彼氏彼女部。

ソウナ

第1話

「ねえ、彼氏彼女の関係って、

部活動みたいなものだと思わない?」


彼女は電話の向こうでそんな風に言った。


「……部活動?」


彼氏彼女の関係のあれこれは、

いろいろな要素をたくさん含んでいるから、

別になんだって例えられるじゃないか、

と思いつつも、なんだか面白そうな気がした。

なので、少し興味を引かれてるような

高めの音(多分D#4ぐらい)で疑問符を付けて、

僕は聞き返した。


「そう、部活動。例えば、君は私に告白したじゃない」


「そうだね、そんな時代もあったね。

きっと笑える日が来るね」


「それはいわゆる一つの勧誘なの」


中島みゆきの「時代」を絡めた発言は華麗にスルーされたが、

大丈夫、僕はそんな事には慣れている。きっと。


「勧誘、ねえ」


「そう、君という部活動に入れば、

こんなに楽しいことがあるよ。

だから入部して一緒に汗を流しましょう!

まあ、そんな感じね」


「汗を流す、ねえ。なんかやらしい気が」


僕と同じ考え方をしたと思われる読者は、

少し反省をすると良いと思う。僕と一緒に。


「分かりやすく運動部っぽくしたの! 他意はない。

まあともかく、私はそれに若干の不安を覚えつつ、

なんかまあいっか的なノリで、

入部届けに名前と住所と携帯のメールアドレスを書いた」


「きっと誕生日を書く欄とかもあるんだろうね」


「まあ大会みたいなものだし」


「ある意味全国大会だよな」


「全国大会は違うわよ。それはクリスマス」


「そうっすか」


「そして晴れて部活動に入った私たちは、

当然時間を共有して練習みたいなものをはじめる。

それがいわゆるデートって奴ね」


練習、というと若干の違和感を覚えるが、

はなからこじつけなのは分かっていたので、

そこを追求するのはやめた。


「それは部活によって活動時間が違うわけだね」


「そうそう、毎日熱心に練習している部活もあれば、

一ヶ月に一度ぐらいしか、活動していない部活もある。

そのあたりは部活ごとに違うのだけれど、

時々そこで衝突が起こる」


彼氏彼女部の活動に置ける、第一の難関だ。


「『私はもっと熱心に練習する部活だと思ってたのに!』とか

『忙しいから練習は週一にして欲しい』とかな」


「そうそう、入部パンフレットには、

そのあたり詳しく書いておいてくれないと困るよね」


「大抵書いてあるけどね」


「高校とかはだいたい嘘はないけど、

大学のサークルとかは酷いものよ。

最初は優しく接して練習も厳しくないとか言って、

入部するととたんに先輩には敬語、

練習も週五で球拾いばっかりやらされるとか。

そういうのって、甘い言葉ばっかりはいて付き合って、

浮気したり暴力を振るう最低な男みたいなものよね」


「僕の部活はそんなことしないけどね」


「でも練習が不定期なので、

マネージャーさんはスケジュールを把握するのが大変です」


「そこらへんは俺も忙しいんだよ」


「……そんなんで全国にいけると思ってるの!?」


「全国に行く気!?」


「もっとスケジュールを簡潔にする努力をして。

スケジュール把握って結構大変なのよ」


「なんか敏腕マネージャーみたいだね」


「手帳に書いた後それを google calendar と、

携帯のスケジュールに写すの結構骨なんだからね」


「な、なんかすごい無意味な事してない?

どれか一つで良いじゃん」


「手帳はよく忘れるし、携帯はよく充電が切れる」


「充電器を買えよ」


「いやだ、単三乾電池って私なんか嫌いなの。

鞄に入れておくと鞄が水銀臭くなる」


「なりません」


「それはともかく。一週間後はなんの日か覚えてる?」


「ええと、初音ミクじゅっしゅうね……」


「怒るよ?」


「悪い悪い、ミクは終わったから鏡音リン・レンの……」


「キレルヨ?」


「君の入部から、一年と半年記念日」


365日って半分に割れないよなあ、

と昔は思っていたが、

どうやら半年=六ヶ月という考えらしい。最近知った。


でも勇気のある読者は、

一年と半年記念日を忘れた事を怒られたときに、

いや、明日だよ。だって365日って割り切れないじゃん。

と言ってみて欲しい。

そして彼女の反応をA4一枚のレポートにして送ってくれ。

できれば形式は LaTex で書いたPDFがいい。

まあ Word でも許すけど。


「そうそう、とても重要なイベントだからね」


「これって部活に例えるとなんなの?」


「まあさしずめ夏合宿って所ね」


「じゃあ海を見ながら女の子に恋愛相談されて、

そのまま抱きつかれたりして、

惚れられたかもって思って次の日、

その子と目が合った時つい目をそらしてしまったりとか、

そういうこともあったりなかったりするの?」


「妄想力に溢れてるわね。

神様はどうして、あなたのその妄想力を、

もうすこしプレゼントのセンスとかに

割り振ってくれなかったのかな?」


「多分神様も適当だったんだよ。

ドラクエ3の三周目をはじめるときに、

勇者盗賊遊び人遊び人でやってみっかーぐらいな、

それぐらいのノリで俺を招集したんだよ。

ルイーダの酒場とかで」


「かわいそうに、ラックのたねしか

使ってもらえなかったのね」


「運のよさは人生において重要なステータスだと思う」


「じゃあ、メソメソのたねとかかな。

あなたのしょぼさが1あがった、みたいな」


「ほう、君は僕に喧嘩を売っているんだね?」


「とりあえず、来る夏合宿の準備よろしくね、期待してる」


ああ、また僕任せか。めんどくさ。


「了解、飲み会で飲み過ぎて、

幹事に洗面器を顔に当てられないように気をつけます」


「よろしい、では次の練習で会いましょう」


「じゃあね」


「じゃあまた」


そうして彼女は電話を切った。


彼氏彼女部、夏合宿、そして全国大会。


全国って、何を競うんだろう。

僕はクリスマスに「全日本幸せカップル選手権」が

行われているところを想像してみた。

多分胡散臭い司会がわざとらしい声で煽るんだろう。


そして決勝戦のお題はプレゼント。

恋愛のプロとか言われている審査員が三人ぐらいいて、

それぞれ「金額」「気持ち」「オリジナリティ」といった

三つの評価項目に関してポイントを割り振る。


なるほど、確かにあれは全国大会みたいなものだ。

比べたくなくても比べられるし、

その子自身にも独自の基準があるだろう。


でもそこで優勝したらいったい何がもらえるんだ?

愛とか勇気とかなんかそこらへんのもの?


いくら考えてもよく分からなかったが、

そのあたりはまあ気にしないことにした。

明日は早い。今日はおやすみなさい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る