人気な本に

 そして、三日後、女の子が返しに来た。

「おもしろかったです」

 と言って帰ったと思うと。

「『ざしきわらし』ありますか?」

 今度は、七才位の男の子が借りに来た。

「はい」

 お母さんが対応する。

「また一文入った」

「子供の中で流行っているのかしら?」

 そう思っていると、また。

「あの『ざしきわらし』貸してしてくれませんか?」

 そう言う七才ぐらいの別な男の子だ。

「ごめんね、借りられちゃっているの」

「そうですか」

 落ち込んで帰っていった。

「ねえ、もしかして、私たちの本、本当に子どもの中で流行っているんじゃないかな?」

「そうみたいだね」

 そう言っていると、また、また、また、『ざしきわらし』を借りるために子供が来るではないか。

「どういう事?」

「大変、大人気だ」

 そこで、お母さんから。

「貸本権を作りましょう」

 と提案された。

「貸本権?」

「他の貸本屋や、もう一冊を作るときに、今まで通り一回一文をしっかりもらえると言う貸本屋の制度よ」

「そうか、つまり、『ざしきわらし』の二冊目を作ると言うことね」

「そう言う事よ」

 お母さんがうれしそうに笑う。

「まさか、こんなに大売れするなんて、思ってもいなかったわ」

「私も」

「私も」

 みんな、顔に驚きの色を浮かべている。

「それで、もう一冊、書いてくれるかしら?」

「もちろんです」

「やります、やります」

 みんな、気合十分だった。

「それじゃあ、がんばってね」

 お母さんは去って行った。

「ついに、二冊目よ」

「やったわ」

 三人で盛り上がっていると。

「初版と言うか、予備版を作っておいてよかったね」

「そうね、これを写すだけでいいんですもの」

 花ちゃんも、筆で似たような絵を描いていく。

 正書は、お宮様だ。


  ☆ ● ☆


 数時間後、二冊の本が出来上った。

「あれ、なんで、二冊書いているの?」

「他の貸本屋用にも置くって、お母さんが言っていたのだけど、いいよね?」

「他の貸本屋にも置くの?」

「そうみたい」

「それって、すごく人気があるって事だね、びっくりだよ!」

「他の貸本屋がぜひおきたいって言ってきたらしいよ」

「それは、すごいよ」

「うん、すごいと思う」

 三人で目が金になる。

「もしかして、すごくもうかる話なのかも」

「そうね、十五文なんてあっという間ね」

「もう、みんな、お金の事ばかり考えないで」

「は~い」

 花ちゃんが、軽く返事した。

 そして、次の日から『ざしきわらし』は、他の貸本屋に一冊、青家の貸本屋に二冊となった。

「みんな借りて行きますように」

 そう祈ろうかと思ったその時には、借りられていた。

「すごい人気」

 結局、一週間で、五文も稼いだのだった。

「五文も稼げたよ、どうしよう、すごいよね」

「あなたたちのおこづかいとやらの一か月分くらいね」

「私たちって、すごいね」

「そうだよ、十二才で、これだけ稼ぐのは、どれだけ大変か」

 三人できゃっきゃっしていた。

 そして、一週間に五文ずつ稼いで、一か月が過ぎた。

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