にせもの

 次の日、花ちゃんが迎えに来た時、結紐をしていた。

「どうどう? かわいい?」

「うん、かわいいよ」

「青ちゃんも似合っているよ」

「ありがとう」

 ウキウキして、寺子屋に行った。

「今日は、なんの授業だろうね」

「そろばんか、書き取りでしょう」

 花ちゃんがそう言って、ため息をついた。

「そうだね」


  ☆ ● ☆


 寺子屋に着くと。

「二人共!」

 お宮様が交互に私たちの髪をみる。

「してきているわね」

「もちろんだよ」

 お宮様もしっかりつけてきていた。

「似合うよ」

「ありがとう」

 お宮様は、うれしそうだ。その時、学友が。

「みんな『ざしきわらし』読んだ?」

「うん、読んだ」

 そう言う声が聞こえる。

「おもしろいよね」

「うん」

 みんなが読んでくれているので、お金もたまるのだ。

「でも、これだけ人気が出ると、何か怖いよね」

 花ちゃんが少し声をひそめてそう言った。

「そうだね、何か起こるかも」

「起こらないといいな」

「そうね、それに越したことは無いわ」

「何も起こりませんように」

 祈る姿でそう言った。


  ☆ ● ☆


 そして、一週間が過ぎても、『ざしきわらし』の人気は落ちなかった。

(一体何事なんだろう)

 どんどん入ってくるお金、借りていく人々、なんだか不思議な感じで、それを体験していた。

(私は、普通の女の子なのにな)

 心の中でそう思っていた。

「でも、花ちゃんとお宮様も喜んでいるし……これでいいんだよね」

 そして、また、『ざしきわらし』は借りられていった。

(いいんだよね)

 不安になってきた頃、ある事件が起きた。『ざしきわらし』にせもの事件だ。

「『ざしきわらし』の新刊が出たんだって」

「うん、続編みたい」

「連載物にするの気かな?」

「別な貸本屋で貸しているらしいよ」

(えっ? 続編なんて、書いてないし、一冊で終わりのはずなのに、何があったの?)

 少し、冷や汗が出た。

(どういうこと?)

 頭に浮かんだのは、にせものが出回っていると言う事の焦りだった。

(中身は下手な人が書いていたら、評判が落ちるよね、そうしたら売り上げが下がってしまうかも? それは、嫌だな)

 そう思い、急いでいると、本を置いている貸本屋へ向かった。


  ☆ ● ☆


「『ざしきわらし』の続編ありますか?」

 貸本屋の人に聞くと。

「ないよ、借りられている」

 そう言って、あしらわれた。

(私たちの危機なのに、何もできないよ)

 イライラしてしまった。

「あの『ざしきわらし』の続編ってにせものじゃないんですか?」

「はっ? そんなわけないだろう」

「そんなことは、ありませんよ、だって、十兵衛は、もう書いていないはずです」

「じゃあ、嬢ちゃんは、十兵衛の知り合いかい?」

「……はい」

「そうかい、じゃあ、十兵衛ってどんな人かな?」

(そういえば、言ってはいけないんだ。私が書いたって)

「知らないのかな?」

「……」

「知らないのに文句を言ったりしたらダメだよ」

 貸本屋のおじさんは、私がやっからんでいると思っているようだった。

(私が、『ざしきわらし』を書いた本人なのに、言えないって不便だな)

 イライラして、貸本屋の主人をにらむ。

「はいはい、借りられなかったからっておこらないの」

 おじさんは呆れたようにそう言った。

(違うのに、借りたかったわけじゃないのに……)

 心の中で怒っていた。

 結局、貸本屋のおじさんに話は、聞いてもらえなかった。

(やっぱり、子供の話じゃダメか、十兵衛が子供なんて誰も思わないもんね)

 がっくりして家へ帰った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る