第13話 参るな危険をプロデュース

「あら、ボロボロじゃない麗。なまっちゃってんじゃないの身体?」

「るさいわね......何しに来たのよ......」

「友達を助けるのに理由がいるのかしら?」

「あんたが絡むと昔からロクな事が起きないんだっての。」

 教室に入ってきた紅音に舌打ちしながら、フラフラと立ち上がる麗。

「ま、麗がどうなろうとしったこっちゃないんだけど私はさ。ただね......姿

紅音ベニオン!!てめぇ喧嘩売ってんのか、ッ!!」

「麗、落ち着きなさいって。今は保寺さんに任せておこうよ、怪我してるんだからさ。そんなことで貴女のこと嫌いになったりなんかしないから、ね。」

 津瑠子にやられたダメージがまだ響くのか、また崩れ落ちる麗を支える伊緒。

「ホントに!?伊緒ちゃん私の事好きでいてくれるの!?」

「それで麗の気が済むんならね......それより、こうなった言い訳とやらを聞かせて貰おうかしら、タケ。」

 伊緒は麗から目線をはづきに向けた。

「えーっ......目の前でイチャついてんの見てたら話すのアホらしくなったんスけど......ま、ミムさんとお話しがしたかった、ってのが理由っスよ。」

「相変わらずだけど......ふざけてんのアンタ?」

「はづきはマジっスよ。まぁ、ここまで大事になるとは思わなかったっスけどね......てかツルさんホント何してんスか?ハルさんと戦ってたり。」

 頭を覆っていた腕を下し、倒れている津瑠子にはづきは疑問を投げかける。

「お前が三田村が苛められてるって話してたからやってきたっつうのに、こいつがやってたのは犯罪だぞ。なんでこう詰めが甘いんだお前は。」

 相変わらず血が垂れている鼻の孔にティッシュを詰め込みながら、津瑠子は慣れたそぶりではづきに悪態をつく。

「いきなりコスプレでやってくるような変人に犯罪者扱いされる日が来るとは思わなかったわね......」

「コスプレ......マジであのマスク被ったんスか!?うわぁ......」

 やっぱねえわ、といった表情で固まるはづき。

「ちょっとちみっこ!!伊緒ちゃんを犯罪者扱いとか私が許さないわよ。」

「許すか許さないかはボクに勝ててから決めてくれよ春川。」

「は!?負けてねえし!!お前みたいな生意気な雌ガキに女子校生は負ける要素ないし。」

「アァ!?ボクもお前と同じ女子校生だよ!!さっきから馬鹿にしやがって!!ボクはまだまだ戦えるけど、また三田村の前で恥かくかぁ?」

 津瑠子は前のめりになると、舌を出しながら麗を挑発した。

「......伊緒ちゃん餌に使ったこと、後悔するなよ。」

 麗の目付きが険しくなり、瞳から光が消える。

「ちょっと麗!!その怪我じゃ無理だからやめなさいって!!」

「ツルさん!!何故そこで煽る!?基本的にはありえないっスよ!!空気読みなさいよアンタ!!」

 伊緒とはづきはお互いの相棒を止めようと必死だが、そんなことを聞くような人間であれば初めからこんなことにはなっていないのだ。

「伊緒ちゃん、止めないで......ちょっと本気で許せないわこいつ。」

「大丈夫だよハヅ。『裂悪の聖拳プライマス』一発当てれば済む話だからさ!!」

 無理して立ち上がっている麗を一瞥した後、津瑠子は何の衒いもなく右腕を撓らせる。

「離れて、伊緒ちゃん。危ないから。」

「嫌!!これ以上あんたが傷だらけになるの見たくない!!ここは引いてよ.....」

 涙目で麗の腕にしがみつく伊緒。しがみつかれたなら普段なら喜んで伊緒に従う筈の麗だが、全く意にも介さない。

「泣けるねぇ......そんだけ春川好きなのに、貰った写真は売ろうとするんだなぁ三田村ぁ。」

「そっ、それは!?」

「やっぱそういう所変わらないんスねぇ......ミムさんはさぁ。何も変わらない......軽く締めといた方がいいかもっス。」

 はづきが冷めた目で伊緒を見返す。

「じゃ、ハヅに免じて春川だけ堕としてやるよ!!」

「伊緒ちゃん、お願いだから離れて。」

「絶対に嫌!!」

 津瑠子の放つ、『裂悪の聖拳プライマス』が麗の腹部を切り裂いた。筈だった。

「な?」

「へ?」

「え......嘘でしょ?保寺、さん?」

紅音ベニオン......あんた......」

 面喰ったのも無理はない。津瑠子の右腕は麗に届かず、紅音により掴まれていたのだ。

Oh Wellたくっ、少しあなた達の好きにさせてたらまたおっぱじめるとか武装地帯かなんかなのここは?やっぱ愚民は統制しとかなきゃ駄目ね、ちゃんと。」

「は、放せよ保寺!!」

 掴まれた右腕を振り解こうとする津瑠子だが、紅音にがっちりと手首を掴まれてびくともしない。

「この伸びる腕、最初は義手かなんか使ってると思ったんだけど、へぇ、関節外してるんだぁ。凄いわね天然ものは。」

「ひっ!?」

 肩へと向かうように、津瑠子の腕を指でなぞっていく紅音。そのくすぐったさととある種の快感が津瑠子を襲う。

「素晴らしいわね藤間さん。。」

 ショーケースに飾られた、完成品のような仕上がりと変わらない模型を羨望の眼で眺める子供のような笑顔で、紅音は津瑠子の右腕を掴んだまま上空へと振り上げる。

「おっ、おわぁああ!!」

 片腕を掴まれたままの津瑠子は、紅音により宙へと舞う!!

The Firstプライマス、って言ってたわね?」

 真上に飛ばされている津瑠子に再び紅音が微笑みかけ、

「いい名前ね、センスが感じられるわ。Hammyクッサくって。」

「嫌あぁぁぁぁ!!」

 何の衒いも無く、悲鳴をあげ落下する津瑠子を紅音は顔面から教室の床へと叩きつけた。叩きつけた衝撃で近くの机と椅子が、額から血を流しうつ伏せになっている津瑠子の身体へとガタンと倒れる。

「1 More?」

「いや、おかわりじゃないでしょ!!やり過ぎだよ保寺さん!!」

 目の前で起きた紅音の蛮行を咎める伊緒。

「やり過ぎ?でもこうでもしないと、伊緒も、麗もまた怪我してたでしょ?」

「そ、それに関しては感謝してる、けど......でもさ......」

「......」

 紅音の言葉に、伊緒は歯切れが悪く麗は黙ったままだ。

「ツルさん!?ツルさん!?生きてる!?死なないで!?」

 ボロボロの津瑠子に駆け寄り抱きかかえるはづき。

「うっ......生きてるよ流石に......超痛いけど......」

「じゃ、じゃあ大丈夫っスね。もうこれ以上やめましょう。」

「煽ったのはお前だろハヅ......」

 力の抜けた笑い顔ではづきに堪えかける津瑠子。

紅音ベニオン......ごめん、私......」

「悪いと思ってるんなら初めからしなさんな。伊緒の前なら尚更考えて動きなさいっての。」

「保寺さん、今回は悪いの私だからさ。あんまり麗を責めないで欲しいんだ......」

「伊緒ちゃん......」

 自分の至らなさで起きた面倒事を、よりにもよって最愛の伊緒に庇われるという事実。悔しさと喪失感が、麗の表情を更に曇らせる。

「そうね、伊緒。あなたも悪いわね。」

「う、うん......」

「伊緒ちゃんは悪くなんかない!!」

「人の話は最後まで聞くものよ、麗。だからね......」

 麗と伊緒の肩に、両手を置きニヤリと笑う紅音。

「この5で、楽しい事、しましょう?」

「へ!?5人!?3人じゃなくて!?」

紅音ベニオン!!アンタやっぱなんかする気!?」

「おい、どういうことだ保寺!?」

 伊緒、麗、津瑠子の3人が、ふざけるなと一斉に紅音に向かい声を荒げる。

「あれ不服だった?既に武尾さんには了承済みなんだけど。」

「ハヅぅ!?何してくれちゃってんの!?」

「すんません、ツルさん。はづきはちょいと逆らえないんで......したいこともあるし。」

「藤間、だっけ?タケは契約書とか説明書とか絶対読まないでサインするタイプだから、言うだけ無駄よ。」

 諦めろ、と言わんばかりに津瑠子に話しかける伊緒。

「そうなんだよな、作った書類は絶対見直さないし。細かい所まで見ろつってんのに。ボクの言うこと全く聞かないんだよ。」

「なんではづきの愚痴大会になってるんスか!?言いたい事あんなら直で言えっスよ!!」

「てめーが糞ムーブしなきゃこんな事になってなんかねえんだよ!!」

 ぎゃあぎゃあと互いを罵りあう伊緒とはづき。

「ま、いつまでも教室にいるのもアレでしょうから、『ケーヤ』にでも行って話しますか。あそこなら個室だし騒いでも問題ないわ。」

「......なんか納得いかないけど仕方無いか......その前にさ、腹から血出てるから保健室寄りたいんだけど。」

「ボクもお前に投げられて割れた額どうにかしたいんだが。」

「時間が惜しいわ、ガムテープでも巻いときなさい。」

「「段ボールかよ!!」」

Urghうぇ!!」

 麗と津瑠子は同時に紅音の腹を殴りつけた。

 

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