-3-「夏だからね。暑いのは当然でしょう」


   ③



 午前十時。


 午前中に関わらず真夏の太陽の日差しは強く、テレビの天気予報では午後からはもっと気温が上がると言っていた。

 ヒカルのひたいに汗を浮かべ、辺りを見回しながら道を歩いていた。魔女と共に。


 どうして、こんな暑い中を歩いていると、魔女の気まぐれだった―――


 ラジオ体操を終えて家に戻ったヒカルと魔女は、用意された朝ご飯を食べ終わり、しばしの食休み。

 ヒカルは携帯ゲーム機を手に取ってスリープ機能を解除しようとしたところ、魔女マギナに呼びかけられた。


「それじゃヒカル。行きましょうか」


「え、どこに?」


「決まっているでしょう。犬探しによ!」


「え? な、なんで?」


「なんでって、なんか面白そうだから」


 魔女は犬探しを妙に興味きょうみを持ち、ゲーム機を持ったままのヒカルの手を引っ張っては、ナツキの元へと足を運んでいる最中なのだ。


「暑い‥‥」


 なぜ自分がエアコンが効いた居心地のいい家から出て、たださえ自分の苦手である犬を探さないといけないのかと内心思いつつ、その原因を作った張本人を横目で見た。


「まぁ、夏だからね。暑いのは当然でしょう」


 その台詞とは裏腹うらはらに魔女のひたいには汗の一つすらも浮かんでいなかった。


「その割には魔女さんは暑そうに見えないね。それも魔法とかでなんとかしているの?」


「まぁね。ほい」


 魔女はかぶっていた白い帽子を脱ぎ、さり気無くヒカルにかぶせた。

 すると、さっきまで感じていた暑さを感じなくなり、まるであの陽無の森の木陰こかげに入ったかのような涼しさが身体を纏(まと)った。


「す、すっごーい! なにこれ? なにこれ?」


「光エネルギーを冷たい空気に変換させる特殊な素材で作った帽子よ」


「へ~? そ、そうなんだ」


 どういう仕組みなのか分からないが、白い帽子の特殊効果に感嘆かんたんしてしまう。

 心地良い涼しさに気を良くしていたが、魔女はヒカルに被せた帽子を取ると再び自分の頭に被った。


「あ、魔女さん!」


「ごめんね。これ私のだから」


 子供っぽい対応にヒカルは子供っぽくほほふくらませた。

 そうこうしている内に道端みちばたで、見覚みぼえのある後ろ姿の女子を見つける。


「ナツキちゃん!」


 名前を呼びかけられた女子が振り返った。


「あ、ヒカル。どう、トッティを見かけた?」


 静かに首を横に振るヒカル。


「そう‥‥。んっ? ねぇ、ヒカル。その隣のいる人は誰なの?」


「えっ、ああ‥‥」


 ナツキの疑問に、魔女は「はろ~」と陽気ようき挨拶あいさつをしつつ満面まんめんの笑顔で返した。


「えっと、この人は‥‥何というのかな。一応知り合いの人で、マギナさんなんだ」


「マギナ?」


 聞き慣れぬ名前と顔立ちが整い過ぎている美人に、僅かにまゆをひそめるナツキ。

 だが魔女マギナの方は気にすることは無く、先ほどの笑顔のままでナツキに話しかけた。


「初めまして。君がナツキね。話しはヒカルから聞いているわよ。犬を探しているんですってね」


「あ、はい、そうです。あ、お姉さんも私の犬を見かけませんでした?」


「ゴメンなさい。今日はまだ犬を見かけていないわね」


「そうですか‥‥」


「それで私たちもナツキの犬を探すのを協力してあげようかと思ってね」


「本当ですか!?」


「ええ。私の気が変わらない内に、とっとと見つけましょうか」


「あ、ありがとうございます!」


「それじゃ‥‥。ねぇナツキ、この辺りは一通り探したの?」


「はい。近所は一通り」


「そう‥‥。だったら、一度ナツキの家に戻ってみましょうか」


「え、どうして?」


「犬って帰巣本能があるから、暫くしたら戻ってくるものだったりするのよ。もしかしたら家に戻っているかもしれないし、現場に何かしらの手掛かりが残っていたりするかもね」


 主導権を握る魔女マギナの言う通りにヒカルたちはナツキの家に向かうことにした。


 先行くナツキはそっと振り返り、後を付いてくる魔女を見つめる。


「キレイな人だな」


 と感想をポツリとつぶやくと、隣に居るヒカルに小さな声で話しかけた。


「ねぇヒカル。あのマギナさんとはどういう知り合いなの? 親戚? でも、名前とか見た目的にも外国人っぽいよね」


「う~ん、なんというか‥‥。知り合いだけど、あまり知らなかったりするんだよね‥‥」


「それ、どういうこと?」


 ナツキの問いにヒカルは愛想笑あいそわらいいで返した。


 彼女が本物の魔女であると話しても良いものかどうかと思い、とりあえず今は伏せて、マギナの作り話(昔、両親が外国旅行で助けて貰った)を歩きながら説明したのであった。

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