あますみわたり

虚天使ニジ

始業式の日

今日からまた学校が始まる。

皆学年が変わってクラスも変わり、何かとザワザワしていた。


もちろん僕の場合も例外ではなく、よく話していた友達と別れるのは不安だった。

あくまでクラスの面ではそれが不安だったけれども、1つ、メンバーがいなくならないものがある。


天文部だ。元々僕達の上はいなかったので、運動部でいうところの「引退」ってやつはない。

問題なのは新入部員なんだよね……。

自分としてはメンバー増えるのは楽しそうなんだけど、今の空気を壊したくないっていうか……


校長先生の長い話や、代表生徒の「新年度の目標」などの話も終わり、教室に戻る。


が、特にすることもなく、自己紹介的なことだけして今日は終了となった。


いわゆるHRホームルームが終わり、僕は足早に天文部の部室に向かった。


鍵を開けて中に入る。

部室の中はとても天文部のものとは思えないほど散らかっていた。

そういえば1年の時の最後の活動で掃除後回しにしたんだった……。


とりあえず大きめのものだけ拾って棚や箱に入れていく。

だいぶ小物が散らかってはいるんだけど、こっちを片付けるのはみんなが来てからのほうがよさそう。


そんな事を考えていたら、突然部室の扉が開かれた。それと同時に


「フッフッフッ……ヨミを必要としているな?」


その声と共に夜緑よみさんが入ってきた。


「夜緑さん、ちょうどよかった今部室の掃除を……」

「ちょ、ヨミが入ってきたら『降臨したか……漆黒を照らす堕天使が。』って言ってよ!」

「ご、ごめん……」


僕は夜緑さんの剣幕におされて後ずさりした。


「ま、アズマだからいいけどさ。」


そう言って畳まれていたパイプ椅子を開きそこに座った。

ちなみにアズマっていうのはあだ名で、夜緑さんは普段、部員の皆のことを彼女がつけたあだ名で呼ぶ。

それはさておき、


「あのー、夜緑さん部室の掃除を……」


そう言いかけた時、


「こんにちはー、あ、東晴あずはると夜緑。もう来てたのね。」


と言いながら音狐ねこが部室に入ってきた。

良かった……早めにまとめ役が来てくれた。


「散らかってるね……部室。」

「そうか?ヨミはあんまり変わってないと思うけど。」

「それはこの部室で春休み前の掃除をしてないからでしょ……。これから片付けしちゃおうよ、そのうち3人も来るでしょ。」


音狐はそう言うと部室の床に散らばった物を拾って整理し出した。

椅子に座って謎の本──彼女にとっては『暗黒魔導書』らしい──を開いていた夜緑さんも、音狐の様子を見てしぶしぶ手伝い始めた。

僕も先ほど途中だった大きめのものを整理していった。


あらかた片付け終わった頃に、


「ごめんなさい!遅れちゃいました!」

「悪い、遅れた。」


と言いながら矢廻よわり君と夏納かなさんが入ってきた。


「2人ともクラスでなんかあったの?」


入ってきた2人を見ながら、音狐が落ち着いた態度で訊く。


「俺はそうだ。学級委員を決めるのに時間がかかってな。」


そう言いながら矢廻君は夏納さんの方を見た。

それを受けてか、今度は夏納さんが口を開いた。


「自分はいつもの勧誘です!いいかげん止めてほしいのですが……」

「あぁ……美術の。」


それを聞いた音狐はどうやら察したらしく、それ以上追求しなかった。

むしろ切り替えて、


「残り1人……はぁ。門正かどまさか……。」

「闇の使者か。あいつ今日はこの神聖な集いてんもんぶに来るのか?」


音狐の心配を代弁するように夜緑さんが独特の言い回しで表現していた。


「ネコ殿、自分さっき階段のところで門正のこと見ましたよ。」


夏納さんがそう言ったかと思うと、


「おい、夏納!チクるなよ!」


の声と共に部室に入ってきたのは、門正君だ。

チクるなって……サボってたって言ってるようなものじゃないか。


「なんで自分からサボってたみたいなこと言ってんのよ……」


音狐が僕の考えと同じような事を言ってくれた。

とはいえ、僕としては久しぶりにこのメンバーに会えて嬉しいんだけどね。

そう思っていると、


「あ、でもオレはサボってただけじゃないぞ、伝言があるんだ。」


そう言って門正君はポケットから折り畳まれた紙を取り出して、開いて皆に見せた。


「もともとこの手紙だと、今日から部活できたんだけど、今日は部活無しに変更なんだってよ。」

「それ本当か?」

「門正がホントの事いうのって絵の感想ぐらいだし……」


なんだか、夜緑さんと夏納さんからかなり辛辣な当たりをされてるし……

でも、


「いや、それはオレも教室で聞いた。たぶんみんな早かったから連絡が間に合ってなかったんだろう。」


と矢廻君が切り込んでくれたので、この話の信憑性がグンと上がったらしく、


「矢廻が言うなら本当なんだろうね。」

「ヨワリ殿なら基本サボりませんしね。」

「フッ協力者パートナーなら信頼せねばな。」

「ヨミ、いいかげんそのあだ名やめてくれ、恥ずかしくなる……」

「あれ?オレ、あんまり信頼されてないの?」

「いや、そんなことないよ?」

「そう言ってくれるの東晴ぐらいだよぉ~」


一応門正君をフォローしてみたけど、効果は薄そうだ。

泣きついてきた門正君をなだめていると、


「よ、天文部の諸君。」


その言葉と共に顧問の蒼星そうせい先生がやって来て、


「聞いたかもしれないけど、今日部活無しになったから早く帰りなよー。」


と言い残してどこかにいってしまった。


「……帰ろっか。」


その音狐の言葉に、僕達はうなずいた。

みんな荷物をまとめ、部室を出る。

音狐が施錠して、


「今日の当番誰だっけ?」


と訊いた。


「あ、自分です!」


そう元気よく答えた夏納さんは鍵を受け取ると、職員室に戻しに向かった。

残った僕達は先に昇降口に向かう。

靴を履き替えていたら、夏納さんがやって来た。


「いやー間に合いましたね!」

「もしかして……走った?」


音狐の問いかけに


「いえ、大丈夫。走ってません!」


とこれまた元気よく答えた夏納さんだった。


帰り道を歩きながら


「いや~今日は疲れたなぁ~。」


と発した門正君に、


「門正君何もしてないよね。」


と僕がつっこむと、


「それ。」

「ホントだよ。」

「カドなんかしたか?」

「闇の使者は遅れてたじゃんか!」


と追加で総攻撃を食らっていた。

なんか悪いことしたかな。

そしてまた、泣きついてきた門正君をなだめたのだけれど。


なにはともあれ今日も6人で帰るのだ。

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