さよなら
美弥と合流した大輔たちが、佐田先生とともに、釣りの
三根はいつも神経をすり減らしているような細い顔をしかめ、イライラと組んだ腕を指で叩いていた。
「お父さん……」
とつぶやいた倫子が、つい、佐田先生をかばうように前に出る。
佐田先生もまた緊張したように顔をこわばらせていた。
それを見た三根は小さくため息をもらして言った。
「何処行ってたんですか。
朝食だって、みんな
ほら、お前らも」
「え?」
「天気予報で午後から
天候が
美弥たちは空を見上げた。
うすく雲はかかっているが、いい天気だった。
ああ、と思った。
生徒たちは楽しげに外に出された木のテーブルで食事をしている。
教頭先生のこともまだ何も知らされてはいないのだ。
「わかりました――」
と佐田先生はかたい表情のまま言った。
生徒たちを混乱させないための、警察の
教頭先生が自分たちの近くで殺された
「先生、わたしたちのテーブルで食べてくださいよ」
と美弥は佐田先生に笑いかけた。
朝食は父兄とボランティアの人たちが用意してくれているようだった。
「ん? ボランティア」
と美弥は叶一をふり返る。
「叶一さん、なんか仕事した?」
叶一は一瞬つまったあとで、
「映写機の配線やったじゃない」
と言ってきた。
その言葉に、佐田先生が複雑そうな顔をする。
「それだけなのか?
俺がお前をここに呼んだのは――」
ああ、はいはい、と長くなりそうな
倫子たちに腕を引かれて、テーブルに歩いていく佐田のうしろ姿を見ながら美弥は思った。
今年の夏はもう終わったな、と。
そう、忘れていた。
夏のはじまりは、いつもわくわくするけれど、終わりが近づくと、いつも切ない。
だからきっと、今年の夏はもう終わるのだ。
美弥は佐田先生が倫子に言ったという言葉を思い出す。
『夏の冒険は楽しいけどな。
真実を知ることが、いつもいいことだとは限らないぞ』
佐田先生はどんな思いであれを言ったのだろう。
こぼれそうになる涙を美弥はこらえた。
ここで泣いたら、三根たちの
ぽん、と肩を叩いたものがいた。
大輔だった。
「行こう、美弥」
大輔が手をにぎり、佐田先生のいるテーブルまで連れていってくれる。
先生、わたしが大輔のめんどう《めんどう》見てるなんてウソだよ。
美弥は少しにじんだ涙をぬぐい、ただ、大輔の手の熱さと、笑っている佐田先生の顔だけに神経を向けようと努力した。
高くなった夏の日差しを浴びて、蝉がいっせいに鳴きはじめる。
それは森に囲まれたキャンプ場に
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