第9話 敵は…

大輔は今、目の前で何が起きているのかわからなかった。

敵に、龍人に斬られたところまでははっきりと覚えている。

しかし気がつくと敵は倒れていた。

血まみれで…。

そしてもう一人、敵なのか味方なのか、はたまたそのどちらでもないのか背の高い男が大輔に背を向けるような形で立っている。

恐らくこの男が龍人を倒したのだろう。


「やっぱいつも通り力は出せないか…。にしても美味すぎ!ドラゴンってみんなこうなのか…?」


男はなにか1人で呟いている。


(力?美味い?なにを言って…。)


突然男は振り向く。つまり大輔の方を向く。


「ん?こいつにやられたのか。」


男は大輔を見てそう呟いた。

男の口は血塗れていて、肌は死人のように白くその髪は肌よりも透き通るような白であった。それと反して服は黒く西洋の礼服のようなものを身につけていた。

白髪男はゆっくりと大輔に近づく。


(やばい!殺される!)


大輔の第六感のようなものが働き、危険信号を出す。しかし体は思うように動かない。先程龍人に斬られてから立つことさえままならない。


白い恐怖が大輔の1mほど近づいたころだろうか。

遠くから1人の女性が走ってくる。


「なに…。してる。」


注意して聞かないと聞こえないくらいの小さい声で質問するこの女性も髪が白い。しかし肌は灰色で、耳は後ろに伸びて少し尖っている。

肌と髪の色を除けばエルフに見えなくもない美しい顔をしている。

そして背中には彼女の身長と同じぐらいの銃を担いでいる。

彼女は多分この男の仲間だろう。


「あぁ悪りぃ悪りぃ。ちょっと喉が渇いてさ。」


白髪男は冗談めかして答える。


「はぁ…。いつもそうやって…。だから嫌なのよ…。」


呆れた灰色のエルフ(?)は村から離れるよう歩いていく。


「おい待てって!すまんすまん。この通りだ。」


あっさりと土下座の形で謝る白髪の男。


「軽い男ね…。」


灰色エルフは軽蔑したように言う。

元々の態度が冷酷なためそれがより強調される。本来無口なのだろう。



「狼男はどこですか!?……入り口の方ですね?」


突然村の方から大きな声が聞こえる。


「おっと勇者様の登場だ。俺たちは退散しちゃいますか……ってかこいつどうする?」


白髪男は大輔を指差しながら仲間に問いかける。聞こえた声から勇者だと判断したのだろう。


「知らない…。」


「冷てーやつだな。まぁ一応仲間みたいなもんだから拾ってくか。」


「またそうやって足引っ張ったら置いてくから…。」


「へいへい…。よいしょ!おし行くか!」


大輔は男によって軽々と担ぎ上げられた。


「グルルルぅぅぅ…。」


抵抗しようにも体が動かないため呻き声のようなものを上げることしかできなかった。


「はいはいわかったよ。すぐ楽にしてやる。」


それは今の瀕死状態の大輔には殺意の篭った言葉としか捉えられなかった。


(殺される!)


出せる力を振り絞って暴れる。

しかしそれはさっきの一撃と男の力によって封じられる。


「暴れるな。落ち着けって。」


(落ち着いていられるか!)


大輔にはそうツッコむ余裕もない。


しかし数秒ほどで大輔は動かなくなる。


「これでいいわね…。」


女エルフが大輔に手をかざして言う。


「おう。んじゃ行くか。」


そうして男達は大輔を担いだまま、村から離れていく。

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