家からコンビニの敷地へと入る時に通る位置であり、コンビニへと向かうなら必然的にこの車へと近づく事になる。

 なので一歩一歩、コンビニとこの車へと近づいていたのだが……。

 車の横を通る時、チラッと車の中を横目で見ると、運転席のシートが倒されていて、そこに布団が見えたのだ。

 布団? と一瞬だけ違和感を持つも、大きな違和感にはならなかった。と言うのも、幹線道路沿いで敷地の広いコンビニでは、夜に仮眠を取るドライバーが少なくないからだ。まぁ、そういうのはほとんどが大型トラックなんだが、普通車もないわけではない。

 なのでこの時点では大きな違和感はなかった。


 それから数日後、また深夜にコンビニへと行く機会があった。

 家を出て、大通りを歩き、一番近いコンビニへと向かう。

 角を曲がり、コンビニに近づくと……違和感があった。

 しかしこの時は、それが何が原因の違和感なのか、まったく分からなかった。


 そしてまた数日後、深夜にコンビニへと向かった。

 家を出て、大通りを歩き、一番近いコンビニへと向かい……そして、違和感……というか既視感があった。

 何かこれ見たことあるぞ、という感覚だ。


 また数日後、深夜にコンビニへと向かい……既視感。

 そのまた数日後、深夜にコンビニへと向かい……既視感。

 流石にここまで来ると察しの悪い私でも気付く。


 いや、この軽自動車、ずっとここに停まってるよね?


 そう気付いて、何だか少し怖くなった。

 試しに昼間、コンビニへと行ってみる。

 もしかしたら、と思いつつコンビニへと向かうも、奴はいなかった。

 常にあの場所に放置されている車ではないようだ。

 次は午後八時にコンビニへと行ってみる。やはり奴はいなかった。

 次に午後一一時にコンビニへと行ってみると、奴がいた。


 奴と会う回数が一〇回、二〇回、そして一〇〇回、二〇〇回と増えていき、その分だけ月日が流れるも、奴はずっとそこに現れる。

 こうして、奴との長い付き合いが始まったのだ。




 我が家から一番近いコンビニの駐車場の西側、北から三番目の駐車スペース。常に奴はそこに停まっている。

 かなり古い形式の軽自動車で、室内は狭そうだ。

 あまりジロジロ見ないように、横を通り過ぎる瞬間、室内をチラッと見た感じ、中には布団や週刊誌や飲み物が転がっていて、片側のシートが大きく倒されて、誰かが縮こまって寝転がっているのが辛うじて確認出来た。

 と言うのも、窓ガラスが汚れていて、よく見えないのだ。


 奴は深夜、常にそこにいる。

 春の心地よい夜も、夏の蒸し暑い夜も、秋の肌寒い夜も、冬の極寒の夜も、常にそこにいる。

 大晦日の夜もそこにいた。

 クリスマスの夜もそこにいた。

 しかし昼間はそこにいない。

 昼間の奴がどこに停まっているのか、それは誰も知らない。


 わが町の七不思議の一つである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る