第2話side A
「好いひとだっだんだけどね・・・、ピルを飲まされるのが嫌だった・・・。」
美沙は、真っ直ぐわたしのほうは見ず、わたしの左肩の後ろあたりを見つめながら弱く
つぶやくように言った。
わたしに憑いている、水子に向けて言ったのかもしれない。
「なんでピルを飲まされたの?」
わたしは無邪気を装いながら、結構本気で、そのときはどういうことなのか本当によくわからず
的外れな質問を平気な顔でする。
「・・・中出しはしたいけど、子供は要らないからって・・・。」
特に呆れた顔をするでもなく、正直に答えてくれる。
「でも・・・結婚するつもりだったんでしょ?」
真顔で応じる。本当に、美沙のそのときの気持ちを知りたいだけ、純粋な好奇心だけで無粋な質問を
つぎつぎに浴びせてしまうが、そのときのわたしはこれっぽちも、それが失礼な質問であり、
もう少し、気を遣った聞き方をするべきなのかもしれないが、そんなことはお構いなし。
「わたしはね・・・。でも無理だった。」
「ふーん・・・。」
どう切り返していいのかわからず、照れくささからつい気のない風な返事をしてしまう。
「彼、熊本のひとだったし、長男で、お母さんが亡くなってから、お父さん一人を
田舎に残しておけないからって、地元に帰って仕事するつもりで、付いてきてほしいって言われたんだ。」
「でも付いていかなかった?」
「うん、だってわたしはここを離れて暮らすなんてできないから。」
美沙の両親は、美沙が高校生のときには両親とも他界しており、姉は車で15分のおなじD県に住んでいた。
それだから、家庭の事情的なことで、D県を離れたくないと言っているのではないことをおもんばかる。
「そっか・・・美沙は子供、ほしい?」
「うーん、どうかな? 別にほしくはないけど、女性として産まれた以上は経験したほうがいいかな、
とはおもうけど。」
「でも、その彼、話を聞く限りは、かなりいい奴なんじゃないかとおもうけど・・・?」
「それは・・・ね。でも、やっぱりわたしはD県を離れて暮らすとか無理だし。」
堂々巡り。
元々、その彼というのは、熊本の人吉の出身で大学卒業後、大阪の会社へ就職していたらしい。
D県に異様なほど(故郷に愛着のないわたしから見れば、よくわからない感覚なのだ)の執着をみせる美沙だが、
九州男児のその彼とは、大阪で同棲もしていたらしい。
美沙は14歳のとき、処女を喪失したと言った。
処女である自分に嫌気が差し、テレクラで知り合った男に処女をささげたという。
「だって、いつまでも処女で居たくなかったんだもん。」
屈託のない笑顔で処女喪失の逸話を話してくれたのは、二度目に美沙と逢ったときだったか。
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