第十七話 それぞれの想い。

「偵察機に反応在り。敵意60%、小屋へ向けて接近中の存在十体感知」


「詳細に調べなさい」


「了解。解析精査開始。個体名該当無し、隊列陣形皆無、知能レベル低、接近速度40 km/h、彼我距離、対敵まで30秒ほど、姿形投影完了」


 ファイが木小屋周辺の情報を感知する。その口を除いてまったく微動だにしないままに。

 見る必要はないのだが一応自分が投影した映像に顔を向ける。


「一キロ離れた地点から突如敵意指数の上昇を確認。当小屋の発見に伴うものと思われます、到着予想時間は20秒後、侵入予想、意図的な肉体衝突により破壊された小屋側面の壁」


 映し出された映像には二メートルほどもありそうな凶悪な相貌を持った熊のような魔物がいた。手の爪は長く、切り裂くのにうってつけ、牙も鋭く尖り、硬い甲殻も噛み砕くのが容易だと思われる。


「先制攻撃を申請します」


「そうね、ただの森の熊さんの様だし、任せるわ」

 参謀総指揮という立場を与えられているニイアが彼方が居ない時の決定権を持つ。他の六人は特に役割がないのだが彼方がまとめるのを面倒がったのとカッコいいからという理由で適当につけたのだが、それを誇りに思っているニイアに、うらやましく思っている他の仲間。いつか役職をもらいたいと密かに全員が燃えていた。


「了解。対小隊兵装構築、先制攻撃用戦闘システム第二界Ee45S、〈サーマル・ティニアス〉起動。採用兵装名〈アルメ・ド・レール〉攻撃開始」


 何度も言うがファイは微動だにしていない。既に視界は念波接続による散布型原子級偵察機を通して実際に迫りくる敵、凶獣種〈牙爪熊〉を見ている。

 頭の頭頂部より少し斜め横についた円盤の様な機械の部分が多少発光し少しだけ動いているようだが、変化が起きているのは小屋の外である。ファイの言葉に合わせて突然空中に黒色の十字架型の機械が出現する。縦と横の棒が交わる十字の地点には丸いガラスの様なものが埋め込まれている、それが三つほど作成されると一気に移動を開始する。

 高速で牙爪熊の目前まで飛行する十字架。


 いきなりとてつもない速さで現れた謎の物体に一瞬困惑するが牙爪熊にそれが何かを推し量り対処する知能は無い。

 無視して走りだそうとする牙爪熊。音もなくその額が穿たれる。

 十字架のガラス部分から水色の光線が射出され、牙爪熊の鉄の様な体毛と硬い骨格表皮をものともせず貫き脳みそを焼き切る一撃。倒れたまま痙攣して小刻みに動く牙爪熊。脳の全壊、生きていられる生物などいない。高熱で蕩けた脳が脳漿と共に空いた穴から零れ落ち、凶獣種の敏感な鼻を刺激する。


 そんな仲間の様子に残りの牙爪熊が危険をようやく悟り、十字架に向けて長い爪を振るう、バチュン!と形容しがたい音と共に宙を舞う長い爪、十字架を襲い振るった爪は即座に焼き切り飛ばされ、切り口が高熱で赤くなり多少融解している。


「ぐるぅ…!!」


 唸る牙爪熊、何が起きているのか獣の頭では理解できない。そもそもこの世界にレーザーなどという概念は無く、魔法の光線ならばあるが熱はもっていない。ファイの使用している武器がレーザーだから熱を持っているというわけでもないのだが。

 爪が迫った瞬間、十字架から長さを固定された光線が伸び、その状態のまま一回転して爪を切り飛ばしたのだ。


 間髪入れずに三つの十字架が牙爪熊の間を飛行し次々と光線を放っていく、同時に肉が焼ける匂いをあたりに立ち込める。たった一撃をもらっただけでもその絶対的な貫通性、そこに傷を塞ぐものは残らない。一部臓器は焼き消し、血は流すよう指向性を持たせた高熱を範囲限定で熱線に持たせる。

 次元が違いすぎた。たかが熊が挑む相手では無かった。弱肉強食という言葉すら当てはまるのか疑わしいまでの絶対的差。

 立ち向かうことも満足にできない圧倒的虐殺。何が起きたのか理解できた牙爪熊などいないだろう。


「敵性体の排除を確認。兵装解除します」


 何もなかったかのように消え失せる十字架。ここまで五秒ほどの出来事である。

 終わりました、とニイアに報告するファイ。


「知性が無くては配下に加えることもできないものね、選別は大事だわ」


「知性の無い生命体の排除は当機の独断で可?」


「一応私が見て判断するわ、中には面白そうなのもいるかもしれないからね」


「了解」


「ところで高熱で傷口を焼いているのに血が流れるのはなぜなの?」

 窓から熊をが排除する様子を見ていたニイアが疑問を呈する。


「当機が射出しているのは可変性有意思体です。詳細は省略しますが仮称熱線が通り抜ける敵性体背面側で高熱を発生、臓器を焼きます。以降通常温度のものを射出し前面側は損傷付与にとどめます。他にもやり方は多数ありますが」


 そんな木小屋と牙爪熊の死体とを交互に見比べ首をひねる存在が遠く離れた位置にいるのだが……、敵意が無かったためファイの検問には引っかからなかった。

 相手側からしてもファイには闘気、オーラの類は一切ない機械体なので実力を推し量る術が余計に無いのだ。


 そうこうしているうちに彼方等が帰ってくる。


「ただーいま。なんとなくそれっぽいところ見つけたよ」


「おかえりなさいませ、彼方様。それでは移動を開始しますか?」


「そうだね、ちょうど人間三国が上下左に一個ずつならんでるでしょ、私が国作ったらその右側になるから結ぶと十字架みたいな配置になっちゃうけど」


「母様……帰ってきたっ」

 ひしっ、と抱き着くレイナスの頭を撫でてあやす。それを見て負けじとニイアが横から抱きしめる、なにそれっ、とアニマと鈴鹿が急いで抱き着き。

 あれ、なんだこれ。と真顔で全員をあやす彼方であった。




――アドリアーネ宿屋。


「歌鈴、か……」

 宿屋への帰り道、クラッドは先ほど勧誘に来た歌鈴の事ばかり気にかかっていた。

 どのくらい修行したら倒せるようになるのか、すでに倒せるほどの力を自分は手にしているのか、と。


「とりあえずもっとスキルを取得したり経験値をためねーとな」

 ぼやきつつ、借りているベリトの部屋の扉を開ける。


「クラッドさん、なにしてたんですかね。こっちが大事な時に…」


「ああ、帰ってきてたんですかみなさん……え、なんですかその二人?」


 クラッドが帰ってくるとメンバーが増えていた。

 ベリト、マリー、ユーリウスに加え満身創痍のエルフの女、更にはハーピィが一匹。マリーとは初対面だが作戦会議の時点で呼ぶと言っていたし、有名な二つ名のため顔を知っている。


 エルフはソフィアが呼ぶと言っていた友人なのであろうが身体の状態が異常である。片足は焼かれ炭化しているうえに足首から先が無いし、両手の指もかけている。右手なんか指が全部ない。

 がたがたと小刻みに震えていて青ざめた顔、それが一番異様なほどに何かに怯えている。

 そんな姿に気おされるクラッド、一体何があったのかと。


「儂らは今からエルフの国へいってくるぞい、お前はいつもどおり宿屋で待機しておれ」


 あまりの惨状に一瞬頷きそうになるが、はたと自分が手にした力の事を思い出す。にやりと笑うクラッド。今までの俺じゃない、新しいスキルを手にした今一緒に行動できるんだと示すいい機会だと思った。


「ユーリウスさん、俺新しい力を手に入れたんだ。スキルなんだが。かなり強いんだ、もう肩を並べて戦えるようになったんだぜ、見てくれればわかる」


 その言葉に話もろくに聞けそうにないエルフと事情の知らないハーピィを覗いて全員がぽかんと、何言ってんだこいつという顔を隠しもせずに向ける。

 それも当然、ランク2程度の冒険者が数日でいきなり二つ名と肩を並べられるなどと在りえたことではないからだ。劇的という言葉ですら控えめなほどにおかしな話。


「えーっと、なにいっとんの?、儂らいそいどるから……のう?」


 その態度、当たり前とはいえ少々不満なクラッド。見せるしかないか、その方が速いな。と剛鬼と剛骸のスキルを使用してその闘気を解放する。さらには見せびらかす様に換金した残りの持ってきていたセントールの蹄と突角亜竜の角を見せる。


「昼間狩ったんだ、平野に出向いてな。どうですか?なんなら俺に魔法撃ってみてくださいよ、耐えて見せます!」


 その後もぺらぺらとスキルについて説明しなんとか同行したいと駄々をこねるクラッド。

 そんなクラッドに困惑と訝しみの視線を送る一同、確かに溢れ出る闘気はかなり強いものに感じられる。セントールや突角亜竜はそんなに強い魔物ではないが出会った頃のクラッドならば確実に返り討ちにされるであろうレベルの魔物である。


 そんなクラッドの話を聞いて目を細めるベリト。

 やはりこいつは何かおかしい、目をつけられているんじゃないだろうか、と。

 スキルの付与は神の祝福でしかありえない、それは理解しているがなぜこのタイミングでなぜこの男にそんな強力なスキルが贈られるのか不思議で仕方ないし、奇怪な現象であるとまで言える。

 ベリトはうすら寒いものを背筋に感じながらこの男を保護し研究することを即座に諦めることを決断した。確かに色々とラツィオやリンドホルムの件について引き出せるかもしれないが今はもう新たな手掛かりも入手している、それになによりこの男といるのは危険だと、このまま近くに居てはろくなことが起こらないと本能で自分が感じ取っているのではないかと思った。。

 この男がそうだとは断じないが、運命の神から不運の烙印を押された人物も過去にはいた。その者含め周囲は必ず災厄に見舞われたのだ。

 それと同レベルの様な不気味な何かを感じたベリトはこの際だからエルフを押し付けて自分たちから離すと同時に厄介な事柄を一つ終わらせようと画策した。


 それに直観を抜きにしてもこの男からはもう何も得ることはないだろうと考えている。


「わかりました、それでは大役を任せますね。この負傷しているエルフさんをエルフの国まで連れて行ってあげてください。治療のためです」


「ちょっと!!、こんな男が守れるわけないじゃない!あの……、あの、剣士から……う、おぇえ…っ」

 思い出しただけで吐しゃ物をまき散らすエルフのリーナ。救出に入ってからずっとこの調子だ。


 はぁ、と溜息をつくベリト。自分の部屋を汚されたからではない。これまでの経緯を含めてなぜこんなことになってしまったのかとうんざりしているのだ。



 ヤナの森での出来事……。


 ユーリウスと別れたベリトは、見つけたハーピィこそ真に迫る手掛かりであると信じて飛び出した勢いのままハーピィの前に降り立つ。周囲に罠や伏兵が居ないことは感覚でわかっていた、それでも罠の様なあからさまな状況やタイミングであることも。


 それでも自分含め二つ名が三人もいれば戦力で後れを取ることは無いと思っていたし、きっとユーリウスが考えているであろう、森の事を考えて大規模魔法は使えないというのも気にしなければいいだけの話。森など後からどうとでもなると計算し、いざ混戦になったらユーリウスの時空間魔法で状況をリセットすることも可能だと考えていた。


 そこまで考え相手を見据える。近くで見たハーピィの身体はとても綺麗だった。美しいわけではない、健康的というか生命力にあふれていた。


「こんばんはハーピィさん。トリノの生き残りという事で間違いありませんね」


 まず感じたのは違和感。鳥龍大戦での生き残りの割にはなぜそんなに活力に溢れ、無傷であるのか。

 さらにその目。とてつもなく獰猛、なにかしらの野心を含んでいる目をしている。

 勿論トリノの生き残りならその復讐心に燃えていてもおかしくはないが。


「どうしました?なぜこんなところに?他の仲間の元へはいかないんですかね」


 言葉を紡ぎながら合間に汎用スキルの発動と魔法術式の構築を終えていく。


「トリノの生き残り?どういうことかしら?」


 知らないのか、誤魔化しているのか。


「ここへはどういう経緯でこられたんですかね」


「あなたは誰よ、なんで聞くわけ?怪しいわ」


「俺は連理のベリトです、トリノの件含めていろいろと調査を依頼され調べまわっているんですよ」


 あまり森に長いして夜になって欲しくはない、視界が不確かになるのは面倒だから。何かを探すにも戦うにも。

 こちらの情報をもっと開示したほうが話すか、と思案している間に背を向けるハーピィ。


「貴方に用はないのよ、じゃあね」


「待ってください、今ラツィオ周辺で様々な事件が起こっています。その手掛かりになる情報を貴方が持っている可能性があるので、話を聞かせてもらえないと帰れないんですよね」


 その背に投げかけられた言葉にキルシーは考える。

 豊穣の森グリムで彷徨い、魔物との戦いでひん死になっていたところ蛇に助けられ、神翼様の仲間からの贈り物というスキルをもらい、さらに自分が追い求めている人物は神翼様ではなくアニマ様という名前だという事がわかった。

 しかしその居場所までは教えないという、さっそく新しいスキルを使って蛇を倒し聞き出してやろうと思ったキルシーはしかし、蛇にかなわず仕方なく自分で探索するべく再び彷徨う事を決めたのだが、自分の貰ったスキルの性質上、いったん弱い魔物がいるところへ行って力をつけてからの方が良い、むしろそうしないとまたひん死になって探す効率が悪くなると判断し、グリムを戻りながら、右に進んでいたところヤナの森へ出る。そこらの魔物を喰いながら、彷徨っていたところベリトが話しかけてきたのであった。


 ……ラツィオ周辺の事件、トリノの生き残り……?


「トリノは今は無くなってしまったの?事件って?」


「興味示してくれましたか、実はですね――」


 ベリトは殆どの情報をキルシーに話した。隠すべきことは隠したが殆ど事件の全容をお互い共有することとなる。


「……ということは俺たちが追ってるのは同じ龍人らしいですね。急で済みませんが参考人として同行、というか一緒に探しませんか?」


 そんなベリトをキルシーはまるで信用していなかった。嘘くさい男とさえ思っていたが、探しているところは同じらしい、ならばそれを利用するしかない。手数があった方がアニマ様への近道になると思い、同行することにした。

 勿論、ベリト側の目的はアニマの捕縛か討滅なので見つけたら後ろから攻撃でもしてアニマ様への手助けをして仲間に加えてもらおうと考える。

 ちなみにトリノが壊滅し、自分が唯一の生き残りであることには多少驚いたが、きっとそれだけの事をやってのけるのはアニマしかいないと考え、乗り越えることとした。

 ただ時系列的にアニマがやったとするとキルシーはかなり見当違いなところを探していたのだが、そのことに気づいたキルシーは内心舌打ちする。


「勿論いいわよ。しばらくの間、よろしくね」

 

 

 ……と、ここまでは順調だった。


 そこでユーリウスを呼ぶリーナの叫び声を聴いてベリトは一目散に飛び出す、もちろんキルシーが後をついてくるのを確認しつつ、キルシーの見張りは後から遅れてきたマリーに任せ、声の主を探しだす。


 駆け寄ると外傷はそこまで重症ではないものの恐怖や疲労からか発見と同時に倒れ伏すリーナ。

 ベリトは治癒魔法は使えないので光源を作りユーリウスを呼ぼうとしたところで、本人が駆け付けてくる。

 ベリト等を見て質問は後にし、急いで戦域から離脱するべく飛行魔法を使って飛び立ち、飛べない者は抱えられて夜空を飛ぶ。


 一番近いラツィオにつき、シュトルンツォに事情を報告。すると同時にリーナの応急処置を終えて再び移動、アドリアーネに向かい、宿屋へ到着したのだが……。

 移動の途中もトラウマが甦るたびに騒ぎ、時折嘔吐するリーナの世話には辟易していた、さらに身体欠損を治す術があるからエルフの国へと連れて行ってくれと頼まれすごく面倒くさいと三人は疲れ果てている。ただ情報源として行動を共にしているだけのキルシーは責任も義理も一切ないので気楽そうにしているが…。


 

 いつにもまして面倒な依頼だと、ベリトは目頭を揉んで気持ちを仕切り直す。


「儂もエルフの国はあまり行きたくないがのう、臨時とは言えパーティを組んだんじゃし、面倒見ないわけにはいかないがな」


「そ、そうだ……ソフィアに来てもらうからいいわ。クラッドも強いっていうのなら盾の代わりくらいにはなるでしょうし…」


 酷い変わりようだ、エルフはプライドが折れると一気に気持ちが転落すると聞くがここまで酷いものなのかとベリトは若干引き気味に様子をうかがう。


「確かに体の状態はそこそこ酷かったですけどね、そんなに怯えるほどなんですか?、話から察するにおそらく、あと一歩のとこでラツィオの騎兵団長が逃げられたエンビィという剣士だと思うんですけどね。その騎兵団長の能力にも穴がりますし俺でも勝てます。リーナさんの実力は未知数ですけどそこまでなんですかね」


「エルフが魔法を最適距離から無防備な相手に打ち込んで、かすりもしないのよ?、そのうちいくつかは不可思議な魔法か何かで消されてしまうし、それなのにこっちは宣言されたところが宣言通りに切り取られるのよ?、あんなのもう会いたくないわ……」


 ふむ、魔法に絶対の自信と信頼を寄せるエルフが一切魔法で干渉することすらできず、魔法の祖と名高い使い手が逆になにか解らない魔法で魔法を弾かれたともなれば、プライドも砕けるものか。

 と納得するベリト。


「ちょいまて、その剣士は方法はわからんがとにかく早いんじゃろ?気づかぬうちにやられるってソフィアと相性最悪じゃろうが。人類の英雄をむざむざ殺すことになるぞい」


「私の能力もむいてないね」

 ぼやくのは黙って話を聞いている背反のマリー。


「不落を呼びましょう。そして状況説明などをクラッドさんに託します、その後リーナさんを連れて三人でエルフ国へ出立してください、俺らはその間、国王への報告などで忙しくなりますので」


「そ、それなら……それでいいわ。その人なら一応面識あるし」


「ではそれで」


「んじゃ、まだ儂はそちらのキルシーさんの話は聞いておらぬが、国王へ報告するときに一緒に聞くとするかの。んで情報まとめたら大臣含めた本会議じゃな」


 ……国王ね、つまりこの国自体がアニマ様を追ってるってことなのね。大丈夫かしら、いざとなったら私が身を挺さなければならない時が来るかもしれない。強くなっておかなきゃ……。

 キルシーは密かに決意を固める。


 ……エルフ国までの道中、二つ名にアピールするチャンスかもしれない。なにかしら便宜を図ってくれるようになるまで親密になれるといいんだが、まだあったことのない名前だからな…。

 クラッドは密かに野望を抱く。



 もうこいつらの事は放っておこう、不落さん面倒かけます。とベリトは密かに同僚を憐み。

 ユーリウスは老いた老いたと思い、後輩の教鞭に力を入れていたが秘めていた闘志が再び燃えてくるような感覚を味わっていた。

 小手調べ程度とはいえそれなりに高位の魔法が通じなかったというのは、老人の心を躍らせた。生涯かけて培ってきた、作り上げてきた己の魔導をどこまで無力化できるのか、あの少女は。と思わず口角を上げている。


 それぞれ複雑な想いを抱くベリトの部屋へどたどたと走る音がする。


「リーナっ、帰ってきていたのですね。お疲れ様です……ひぃああぁああっっ!」

 

 リーナの身体を見て泣きながら気を失うソフィアであった。

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