暗闇

 


 



「せまいっ」

「暗いっ」

「痛いっ」


 防空壕ぼうくうごうだと言われる横穴はうとまではいかなくとも、腰をかがめてようやく通れるくらいなのに、思いもかけず長かった。


「ちょっと叶一さん」

と美弥は小声で呼びかける。


「すぐ行き止まりじゃなかったの? これ」


「……って、聞いてたんだけどね」


 建物の地下にけているというのは嘘だ。


 ひとつ確かめたいことがあったから、ここへみんなを誘導ゆうどうした。


 だが何故なぜか、短いはずの横穴は、止まることなく先へ続き、逃げるいきおいで、一志たちはどんどん先へ行ってしまう。


「止めた方が……大輔!」


 うしろをふり返りながら、ゆっくりつづいていた大輔に呼びかける。


 一志を止めるのなら、大輔に叫ばせた方がいい。


 上下関係というのとは違うが、一志は大輔に一目置いているところがあるので、常に彼にはぜったい服従ぜったいふくじゅうだった。


「いてっ!」

という一志の声とともに、全員がぶつかる。


 瞬間的しゅんかんてきに叶一がけそびれていた懐中電灯かいちゅうでんとうけた。


 全員が息を飲む。


 突如とつじょとしてあらわれた広い空間。


 立ち上がれるくらいの高さもある。


 そして、そこに、ドアがあった。


 配膳室と同じ古い木の戸――。


 何故なぜ

 本当に、ここは校舎につづいていたの?


 でも、わたしたち、一度も曲がっていない。


 真っ直ぐ、建物とは逆方向に向かって進んで来たはずだ。


 何故、ここにこんなドアがあるのか。


 なにか違う建物につづいていたのだろうかと思ったとき、大輔が下がれ、と言った。


 ドアの前で、さすがに立ち止まっていた一志たちが、せまい中でよけけて、道をゆずる。


 そのドアを見上げた大輔は、らしくもなく迷ったようだが、大きく息を吸うと、ノブに手をかけた。


 まぶしい夕暮れの光が、一瞬、洞内どうないにあふれ、みんなの目をくらませる。




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