閲覧注意レベルの傑作

 時として、人と人との出会いは運命を感じさせるものがある。それは人と本との出会いも然り。

 本作との出会いは、作者陽野ひまわりさんが書かれた「プロローグ版」から。どうせ短いし、摘まむだけと思って覗いてみたら、その「プロローグ版」が面白く、では本編も読もうと思った経緯である。

 ぼく個人の捉え方では、陽野ひまわりさんは、「カクヨム屈指のコメディエンヌ」。ギャグを書かせたらナンバーワンの書き手、しかも空手初段、という認識である。
 人によっては恋愛小説の名手ととらえているかもしれないが。


 本作も冒頭から笑わせてもらった。登場人物のキャラクター、セリフ、描写のおかしさ。どれをとっても面白い。それこそ、一流のコメディアンが顔を見ただけで笑えるくらい、本書は字面からして面白かった。

 何度も吹き出し、電車の中で読んでいるときは、笑いをこらえて悶絶したものだ。

 笑いを期待し、期待以上の笑いをもらい、つぎつぎとエピソードを読み進める。
 真のコメディーとは、笑いを抜いてもきちんとした物語としての骨格がしっかりしていなければならない。本作はまさにその鉄則にのっとり、親近感のある主人公に、微笑ましいわき役、のっぴきならない問題や謎を散りばめた事件、意表をつく展開、恋愛要素、生活豆知識、果ては謎のフンドシ愛と、ギャグ以外にも盛りだくさんな展開が目白押し。

 とにかく、入り口の数が多い。
 ぼくはギャグから入ったが、時間のある人は、他の方のレビューをちらりと見てもらいたい。

 ──みんなちがうことを言っているでしょ!


 もうあちこちにポコポコと穴が開いたディズニー・アニメのチーズみたいに、この作品は入り口が多い。だが、そこから入った読者は、もれなく本書のジェットコースター的な上昇下降に翻弄され、気づいたときは、トンデモナイ高みに連れ去られている。

 まさにそれは、駅でティッシュをもらってその広告からちらりと中を覗いたら、いつの間にやらエベレスト登頂を果たしていたような気分。
 気づいたら8000メートル超えの頂上にいましたよ!的なオチだ。

 とくにクライマックスの急上昇はすごい。あっと思ったら息ができない、身体が凍る、でもドッペルゲンガーが、成層圏が、オーラロが見える!!!


 本作は第3回カクヨムWEBコンテストに応募された作品です。
 年に一回の、カクヨム最大のコンテスト。賞金総額もすごい。応募作品数もすごい。

 でもそれ以上に、作品の質がすごいです。ほんと、カクヨムWebコンテストにはびっくりするような作品が出ていることがあります。今回は、これです。

 こんなこと書くと、ぼくがレビューをつけた他の作品の書き手の方々に怒られるかも知れません。でも、本作を読まれた方から異論は出ないんじゃないかな。そう思います。

 最後に一言だけ注意を。

 クライマックスは、環境を整え、一気にお読みください。電車の中とかで読むと、きっと後悔します。閲覧注意です。


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