第3話 囚われの姫を助け出せ

つまらない。

この世界は本当につまらない。

毎日毎日決められたように生きている。

死んだように毎日毎日生きている。


『生きてる』とはなんなんだろうか?

心臓が動いてること? 脳が思考してること?

もし生きてることが、活力に溢れていることだとしたら、きっと俺は死んでいる。


夢も目標もなにも持ち合わせないで、ただ呼吸をしてるだけ、そんなの死んでることとなんら変わりない。


俺はなんのために生きてるんだろうか?

たった一人の女の子の望みすら叶えられない、こんな窮屈な世界で、俺はなんのために……


俺の進路調査書はまだ白紙だ。


遊園地を出て家に帰っても、ずっと彼女のことが頭を離れてくれなかった。


彼女の笑顔が、しぐさが、声が、そして最後の少し悲しそうな顔がこびりついて離れない。


どうして世界はこんなにつまらないんだ。

どうして世界は彼女に優しくないんだ。

つまらない。

窮屈な世界がつまらない。

理不尽な世界がつまらない。

なにもできない俺がつまらない。


なにもできないでずっとうじうじしてる俺が一番つまらない。


だったら俺はどうすればいい?

そんなことわかるはずがなかった。


わかるはずがないけど、それでも俺は部屋を飛び出して、走った。

わからないからひたすら走った。


頭の中にあるのは彼女のことだけ。

彼女のことだけ、それだけ考えてただ走る。

それがなんだか心地よい。


それがきっと俺の答えだから、

だからこれはきっと俺なりの、

つまらない世界への反撃だ。



深夜の病院は入り口の扉も厳重にしまっていて、本当に監獄みたいだった。

さあ、これから囚われの姫を助け出そう。

息を吸って、手にしたバットを振りかざす。


ガラスの割れる音と同時に、警報ベルの音が鳴り響いた。

けたたましく鳴るベルの中、俺は八階まで走った。


途中誰かに遭遇したら、時間を戻す。

ただ、それだけで俺は無敵だ。

ゲームで言うなら、チート。

上等だ、姫を助けるためならチートだっていいだろ?


腕からは血が流れていた。どうやらドアを割ったときガラスが刺さったらしい。

時間を戻したのに傷が治らないなんて、何故だかわからないが、本当に不便な能力だ。

昔からそう、俺はずっとこの不便な力と生きてきた。

それでも、今はこの不便さのおかげで、俺は前に進みながら時間を戻ることができる。


時間の違和感に気付けるのは、俺と……彼女だけ。

今だけはこの力に感謝をしよう。


807号室、番号をしっかり確認して檻の扉を開ける。


檻のなかで彼女は、不安そうに布団に潜っていた。


「行こう」

目を丸くしてこちらを見る彼女に声をかける。

「……行こうって……どこに」

「北海道」


「何言ってるんですか。無理ですよ、そんなの」

「無理じゃない」

「そもそも時間だってもう間に合わないし」

「俺なら戻せる」

そう言って手に力を込める。


「ほら、戻せた」

俺が病院に飛び込む前まで時間を戻すと、警報ベルの音は鳴り止んだ。


「そんなのずるいですよ。行きたくなっちゃう。まだ、間に合うかもって……思っちゃう」

「間に合うよ」

「本当にいいんですか?」

「ああ、だから行こう」


「あり……がとうございます」と泣き笑う彼女はやっぱり綺麗だった。


囚われの姫を助け出せ。

クエストクリアだ。

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