海の向こうの怪異録

ツカサ

山小屋の夜【アメリカ】

 今から二十年近く前のアメリカ南部での話である。

 当時小学生だったIさんはよく父親に連れられて鹿狩りに行っていた。その日も半日かけて山に行き、狩りが終わる頃には辺りはすっかり暗くなってしまった。そこで二人は狩場からほど近い山小屋に泊まることにした。

 山小屋に着いてすぐ、簡単な食事を終えると父親は早々に床に就いた。なかなか寝付けないIさんは、何をするでもなくただぼんやりとランプの灯を見つめていた。


 ふと、壁に大きな絵がかけられているのに気がついた。どうやら肖像画のようだ。奇妙なことに、それは頭から血を流し苦悶の表情を浮かべる男性の肖像画だった。他にも絵がありそうだと思ったIさんはランプを手に、壁に沿って歩いて行く。

 予想通り、ちょうど正方形の山小屋のその壁四面、すべてに絵が飾られていた。胸に大きな傷跡があるもの、顔が半分以上抉れて男女の判別がつかないもの等、どれもが悪趣味で見ていて気分が悪くなるものばかりだった。怖くなったIさんは父親の隣にもぐり込み、眠れないまま夜を明かした。


 どれくらい経っただろうか。

 明るくなった部屋の中で、すでに父親が身支度を始めているのが見える。

 Iさんは昨夜の肖像画が気になった。父親なら何か知っているかもしれない。気色の悪い絵について尋ねてみよう。

 意を決したIさんが壁に目を向けると、昨夜見たはずの絵がない。


 そこにあるのは、朝日が射し込む窓だった。

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