懐かしい思い出

恋咲さんが学校を後にしてから五分が経過する。暫くその場に立ち尽くしていた私も、ゆっくりと歩き始めた。不意に、湊人の言葉が蘇る。


『––––もう、俺に関わるなよ』


思い出したくない言葉。でもその言葉を拒めば拒む程、頭の中でリピートされてしまう。


…どうしてこうなっちゃったの?


本当は、離れたくなかった。1番失いたく無い存在だった。湊人を追いかけて、楽しい学校生活を思い描いて、高校に入ったはずなのに。


「こんなはずじゃなかったのに…」


嘆息すると、通学路の途中にある公園に視線を移した。オレンジ色の夕日に照らされているこの広い公園は、幼い頃に湊人とよく遊んだ場所。今でも鮮明に覚えているのが、遊具に乗った際に起きた出来事。


私と湊人は公園にあるブランコが好きだった。湊人は幼い頃から体を動かすのが大好きで、よくブランコが揺れている状態で飛び降りて遊んでいた。実際に私も湊人の真似をしてブランコから飛び降りた事が一回だけあったのだが、運動が苦手な私は案の定、転んで大泣きしていたのを覚えている。でも、そんな私に湊人は当たり前のように手を差し伸べて、優しく接してくれたのだ。もう何度湊人に助けられたのかわからない。


…本当に懐かしいな。


幼い頃の記憶を辿り、私は肩を竦めるとブランコに腰を下ろした。初夏の香りを乗せた風が優しく吹き、公園一面に青く茂る草を柔らかく揺らしている。その風は今の私の心を慰めてくれているように感じた。


願わくば、また湊人と小さい頃の様に笑い合いたい。ずっと、一緒にいたい。そう思いながら小さくため息をついた時。


「あれ、もしかして雪音ちゃん?」


不意に、声が聞こえた。声の出先を見ると視線の先に学校指定のカーディガンを緩く来こなした男子が立っていた。確か、湊人と常に一緒にいる西谷瑠衣也にしたにるいやくんだった様な気がする。湊人とクラスは違うものの、中学の時部活が同じだったからか2人とも仲が良いのだ。


「え…?今日は湊人と一緒じゃないの?1人?」


「いや…うん。なんか一緒に帰ろうとしたら今日は1人で帰りたいとか言っててさ。なんかいつもと様子が違ったからそっとしておいたんだ。詳しいことは聞かずにね」


「…っ、やっぱり」


「ん?雪音ちゃん?」


「それ、私が原因かも…。今、湊人との関係が崩れていっちゃって…」


視線を地面に落とす。無意識に握りしめた拳に力が入った。そんな私の姿を見た瑠衣也君は何かを察したように一瞬だけ表情を変えると、静かに言葉を発した。


「あの、言いたくないならいいんだけど。もし言えるんだったら…湊人と何があったのか教えて貰える?…何かあったんだよね?」


遠慮がちに尋ねる瑠衣也君。多分私を気遣ってくれているのだろう。瑠衣也君の言葉を聞いた時、今まで1人で抱えていた悩みが少しずつ溢れていった。


「あのね、実は––––」


昼休み、そして放課後に起きた出来事の顛末をなるべく簡潔に瑠衣也君に話す。真剣に話を聞いてくれている瑠衣也君を見ていると、胸の内にのしかかっていた不安や悩みが軽くなっていくのを感じた。


「…放課後湊人にもう関わるなって言われたんだ。…その言葉が湊人の本心だったらって思うとこれから湊人にどう接していいか分からなくなっちゃって…」


先の言葉が思い浮かばず、私は言葉を切るとそのまま口を閉ざした。


「成る程。…でも、その言葉は湊人の本心じゃ無いと思う。湊人はああ見えて意地っ張りだからな。少し幼い所があるんだよ。俺が言うのもなんだけど、男子って思って無いことを言っちゃうんだよな…」


呆れたように笑うと優しく私の頭に手を乗せた。


「雪音ちゃんはそんな深く考えなくて良いと思うよ。色々あると思うけど頑張れ。…俺が湊人にガツンと言っておくから」


「え…あ、ありがとう」


突然のことに戸惑いつつも私が取り敢えずお礼を言うと、瑠衣也君は軽く微笑んで公園を後にした。不意に吹いた風が私の髪を揺らす。初夏とは言え、日が沈むと少し肌寒い。私は足元に置いていたカバンから薄手のカーディガンを取り出すと軽く羽織って家へと向かった。


____________________

《作者から》

本当にごめんなさい!(T ^ T)更新遅くなりました…。1ヶ月ぶりです。早いなぁ1ヶ月。

無事高校の文化祭も終わり、テストもつい最近終わったのでこれからはもっと早く更新できると思います!


まだ雪音の友達である美那の過去も明らかになってませんね…。でも後少しで明かせると思います。そして新キャラの登場。これから物語が大きく動いていきます!見ていただけたら幸いですm(_ _)m

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