👼06 彼には絶好の機会かもしれない
さて……困った。
ガブリエルの策略とも知らないちえりが人気のない道へ向かって歩き出してしまった。
実は、先ほどちえりとリュカが買い物をしている間にガブリエルは周辺を偵察し、この先にある公園で煙草を吸っているガラの悪い三人組を見つけたのだ。
元使い魔のガブリエルには、人間の持つ七つの大罪と呼ばれる欲を増幅させる魔力が備わっている。
彼は男たちの “色欲” を増幅させておき、そこへちえりを連れて行こうとしているのだ。
元来た道が工事中というのも真っ赤な嘘なのである。
こんな時にリュカがいれば──
いや、やっぱ無理。
非力な彼の戦闘能力はほぼゼロだ。
堕天しているため本来の力を使えない彼に、ちえりの危機を救うことはできないだろう。
ちえりが神に感謝するほどの幸福を感じれば彼は天に戻れるが、逆に神を呪うほどの不幸を感じたときには彼は再び地底界に堕とされてしまう。
私の力を使うことはできるが、それではリュカの贖罪を邪魔することになる。
愛しいリュカにいくら早く戻ってきてほしいとは思っても、
そんなこんなで私が思い悩んでいる間にとうとうちえりが公園の前まで来てしまった。
「お嬢さんかーわいい」
ニヤついた男三人が近寄ってくるが、ちえりはまるで電柱の前を通り過ぎるかのように無反応に歩く。
「夜道の一人歩きは危ないよぉ。俺たちが送ってあげようか?」
もう一人の声に、無言で歩く速度を上げる。
「おい、シカトはひでえな。返事くらいしろよ」
ガタイのいい一人がちえりの手首をつかむと、堪らずちえりが振り向いた。
「ちょっと!やめてよ!大声出すわよ!?」
「は? 俺たちアンタを送ってやるって言ってるだけじゃん」
「とか言って、お前送り狼するつもりだろー?」
「送り狼つーか、もうそこの公園でいんじゃね?」
ちえりの手首を掴んだまま、強引に公園に連れ込もうとする。
「きゃあーっ!!」
ちえりが声を上げて叫ぶが、都会の冷たさなのか、周辺のマンションや住宅から外の様子を伺いに来る人の気配はない。
「ちょっと!ほんとにやめて!」
手首を引かれ、背中を押され、ちえりはずるずると真っ暗な公園に引き込まれていく。
「ガブリエル! 急いでリュカを呼んできて!!」
彼女の必死の救援要請も、物陰からほくそ笑んで見ているガブリエルが聞き入れるはずがない。
「なあ、こいつ結構可愛い顔してるぜ。当たりだな!」
「誰からヤる?」
「いやあぁ! 助けてぇっ!!」
仕方ない。
ここは始末書覚悟で私が──
「何をやってるんだ!!」
天罰を下そうと男たちに向かって私が右手をかざしたとき、公園の外から鋭い声がした。
ちえりの危機に気を取られて気づかなかったが、たまたま近くを歩いていた若い男が彼女の叫び声を聞いて駆けつけたらしい。
暗闇ではっきりとした風貌は見えないが、細身で中背、どう見てもあの暴力的な三人を一人で相手できるような体躯ではない。
「ああ!? なんだよお前」
「痛い目にあいたくなけりゃ、部外者はすっ込んでろよ」
「はよあっち行けや!カス!」
男達が三人がかりで
「痛い目にあわせてくれるんなら早くかかってこいよ。でなきゃこっちからは手を出せん。“空手に
そう言った彼は右足を半歩引き、
挑発された男たちは「この野郎!」と一斉に殴りかかった!
彼は一歩身を引きながら男たちのパンチを手首で受け払い、華麗に技を決めていく。
一人目はこめかみに回し蹴りが入り、どうっとその場に倒れた。二人目は脇腹に中段蹴りを入れられ、体を歪ませたところをさらに後ろに蹴倒され後頭部を強打。三人目は掴みかかろうとした手を蹴り払われ、ガラ空きになった
余りにも早く、鮮やかな反撃。
一撃ずつくらっただけで、男たちはかなりのダメージを受けた。彼の強さにおののき、闘争心は根こそぎ削がれてしまったようだ。
うずくまって痛がる男たちの背後に呆然と立ちすくむちえりに向かって、「今のうちだ。逃げるぞ!」と彼が手を差し出した。
「は……はいっ!!」
ちえりが我に返って手を伸ばす。
彼は力強くちえりの手を引き公園を走り出ていく。
その一部始終を見ていたガブリエルはチッと舌打ちをすると、ばさりと羽ばたいて
──やれやれ。危なかった。
思わぬ
しかも、この騎士の出現。
リュカが上手く立ち回れば、彼がちえりに幸福をもたらす絶好の機会となりそうである。
私は
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