第4話R171-170

171号線、通称西国街道をひたすら東へ。

八丁畷交差点を右に折れ、170号線、枚方パークの観覧車が見えてきたら枚方大橋を左へ。

旧国道1号線、淀川沿い、堤防しかない景色のまっすぐな道をゆっくり流す。


片側一車線なので、ゆっくり、といっても法定速度のはずだが、走ると馬鹿なやつがあおってくるが、

今日のところは濃紺のエクストレイルが車間を十分空け、ゆっくりついて来てくれるので、

マイペースを貫ける。

普段から飛ばさないほうだが、このだだっ広い道の、ただひたすら堤防しかない

この景観が好きなので、いつも以上にゆっくり走る。

京阪樟葉駅を過ぎればもうすぐD県だ。


美沙からの要望があれば、大抵はこの道をドライブがてら美沙邸に向かう。

通いなれた道だ。

昼間におなじルートを走ったら、そこかしこが渋滞しているだろう、ぞっとする。

でも美沙からのリクエストは、神出鬼没ながらそれは、真夜中か明け方に限られるのが

せめてもの救いか。

看護師のような、平日昼間に休む仕事でなくってよかったと思う反面、

復帰すればいいのに、と思う。

そう、美沙は看護資格を持っているのだ。


わたしの職場の同僚の谷中(やなか)という男は、40を過ぎているが、わたしと同業であり、

嫁と二人の子供が居る。

こんな安月給の給料で、どうして養っていけるのか、初めて聞いたとき驚愕したのだが、

その答えは簡単だった。


谷中氏の嫁が看護師なので、その給金だけでも3人目をがんばって長期休暇でもせず、

また慎ましく暮らしていれば、十分にやっていけるのだという。

美沙が看護師に復帰してくれれば、わたしはすぐにでもこの職を辞し、美沙邸に転がり込み、

デリヘルの送迎係の仕事でも見つけ、小遣い稼ぎという、悠々自適な生活が送れるのにと夢想する。


でもそれはかなわぬ夢なのだ。

美沙は血を見ると卒倒してしまうという致命傷を抱えていた。

それだから、3ヶ月は病院に勤務したのだが、あえなく辞め、金に困り、AV出演、ピンサロ勤めまでこなした。


血を見ると卒倒するという致命傷をかかえながら、国家資格取得するまでにいたったのは理由があった。

美沙の父親は、美沙が13歳の往時に、肝硬変で死んだ。


酒は一滴も飲まなかったらしいが、背中に描かれた仁王像の紋様が原因だったようだ。

ウィルス感染だ。

彫師は、医療行為に等しい生業であるにもかかわらず、所詮裏家業であり衛生管理など徹底されるはずもなく、

わりとよくあるケースだという。


美沙が13歳の往時というから、14歳でテレクラの男に処女を捧げた1年前、

少なからず狂気じみてると見えなくもないその勇気ある14歳の決断と、その後の波乱万丈の美沙の生き様に全く影響していないとも言い切れないだろう。

しかしこの親にしてこの子供あり、親がそんなだから当然の帰結なのだと

切り捨てることもわたしにはできない。

偽善者だから。

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