***

幕間 みにくかったアヒルの子

 彼女には、年の離れた兄がいた。

 いつも明るく、笑顔の絶えない、誰にでも優しい兄を彼女は慕っていた。

 そんな兄を両親はとても可愛がっていた。しかし、妹の方はあまり可愛がられなかった。

 段々と、その差が開いてしまった頃、兄は不治の病に罹ってしまう。

 どうして、優しい兄が。どうして、優秀な兄が。

 どうして、どうして、どうして。

 兄の病を治す力など、少女にあるはずもなく、日に日に衰弱する兄を見て悲しむしかない。

 母も父も、気が狂っていた。

 可愛い兄が助からないのに、どうして可愛くない妹が平穏無事なのか。分からない。

 母の暴力と父の無関心は少女の心を殺すには充分だった。

 どうして嫌われてしまうんだろう。

 どうして好かれないのだろう。

 どうして無力なんだろう。

 どうして生きているんだろう。

 どうして生まれてしまったんだろう。

 尽きない思い。どれが本物の思いなのか、悩みなのか、分からない。

 それでも、兄だけは妹を大事に思っていた。


「お前は醜くなんかないよ。僕の、可愛い妹だよ。智夜子」


 その声は、遠く彼方へ。

 夜空を眺めては、いつも思いを馳せる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る