💘26 女同士じゃできないことだってできる
「ちょ……。スパポーン、自分が言ってる日本語、わかってる?」
「当たり前じゃナイ。藤ヶ谷サンと恋人ニなりタイッテ言ってルのヨ」
そうか。日本語の意味はわかってるんだ。ならよかった。
……って、よかぁないっ!!
あたしにはさっぱり意味がわからないんですけど!!
「え……っと、あたしが大山先輩を好きなことは知ってるよね?
それでどうしてあたしと付き合いたいって言えるわけ?」
「闘い方ヲ変えタからヨ」
「え?」
「……とにカク、ワタシ心は男だヨ?
藤ヶ谷サンのコト、好きニなってモいいでショウ?
アナタ可愛いシ、意外ト真面目だシ、一途なトコも魅力的。
堅物なマスなんカやめテ、ワタシと付き合うのハどう?
ショッピングとカ、スイーツめぐりとカ、きっト二人デ楽しめルと思うんダケド」
「いや、そういうのは女友達とすればいいわけだし……」
「デモ、女同士ジャできないコトだっテ、ワタシとならできルわヨ?」
絡めたままの指に力を込めたスパポーンが吊り目がちの黒い瞳で上目遣いにあたしをじっと見つめ、口角を上げた。
その妖艶さにゾクリとする。
けど……
やっぱりなんか方向違ーーーうっ!!
「と、とにかく! あたしは大山先輩のことは諦めてないし、あなたと付き合うつもりはないからっ」
絡まる指を慌てて解き、アイスカフェラテを一口も飲まないまま立ち上がると、不敵な笑みを浮かべたままのスパポーンがひらひらと手を振った。
「ま、ワタシもアナタのことハ諦めないケドネ。
“赤フン同盟” カラの隠れ蓑ニならいつでモなってあげルカラ」
スパポーンの口から突然飛び出た “赤フン同盟” の言葉に思わず立ち止まった。
「スパポーン……。
赤フン同盟のこと、あなたは何か知ってるの?
――ていうか、あたしが今彼女たちのターゲットになってることを知ってるの?」
緊張でこわばるあたしの反応が面白いのか、彼はくすっと鼻で笑う。
「赤フン同盟なんテくだらナイ。
マスに相手ニされナイからっテ、他の女子ヲ攻撃するなんテ間違ってル。
ただネ、彼女たちノおかげデ、マスは恋ニ身ヲ亡ぼすコトなく武道ヲ極められルのモ事実。
そういう意味でハ、彼女達のするコトにわざわざ干渉すルつもりハないワ。
ただ、ワタシと付き合えバ、アナタはターゲットかラ外れルし、マスにも近づキやすクなるんジャない?」
「……意味がわからない。
それって、あたしにあなたを利用しろってこと?」
困惑したあたしの一言に、スパポーンの瞳がいつもの攻撃的な色に変わった。
「ワタシにとってハ、赤フン同盟を利用しテ、アナタの恋人の座ヲGETすルことニなるワ。
ワタシはアナタを振り向かせル自信ガある。
この駆け引キ、どちらガ勝つか試してみルのモ面白いト思わナイ?」
「な……っ」
それってつまり──
あたしがスパポーンを利用して大山先輩へのアプローチを成功させるのか。
それとも利用したつもりがスパポーンの罠にはまって彼から抜け出せなくなるのか。
あたしは今、スパポーンに勝負を挑まれているってことだよね。
それなのに、こんな大事な場面でリュカがいないなんて……。
「と、とにかく、そんな駆け引きになんてのるわけないでしょう!?
赤フン同盟にだって、自分一人(と頼りないリュカと)で立ち向かってみせるからご心配なく!」
精一杯の啖呵を切って彼に再び背を向けると、あたしは今度こそカフェの出口に向かって歩き出した。
👼
外に出ると、もあっとした湿気と暑さと、慌てふためいたリュカがあたしを待っていた。
『ちえりっ! いきなりいなくなるから、びっくりしましたよ!』
「何言ってんのよ! リュカこそあたしのテレパシーに気づかなかったくせに」
『堕天使にテレパシー感知能力はありませんから仕方ないですよ。そういうのは超能力者にでも言ってください』
「……もうどうでもいいわ。それで、鳩と何をそんなに話し込んでたわけ?」
『そ、それは……。ちょっと情報収集を』
「情報収集? なんの?」
『いえ、ちょっと気になることがあるものですからね。
ちえりは気にしなくても大丈夫ですよ。僕の方で対処しますので』
ごまかしてるつもりらしきリュカだけど、まるで動揺を隠せていない。
“対処” というからには何か問題でも起こっているのだろうか。
『ちえりこそ顔が強ばってますが、何かあったんですか?
真衣さんや渚さんは先ほど文学部棟の方へ戻っていくのを見かけましたし、誰とカフェにいたんです?』
今のスパポーンとのやり取りをリュカに伝えたらどうなるんだろう。
過保護なくせにドジなリュカのことだから、あたしを守ろうとますます空回りするようなめんどくさい展開しか予想できない。
「……暑いから涼んでただけだよ」
『いや、そんなことはないでしょう。
ちえりが友達から離れて一人でカフェに入るなんて行動は考えられませんし』
「肝心なところは鈍感なくせに、なんでどうでもいいことにはよく気がつくのかなぁ。
あー、めんどくさっ」
『あっ! やっぱり何かあったんですね!?
僕が何とかしますから、何があったのか教えてください!』
形の整った眉をきゅうっと
『そろそろ日焼け止めを塗り直した方がいいですし、あそこのベンチに座って話しましょう』
カフェを出てリュカの顔を見た時に感じた安心感はどこへやら。
ちょっと苛立ちつつも根負けしたあたしは、紫外線が肌を刺す初夏の陽射しの中、仕方なくベンチに腰を下ろしたのだった。
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