第8話 新人戦

 ついに新人戦初日、部長の大平はなんとか13~16シードに引っ掛かっていたから予選はないけど、他の11人は予選からの出場だ。

 勝ち抜けば10日間にもわたる長丁場になる。

 みんな緊張していたけど、試合の無い大平が一番舞い上がっていたのには笑った。

 

 二年生は予想通りぐんぐん実力をつけてきたノッポの熊井が長身を生かしたスケールの大きなプレーをして予選突破し、ついにダイエットどころかあの連日暑い中できつい練習をしたにも関わらず体重を増やしてしまった須藤も強引に予選突破した。

 初めての試合の一年生達も夏休みのハードな練習を一緒に頑張ってきた成果が表れて善戦していた。

 リンに関してはどこのスクールにも通ってなく、本当に初めての試合だったから、実は一番心配していたのはルールをイマイチ理解しきっていないことだった。ちゃんと教えたんだけど初めての試合の中で舞い上がるなって言う方が酷だよ。

 セルフジャッジという中高生には当たり前のシステムもリンの混乱の元になった。だって野球は審判の判断は例え間違っていても絶対なんでしょ?それをプレーヤー自らが判断して勝負を決めるんだから。


 キョロキョロ落ち着きなく俺達を探して不安な目を向けるけど、野球と違ってタイムをかけて伝令を送ることもムリ。

 俺達は声援することしかできないし、自分でなんとか切り抜けるしかないんだ。

 でもなんとテニスラケットを初めて握って僅か5か月に満たないリンのやつが一年生で唯一本戦出場を決めやがった。

 オレ達が陣取っていた応援席は大興奮だった。顧問の西口なんか興奮してひっくり返っていた。


 オレを除くと僅かに部員が12人しかいないし、大平以外はスクールの経験もない我らポンコツテニス部が本戦出場64人の中に4人も残っているのは快挙だった。


 大平はシードだったから、強えーやつらと当たるのは2回戦以降になるし今回はかなり期待もしていた。

 組合せ表を見たら熊井と須藤は1回戦は知らないやつで予選からの勝ち上がり組、ところがリンの相手はオレも苦手としている3~4シードの矢島マイトだ。

 こいつは別名「矢島ダイナマイト」と言われていて、とても中2とは思えないゴツさで腹筋はバキバキに割れ、腕はリンの足の太さぐらいあってオヤジみたいな顔をしている。

 オレとの対戦成績もオレがリードしているけど、それは小学生の頃の話。あいつが中1の後半あたりから急に体が大きくなり始めてからは1勝1負。ツボにはまった時のパワーは手がつけられない。とっととプロレスか相撲部屋に行ってくれよ!と、心から願っていた。


 リンは終わった。そう思って勝ち上がって来るだろう大平の対戦相手の対策を二人で練っていた。

 

 いよいよ本選の日。

 須藤はやはり走らされて本来の強打が生きず1回戦負け。だからあれほど痩せろと言ったのに。

 ビッグサンダーチョコを食べながら悔しがっていたから慰めるのはやめた。

 熊井は同じ予選から勝ち上がってきた相手に一度もサービスゲームを落とさず6-3で快勝。良いぞ!

 大平も問題なく1回戦を取った。


 リンの試合前に矢島とすれ違った。

「あらら、萩原じゃん久しぶり。まだダメなん?今回はさらにパワーアップした俺のプレーで勝負したかったなあ~。この大会で俺が寺田ヒカルを破って初優勝しちゃうかもな」

「うるせー調子こいてんなよ。治ったら相手してやんよ」

そうは言ったもののまた一回り大きくなって厚みが増した矢島を間近で見て、正直あまりやりたくないなと思った。 


 いよいよリンとの本戦1回戦が始まった。

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