第5話

泣きながら水羊羹を食べ終わった奪衣婆がバイトリーダーさんに目を向け真顔になって「バイトが一人消えたから来週のあなたの休み無しで」。

ついさっきまでの泣き笑い顔からバイトリーダーさん驚いた顔で「何で俺が?限定水羊羹食べて天国だったのにいきなり地獄へ?まあここ地獄の入り口ですけど」。

「消えたバイト君が本日限りの水羊羹食べたらああ成ると解ってたんでしょ?だったらそれで空く穴を埋めなさい」と口角を吊り上げ牙を顕にする奪衣婆さん。


牙が私の犬歯より立派でカッコイイ。


懸衣翁さんや他の鬼達は終始無言、奪衣婆さんの扱いに慣れているみたい嵐が過ぎ去るのをジッと待っている。


そんな会話か終わりった後、顔を見合わせた皆が立ち上がる。

「蜜ちゃん貴女のお蔭で地獄では通常得られない甘味を味わえたわ。本当にありがとう。」と皆でお辞儀した。

奪衣婆さんが私に近づき着物の袂からネックレスをだす。ネックレスには小さな牙が付いていた。

それを首から抜き牙の付いた金具を取り外すと蜜の

首輪の通行証になっている古銭の右脇に取り付ける。


それを見て首を傾げた私に「これは、私の牙の乳歯よ。地獄の鬼達は真の恩人に大人に成る時に抜けた牙や角を贈るの。これは私からの蜜ちゃんへの感謝の印受け取って」と言う。

次に懸衣翁さんが首からネックレスを抜き無言頷き自分の乳歯を古銭の左脇に。


バイトリーダーさん達は小さな角がぶら下がったネックレスを買い物籠に入れてくれた。

何でもまだ若い彼らは乳歯しか無く変わりに小さな角をくれたのだとか。


首輪に何故付けなかったかと言うと奪衣婆さん達の牙の脇に付けるのは恐れ多いからだそう。


角のネックレスを入れて貰った買い物籠がカタカタと揺れ出した。

それを見た奪衣婆さんが籠に耳を当てる。何度か頷いた後に「よっしゃああああ!これで毎月美味しい物が食べられる!」と叫ぶ。


「買い物籠が言うには今回の牙や角のお礼がしたいと、これから全国各地どころか世界各地の日持ちのしない甘味や珍しいご当地グルメを黒蜜おばばが蜜ちゃんに買いに行かせる予定をしていると、今回水羊羹を買いに行く前におばばと籠が話したそうだ。

頻繁には無理だが月に一度薬材を仕入れに地獄へ来る前に珍しい美味を買って来てくれる様に黒蜜おばばに話してくれると買い物籠が言ってくれた。

これから毎月世界各地の美味を堪能出来るぞ〜!」。


それを聞いて普段ほとんど喋らない懸衣翁が「世界各地の美味万歳!蜜ちゃんありがとう買い物籠さんありがとう!」と両手を挙げて喜んでいるのを見た鬼達が「一言以の長いセリフのを喋る懸衣翁を初めて見た・・・」とビックリしている。


「蜜ちゃんこの次に買って来て貰いたい物は通信魔鏡で黒蜜おばばに伝えるからね。この後”地獄で一番甘味好きのあの方”の所へ行くんだろ?これ以上引き留めては駄目だね」と買い物籠を咥えさせてくれる。


私は籠を咥えお辞儀してから事務所ドア横の傘立て後ろの暗闇に向かいタッタッタと歩き始めた。


”あの方”って誰だろう?と思いながら。

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