第14話 友達芝居の幕開け

 私を裏切って、マナミと付き合おうとしている(らしい)ヒイラギは、考えようによっては、いい仕事をしてくれた。マナミの一番近いことろへ潜り込んだのだから。


 ただ、ヒイラギは、あれからわたしに連絡してこない。きっと、もう連絡するつもりはなかったんだと思う。カノジョが憎んでいる相手に乗り換えようとするのならば、当然の事だろう。


 だったら、私はこの場でやっておかなければならないことがある。


「ヒイラギ君、久しぶりね、前にお願いしておいた事、引続きお願いね」


「え? な、何だっけ?」


「やだなあ、忘れちゃったの? 私の事、何もかも忘れちゃうつもり?」


「な、何を……」


「あれよ、お芝居の話し、『友達芝居』の事よ」


「あ……ああぁ、いや、それはさ――」


 ヒイラギの声は裏返ってみっともない。マヌケ男の代表の様な見事なマヌケっぷりだ。


「やらないわけがないよね? 断ったら、結構、キツい事になると思うよぉ」


 掴んだ……そう思った。ヒイラギは、やっぱり、わたし達が付き合っていた事を、マナミに知られたくないと思っているんだ。返事はしないが、断る事もできないでいる。その顔色は、これまで見たことがない程に青白かった。


「リコさん、お芝居もするの? すごいね!」


「そうなんだよ、本業はアイドルなんだけど、先の事を考えたら、勉強はしておかなくちゃと思ってね、それでね、ヒイラギ君が、脚本のアイディアを出してくれたから、わたしが筋書きを書いている所なの。ヒイラギ君なら、きっと、いいお芝居してくれると思うんだよね」


「ヒイラギ君もお芝居するの?」


「いや……俺は……」


「やってくれなきゃ困るんだよね、他に適任がいないからさ! ヒイラギ君には、断る権利なんかないと思うよ! 言い出しっぺは、あんたなんだからね!」


 ちょっと、感情的になってしまった、気が付かれなかっただろうか。


 こらからヒイラギを使って、マナミとの立場を再び逆転しようとしている事に。

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