第27話 蛇と感染者

 魔王の上に円が広がる。いや、よく見るとその円は黒い靄が広がり遠目から円に見えているだけのようだ。


 魔王は先程まで撃とうとした黒い玉を止め自身の頭上に現れたその靄を注視する。


 靄は徐々に大きくなりやがて一匹の巨大な蛇を形作った。その蛇は靄だけでなく小さな蛇を無数に集めたものなのか輪郭が定まらず表面は蛇が蠢いている。


 蛇は口を開け下へ落ち始める。


 その下に居た魔王は迫る蛇の口へ止めていた黒い玉をすぐ上に居る蛇へ定め撃つ。


 黒い玉が蛇へ当たると蛇は形を崩しばらけ再び靄へ戻る。黒い玉は止まらず蛇が出て来た靄の円に向かうが散っていった蛇の靄が徐々に黒い玉を覆っていく。


 魔王は最初勝ち誇ったように笑い蛇が散ったあとこちらへと向きを変えた。


 「ハッ、邪魔が入ったがあの程度か!!次は貴様らだ!!消えろゴミ共がぁ!!!」


 魔王は嗤う後では黒い玉が靄に呑み込まれ再び蛇を形作っていることに未だ気付いていない。


 「どうしたゴミ共!!さっさと鳴け!喚け!命乞いをしろ!この俺に恐怖しろ!!どうせさっきの蛇見たいにかき消すけどなぁ!!」


 魔王はまだ嗤う。そのすぐ後まで蛇が迫っているのに。王都の人々は確かに恐れていた。魔王を。だが今はそれよりも魔王の攻撃を受けてなお復活した蛇に対し絶望を見た。


 王様もその蛇を見ていた。魔王よりも蛇を。王様の心境も、王都の民の心境も、そして王城へ来ていたショウもシオンも魔王ではなくその後の蛇を見ていた。


 魔王はいつの間にか手に先程と同じ大きさの黒い玉を造っていた。そしてその玉を王城へ撃つ直前、黒い玉に最大量の魔力が込められた時、蛇は口を開け一瞬で魔王を呑み込んでしまった。


 蛇はそのまま動かなくなり今度はその頭の部分から黒い人方の靄が出てきた。それは蛇と違い輪郭がはっきりとし始め徐々に知った顔に変わっていく。そこに居たのは村神だった。


 王都の民は未だ何が起こっているのか理解できて居なかったが、王様はその人方が村神であると気づき話しかける。


 「お主は勇者のムラカミ殿…か?」


 「ん?…あれ王様?これはこれはお久しぶりです。どうかされましたか?」


 村神は何でもなかったかのように話す。王様は村神のあっけらかんとした対応に動揺しつつその蛇について聞く。


 「ムラカミ殿…その蛇はなんなのだ?」


 「何と聞かれても一人になったあと色々あって手に入れたスキルだとしか言えないのですが」


 王様は邪神についても聞く


 「ムラカミ殿は邪神を復活させるつもりはあるか?」


 「邪神?そんなのもいるんですか?戦闘狂では無いのでそういうのは遠慮したいですね。」


 王様はその返答に困ったがいつまでも民のほうまで放っておく訳にもいかず勇者によって魔王が討たれた事を宣言する。


 「王都の民達よ!魔王は勇者によって討たれた!あの蛇は勇者のスキルである!これからは魔王軍の侵攻に恐れることはない!魔物も魔王の力が無くなり徐々に衰えていくだろう!これからは我らの時代だ!恐れるな!魔王に奪われていた平穏を再びこの地へ!」


 王が宣言すると数秒の間が空く。しかし徐々に魔王が居なくなったと言う事実に突如大きな歓声が広がる。


 うおおぉぉぉぉおおおお!!!


 ショウはその歓声の中いつの間にか隣に来ていたシオンとラフィにもたれかかってしまった。ラフィは顔色を悪くして村神を視ていた。シオンはショウの心配をしている。


 歓声の中、村神はある一点を見つめていた。女神であるラフィを。村神は徐々に下へ降り蛇を消す蛇は靄となり村神へ取り込まれていった。

 

 歓声が止まらない。魔王の脅威が無くなった事と先程の蛇が勇者のものである安堵。周りの人間は泣いている者や叫んでいる者もいる子供達も喜んで外を走り回っている。


 村神はそんな中ショウの前まで歩いてくるとラフィが間に入り王様とはまた別の質問をする。


 「まって、貴方は邪神では無いのよね?」


 「邪神がいること自体初めて知ったのだけど?それよりも貴方は女神なのか?」


 村神は女神である確認をする。


 「そうよ、貴方の中に邪神がいるかもしれないの、少し動かないで貰えるかしら?すぐにそいつを封印するから。」


 村神は驚いているのか目を開き少し間をとると了承した。


 俺はその様子を視ているしか無かった。


 「それじゃあ動かないでね。すぐに済むから。」


 ラフィは村神のそばへ近寄る。ラフィが村神に手を伸ばしたとき、村神の体から靄が現れ蛇の頭を形作る。


 それを視たラフィは急ぎ村神の体に手を伸ばすが間に合わず蛇の口に呑み込まれてしまった。


 俺は何が起こったのか理解できずにいたが、突如頭に激しい痛みが襲う。その痛みに対する叫び声をあげるまもなく俺は気を失ってしまった。ただ失う前に、


 「…なんだ、本体はそっちか…」


 と、俺を見ながらつぶやいたことだけ聞いた。


 魔王はこの日、討伐前に総て居なくなってしまった。そしてそれと同時にこのときラフィとムラカミが消えたことに気付く者もシオンとショウ意外には居なかった。

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