第4話 炎上

 士郎は、自分の家に着くと玄関にある見慣れない靴に目を止めた。 女性の靴。誰か客でも来てるようだと士郎は、そう感じた。

「ただいま」

そう言って靴を脱ぐと部屋の奥からパタパタと軽快な足音をならして、士郎の目の前に一人の少女がやってきた。

「おかえり、元気してたか? 士郎!!」

そして、そんなそんな馴れ馴れしい少女の声が飛び込んできた。 ショートの髪型でボウイッシュな感じの女の子。士郎と同じ歳の従妹、双葉である。

「なんだ? 遊びに来てたのか?」

「んー、ちょっと気になる事があってね」

双葉は、士郎の質問をはぐらかすようにそう言った。

「それより、士郎? 帰りに蛇でも掴んだ?」

双葉は、いきなり話の見えない質問を士郎に浴びせた。

「蛇? なんで?」

「士郎、生臭いよ! 何があったかわからないけど、お風呂入ってきなよ」

双葉は、真剣にそう言ってそんなに蛇臭いのか露骨に嫌そうな顔をした。士郎は、腕を鼻に近づけて自分の匂いを嗅いでみる。

「うん、そんな蛇臭い匂いなんてしないけどな」

「それは……士郎が鈍感だからだよ!!!」

双葉は、ビシッっと士郎を指差して自信たっぷりに言いきった。

「あのなぁ」

士郎は、力なくそう言った。自分では、納得できなかったが結局帰ってきて直ぐにお風呂に入る事になったのだ。


 士郎が身体を洗ってユックリと湯船に浸かっていると脱衣場の方に人の気配を感じた。

「誰?」

「士郎、私」

士郎の問いかけに双葉の声が聞こえて来た。

「士郎、あのお守り大切にしてる?」

「ああ、双葉のお守りのお蔭で何時も助かってる」

そう、あのお守り袋は、双葉が士郎にくれた物だ。あのお守りは、妖怪や妖魔をしりどける力があって、得に士郎のような妖怪や妖に襲われやすい体質を持った人間には、大切な物だ。

「今日はね、もっと強力なお守りを持ってきたの。妖怪なんて、士郎の身体に指一本触れなれないんだから」

双葉は、少し興奮している様子でそう言った。

「いや、今までのでも十分だよ。双葉」

「そんな……十分だなんて二度と言わないで!! 十分だなんて無いよ……士郎は、危険なんだから」

そう言った双葉の声は、消えてしまいそうなほど弱々しかった。

「そうか……じゃあありがたく頂いておくよ」

士郎がそう言うと双葉は、安心した様子で「うん」っと言った。士郎の血筋は、特殊なのだと父から聞いた事がある。なんでも妖怪や妖にとって辰巳の血は、上質で他の人の血と比べなれない程のものだと言う。 だから、妖怪や妖は、辰巳家の血を隙あれば奪おうと狙っているのだと士郎の父は、言っていた。そんな事……迷惑な話だとまるで他人事に士郎は、そう思っていた。



 次の日、士郎はまた授業中に倒れてしまった。気がつけば、保健室のベットの上に横になっていたのだ。

「あれ……また」

士郎は、まだぼんやりする頭でそんな事を呟いた。意識を失うと言う事は、こんなもんなんだと改めて、士郎は、そう思う。突然、プッツリと記憶が画面が途切れてしまうのだ。

「やっと……気がついたのね?」

「えっ!?」

直ぐ隣から聞こえる声に驚いて、士郎は上半身だけを素早く起こした。よく目を凝らしてみれば、薄暗い保健室のなかでランランと瞳を輝かせた朝比奈薫が存在してた。士郎のベットの直ぐ隣でチョコンと椅子に腰掛けて士郎の顔を見ていた。そして、ニッコリと笑顔を浮かべて見せる。

「あっ……そうか、また朝比奈が?」

「違うわ。今日は、士郎の友達が……私は、様子を見に来たの」

士郎の問いかけに朝比奈は、少し残念そうに言った。護が運んでくれたのだろうか。と、士郎は、そんな気がした。

「もう、放課後よ」

「ああ、そうだな」

士郎は、腕時計の時間を見る。時計の針は、午後5時過ぎをさしていた。

「やばいな……早く帰らないと」

「まだ、良いんじゃない? ゆっくりして行くといいよ」

朝比奈は、少し押しが強い口調でそういった。

「ああ、でも」

「ねえ、昨日の話の続き」

士郎が返答する前に朝比奈は、そう切り出した。ちょっと、強引だなっと士郎は、思ったが、朝比奈の意向に従う事にした。

「昨日の話って、あれか……俺と幼い頃遊んだ事があるってやつ?」

「そう、いっぱい遊んだのよ」

朝比奈は、とても嬉しそうにニッコリと笑った。

「まだ、思い出さない?」

「ああ」

やはり何度考えたても朝比奈と遊んだ記憶が士郎には、なかった。でも、どうして朝比奈は、そんな事にこだわるのだろうか。と、ふと士郎は、疑問に思った。

「そっか……じゃあこの話は、これでお終い」

朝比奈は、士郎の返事に残念そうにしていたが直ぐに気を取り直した様子で士郎の目の前に右手を差し出した。

「今日もお願いするわ。士郎のお守り……私に貸してくれない?」

そう言った朝比奈は、表情を崩さない真剣な瞳を士郎にむけた。

「どうして、お守りに拘るんだ?」

「どうしても、気になるのよ! そのお守り」

士郎も真剣な表情を向けたが朝比奈は、表情を崩さなかった。

「わかった……でも、大切なお守りなんだ。少し、貸すだけだからな」

士郎は、首からお守り袋の紐を外すと朝比奈薫の右手にポンっと置く。

ボッ

突然そんな音がした。士郎は、信じられなかった。目の前で突然、士郎のお守り袋が炎を上げて燃え出したのだ。あっと言うまに炭になって消えてしまった。

「フフッ……消えちゃった」

まるで童女のように朝比奈は、そう言った。

「なっ……なんで」

冗談じゃない。と、士郎は、心の中で叫んでいた。あれは、士郎にとって、大切なお守りだった。何かの手品ではないのかと士郎は、そう思った。

「朝比奈! あれは、俺の大切な物なんだ。手品かなんかだよな? 冗談は、やめてくれ!!」

士郎がそう言うと朝比奈は、クスリと笑った。

「もう、消えて無くなっちゃった。もう、元には戻らない」

朝比奈は、とても嬉しそうにそう言ってのけた。

「何言ってんだ? おまえ」

「もう、あんな物必要ないのよ! 代わりに私が貴方を守ってあげる!」

朝比奈は、そう言って士郎のシャツの中に手を入れて士郎の胸を撫でる。突然の事に士郎は、混乱してた。

「え?」

と、士郎が声を上げる前に士郎の唇は、彼女に唇よって塞がれていた。それは、キスと言うには、あまりにも乱暴でまるで士郎の口の中を彼女の舌が犯してるような感じだった。何か自分の魂が彼女に吸われていくようそんな感じを士郎は、感じていた。頭の芯がぼうっとしてきて、士郎の思考が鈍ってきた。朝比奈は、ようやく士郎の唇を開放すると

「あは……やぱり、とても美味しい」

と、恍惚の表情で言った。 そして、ペロリっと自分の唇を舐める。士郎の意識は、この時を境に無くなっていった。また、夢を見る。士郎は、あの夢を……。

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