四十年後【中国】

 今から数年前の中国での話。

 ある冬の夜、残業を終えたAさんが車で帰宅する途中に奇妙な光景を目にした。

 外灯もまばらな暗い夜道を大勢の人が歩いているのだ。彼らはやけに歩みが遅い。うつむき、足を引きるようにゆっくりゆっくり歩いている。ボロボロの服から出た顔や手足は赤茶色の汚れにまみれていた。


 翌日、会社でその話をしたところ、同じものを見たという人はいなかったが、不思議な噂を耳にした。

 Aさんが彼らを目撃した付近にあるスーパーでは、食べ物が全て腐っていたというのだ。中には仕入れたばかりの新しい物もあったようだが、それら全てが一晩でぐちゃぐちゃに朽ちていた。黒く変色した食べ物の上には何故かすすけたような紙切れが置かれていたそうだ。

「そういえばその人達の服なんですけど、真冬なのにやけに薄着だったんですよね。もしかしたら……」とAさんは言う。


 Aさんが住むその場所は、一九七六年七月に犠牲者二十万人を出す大規模な地震があった。

 もしかしたら、四十年以上経った今でもなお浮かばれない死者が彷徨さまよい続けているのかもしれない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る