第9話 告白は観覧車で

俺はずっと勘違いをしていた。

俺は自分の能力を『時間を戻す力』と言いながら、その実『時間を戻る力』だと思っていた。


俺が時間を戻って行く力だと思っていたんだ。


でも、違った。

よくよく考えたらおかしいんだ。

時間を戻ったのに、怪我は治らないし、服も戻らない。


だったらこの力はなんだ?

そう思った時、答えは簡単に出た。


この力は文字どおり、『時間を戻す力』なんだ。

自分以外のすべての時間を戻す力。


俺は時間を戻っていたんじゃなくて、俺以外の時間を戻していたんだ。


だから彼女は戻らなかった。

俺が身につけてるものの時間も戻らないなら、俺の心臓を身につけていた彼女も、戻らないんだろう。


そう考えたら、全ての線が繋がった。

俺の力は時間を戻す力だった。


そうして次に考えたのが、「ものの時間を個別に戻せないか?」だ。


干しみかんを手にとって、それだけを戻すように手に力を込めた。


あんまり驚きはなかった。

きっとどこかで、なんとなくできるって信じてたんだ。


俺の手には普通のみかんが握られていた。


希望がみえた。

そう思ったよ。

一筋の光。

真っ暗な暗闇に差し込んだ光。


そうして俺は彼女の心臓の時間を戻した。

彼女の心臓が病に蝕まれる、その前まで。


もちろん俺と出会った時の彼女には、二度と会えないことはわかっていた。

あの時の彼女は、もうなかったことになってしまったわけだから。


でも俺はそれで良かった。

彼女が生きてさえいてくれれば、それで良かったんだ。


だから彼女に会うことは諦めていた。

でも、そんなある日気づいてしまった。


あの時の彼女は、なかったことになったわけじゃないんじゃないかって。

彼女が残していった、干しみかんとCDが証明したんだ。


彼女が時間を戻したことで、起きたことはなかったことになってなかった。


そもそも彼女が時間を戻さなければ、俺は死んでいるはずだった。

でも彼女が時間を戻したから、彼女は死んだ。

彼女が死んだら、彼女が時間を戻すことはない。


パラドックス。

それがどっちに転ぶかはわからなかったけど、なんとなく確信できた。


彼女の意識は消えたんじゃなくて、一年後に戻っただけだって。


そう思ったらもう諦めるなんてできなかった。


一パーセントでもいいから、また彼女に会えるなら、会いたい。そう思った。



「そうしてまた、君に会えた」

それがどれだけ嬉しかったか。

そんなの言うまでもない。

今日、また彼女に会えたことは、紛れもない奇跡だ。


俺の長い話を、彼女は静かに聞いてくれていた。前にもこんなことがあったなと、なんだか懐かしい。


「たぶん、私はいろんなこと言わなきゃいけないと思うんです。あなたに、謝らなきゃいけないし、お礼を言わなきゃいけないし…… それにたくさん言いたいこともあるんです。でも……やっぱり一番言いたいのは、これなんです」


なんだか暑い。

夏だからだろうか。

多分それだけじゃない。


「大好きです」


その言葉に彼女がまたいなくなってしまうんではないかと、少し不安になる。


だけどそんな不安は杞憂だった。

彼女はしっかりそこにいる。

そこで生きている。


なんて素晴らしいんだろう。

彼女がいるこの世界は、とても色鮮やかに見えた。


「俺も……」と口からこぼれる。


彼女が、彼女がいるこの世界が、


「大好きだ」

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