中央制御室への道

 やがて電太君が焦れったそうに言いました。


「太郎、ここじゃ駄目だ。こんな所にいるベータ族の働きを止めても意味がねえ。この建物全体を制御している場所を探すんだ。先へ進もうぜ」


 雷太郎君は配電盤を見回しました。ベータ族が忙しく働きかけているたくさんの端子。二人がここへ来る時に使った細い電線。そして新しいベータ族が送り込まれてきた太い電線。ここにあるのはこれだけです。


「電太君、あの太い電線はどうだろう。先へ進めるかな」


 電太君が電線をのぞき込みました。手や足を中に入れて様子を確かめています。


「力は働いていねえな。ここの仕事は今二人でやっているから、ベータ族を送り込む力もすぐには働かないはず。よし、行こうぜ、太郎」


 雷太郎君の返事を待たずに電太君が電線に入り込みました。今度の電線は太いので二人一緒に走って進めます。雷太郎君もすぐに入り込んで後を追いました。


「この先には何があるんだろう」

「知らねえよ。さっきと同じような場所ならまた新しい電線を探して進むだけさ」

「もし行き止まりだったら?」

「ならそこで暴れまくればいいのさ。余計なことは考えず走れ、太郎」


 電線の中は暗闇に包まれています。二人はその暗闇を切り裂くように走り続けました。やがて前方が明るくなってきました。外へ出ると先ほどよりも大きな配電盤です。端子の数も格段に多く、三人のベータ族が働いていました。


「さっきとあまり代わり映えしねえな。おや……」


 電太君が一人のベータ族をじっと見つめています。他の二人は複数の端子を受け持って忙しそうに動き回っているのに、そのベータ族だけは一つの端子だけに力を送っているのです。


「どうしかしたの、電太君」

「うん……いや、何でもねえ。ここも外れだな。先へ進もうぜ、太郎」


 この配電盤には十本近い電線が接続されていました。二人はその中で一番太い電線に入り込むとまた走り始めました。先ほどと同じく二人は暗闇の中を駆けていきます。と、


「それにしても、水ポンプか……」


 電太君にしては珍しい独り言です。雷太郎君も訊き返さずにはいられません」


「水ポンプ? 何なの、それ?」

「ん、いや、なんでもねえ。気にしないでくれ」


 電太君はそのまま口を閉ざしてしまいましたが、何かを考えている様子です。雷太郎君もそれ以上は訊きませんでした。

 二人は黙って電線の中を走り続けました。やがて、前の方が明るくなってきました。


「おっ、見えてきたぜ。そろそろ当たりじゃねえかな」


 見えてきた光はこれまでよりも明るく電線の中を照らしています。雷太郎君は胸がどきどきしてきました。


「うおっ!」

「わわ!」


 それは突然でした。二人の行く手を阻もうとするかのように、大きな力が前方から圧し掛かってきたのです。二人は力に押されてその場に立ち止まりました。


「な、何が起こったの!」

「ちっ、外部電流遮断装置か。こんな罠を仕掛けているところを見ると、どうやらこの先にオレたちの目的地があるようだぜ」

「電太君、これじゃ前に進めないよ」


 二人に加わる力はどんどん強くなっていきます。このままではここに踏み留まることすらできなくなりそうです。


「思ったよりシステムがしっかりしているな。太郎、仕方ねえ、雷の道を使おう。出口はもう見えているんだ。かなりの力が必要だが、ここまで来て引き返せるか」

「分かったよ、電太君」


 二人は互いに肩を組み合い、しっかり踏ん張ると、全身に力を込めました。体が光を放ち、波が集まり始めます。二人を押し戻そうとする力に対抗して前に進むには、かなり強力な道を作らねば不可能です。二人の放つ光はどんどん強くなっていきました。電太君が電線の出口をしっかと睨みつけます。


「よし、行くぜ、太郎」

「うん」


 二人は集まってきた波を思いきり前方に投げつけると、その波に乗って突進しました。電線の中にあふれる力が二人を後方へ押し返そうとします。二人は歯を食いしばって前へ進みました。出口はどんどん近づいてきます。と、電太君が遅れ始めました。


「電太君!」


 雷太郎君は横を見ました。電太君の顔は苦しそうです。体の光も消えかかっています。しかし出口まであとわずかです。雷太郎君は叫びました。


「電太君、あと少しだよ、頑張って!」

「すまねえ、太郎。オレはもう限界だ。おまえだけ行ってくれ」


 電太君はあえぎながら言いました。雷太郎君は電太君の体を右腕で抱きかかえると大声を出しました。


「でえええーい!」


 雷太郎君の体が激しく輝きました。同時に二人の速度が上がりました。空を飛ぶ鳥のように電線の中を突き進むと、二人は一気に電線の出口に転がり出ました。


「いてて……」


 電太君が頭を押さえています。出口から出た拍子に打ったようです。雷太郎君はすぐには立ち上がれませんでした。体は疲れて重く、息は切れて呼吸が乱れています。先ほどの雷の道でかなりの力を使ってしまったようです。

 雷太郎君は床に寝転んだまま、今、自分がいる場所を見回しました。これまで見たこともないほどに巨大な空間でした。

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