白金のお嬢様の恋騒動

 白金のお嬢さんの家は、お宮様の家に負けず劣らずの大豪邸だった。塀にある、瓦屋根は、長く続いていて、入り口が分からない。

「うわ~大きいね」

「普通でしょう」

 お宮様がそう言って、門へ向かう。

 門に着いたので、門番に声をかけると。

「どちら様でしょうか?」

 当然、そう聞かれたので。

「青です」

「花です」

「花嫁の友達の宮です」

「青様、花様、宮様ですか、御来賓名簿はっと……」

 帳簿をめくる門番さん。

「はい、承っております」

「それじゃあ、入れてくださいね」

「どうぞ」

 お宮様が先頭で中に入って行く。

「わ~、すごい庭」

 ユリやスイセンが生えている庭に盆栽や彫像が置いてある。

「きれいだね」

「それより、取材ですわ」

「はい」

 気持ちを切り替える。

 庭の近くの部屋に通されて、畳の部屋に立派な掛け軸がかけてある。模様は、ウグイスが書いてあった。

「みんな、来てくれたの、私は、百合よ覚えている?」

 百合さんと言う女性が出迎えてくれた。藍色の着物を着ていて、とても品があるように見える。

「結婚おめでとうございます。百合さん」

「ありがとう」

 にこりと笑う姿は、優しそうであった。黒髪をかんざしで止めていて、目鼻立ちのはっきりした人だ。

「みんなと会ったのは、十年以上も前よね」

 百合さんがそう言うので、思い出そうとするが思い出せない。

「すみません、会った事がありましたか?」

「ええ、でも、みんな、一才位の時だから、覚えていないわよね」

「一才ですか……」

「それじゃあ、当然、忘れているね」

「みんな、小さい頃も可愛かったのよ」

「どんな子でしたか?」

「え~と、お宮ちゃんは、元気な子だったわ、花ちゃんは、おとなしい子、青ちゃんは、のんびりした子だったかな?」

「のんびりした子?」

 私は、つい、くいついてしまった。

「ええ、のんびりしていたわ」

「そ、そうですか」

 少し、のんびりと言われたのが嫌だった。

「でも、大きくなったら、しっかりした子になったわね」

 百合さんは、ニコニコしてそう言う。

「それほどでもないです」

「そんなことないわよ」

 百合さんのペースにのせらてしまっていた。

「今度、結婚する人のどこが好きですか?」

 花ちゃんが聞く。

「優しくて、お金持ちなのよ、家柄もいいし、文句なんて言ったら罰が当たりそうだわ」

「それは、いい条件ですね」

 花ちゃんは、ほっとした様にそう言った。

「いい話だと思ったのよ」

「いい話?」

「見合いの縁談の事よ」

 そこで、お宮様がぴかっと目を輝かせた。

「もしかして、好きな人がいたとかですか?」

「あら、そ、そんなわけがないわ」

 慌てる様子から、いたのだと思った。

「正直に言ったらどうかしら? 私たちは口が堅いから安心してね」

「そ、そうね、言おうかしら」

 百合さんが迷っていると、花ちゃんが。

「そう言う話は、しない方がいいと思いますよ」

 やめようとしたが。

「いいえ、聞いてちょうだい」

 百合さんは返って言う気になったようだった。

「私は、魚屋の男性と付き合っていたの」

「まあ」

 お宮様が声をだした。

「魚屋の男性は、とにかく顔がステキだったの、でもね、お金がある家柄ではなかったのよ」

「問題は、お金ですか……」

「そう、博打が好きで、金遣いが荒くて、正直、顔意外にいい所はなかったわ」

「そう言いますけど、好きだったと言う事は、何かいいところがあったのでは、ありませんか?」

「そ、そうね、あの、時々優しくて、安いけど贈り物をくれたり、好きって言ってくれたりしたの」

「やっぱり、そう言うのに弱いのですね」

「でも、現実的じゃないのよね」

 百合さんは、ため息をついた。

「まだ、好きなんですか?」

「う、う~ん、どうかな?」

(好きだな)

 様子を見て一発でそう思った。なぜなら、私たちに話して安心したいと思っているのがみえみえだったからだ。

「すみません、結婚前なのに、こんな話をさせて」

「いいのよ、あなたたちには、早かったかな?」

「いえいえ」

「ありがとうございます」

 頭を下げて、部屋を出た。


  ☆ ● ☆


「おもしろい話が聞けたね」

「うん、楽しかった」

「二人共、いい事じゃないのよ」

 花ちゃんに叱られて、家に戻る。

「今日は、いい取材になったわね」

「うん」

「じゃあ、明日」

 三人で、分かれ道を三方向に分かれて歩いた。

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