おれと賢者のヒミツ捜査

多田七究

第一話 五人目の賢者

魔道まどうセキュリティに侵入者!」

「ふん。程知ほどしらずが」

「多数の攻撃が同時に展開。対処が追いつきません!」

馬鹿ばかな。賢者二人けんじゃふたり防壁ぼうへきだぞ」

 満月の光に照らされた、石造りの城。

 周りをおおっていた球状の結界けっかい可視化かしかする。あちこちがほころんだ光の花びらは、砕けて舞い散った。

 城に、巨大な黒い鳥が迫る。そのモンスターは城の中庭を目指して飛行。

 地上から発射された光を受け、上空で爆発した。

「なんとかしのげたようだな」

 爆発の中から何かが落下していた。花びらと共に舞い降りる何かに、中庭の賢者二人けんじゃふたり魔法まほうを放つ。

 攻撃をものともせず、白いローブの人物が、悠々と着地する。

 短い詠唱えいしょうから発射された光は、届く前に無効化むこうかされていた。

 別方向から、光のヒモが二本伸びていく。気付いた賢者二人けんじゃふたりも同じようにヒモを伸ばす。

「客人として二名の賢者けんじゃおとずれていることを、ぞくは知らなかったのか」

「さすがに賢者四人けんじゃよにん……いえ、何も言わないでおきます」

 警備員は安堵した。白いローブの人物は捕らえられ、賢者四人分けんじゃよにんぶん結界けっかいで封じられることとなる。




 夏。暑い。

 おれは城の北側にある塔を目指していた。

 よろいを着ているやつとすれ違う。正気とは思えない。

 普段着でもつらいぞ。腰に下げている、けんの練習用の棒すらうっとうしい。

「開けてくれ」

「了解です」

 魔力認証式まりょくにんしょうしきの扉が開いた。面倒な仕掛けだ。魔力まりょくのないおれは、誰かに開けてもらうしかない。

鎧脱よろいぬげ。水分をりながら身体からだきたえたほうがいい」

「いえ。申し訳ないのですが、決まりなので」

 鎧姿よろいすがたの相手と比べても、体格差は一目瞭然いちもくりょうぜんきたかたが足りんぞ。

 王国一の騎士であるおれの言うことが聞けないのか、とは言わない。

 魔力まりょくのあるやつとはトラブルを起こさないほうがいい。

 そして、ほとんどの人が魔力まりょくを持っている。つまりそういうことだ。

 けんでは誰にも負けないというのに。


 塔の中は螺旋階段らせんかいだんだった。

 城も、塔も、一つの岩を魔法まほうでくりぬいて作ったらしい。ご苦労なことだ。

 旧時代の失われたなんとか技法を再現して……詳しいことは忘れた。

 劣化対策れっかたいさく魔法まほうによるコーティングがどうとか、よくやるぜ、全く。

「間違えたか?」

 罪人ざいにんから話を聞き出せと言われていたおれは、空中庭園くうちゅうていえんを見ていた。

 階段を登り切った先が緑であふれている。

 柱が天井を支えていて、壁でおおわれていないため外がよく見える。

 さくの中に座っているのは、おれより歳がすこし下に見える少女。無表情。

 白い服で、髪の量が多い。うらやましい。

「知らなかったな。こんなところに――」

 話しかけ、近付こうとすると少女が消えた。

 小柄な身体からだがおれの動きを止める。柔らかい感触に驚き、反射的に後ろへ下がった。

 一瞬で移動したのか。なんのために?

「不用意に近づかないで。賢者四人分けんじゃよにんぶん結界けっかいよ」

 言われてみれば、それっぽい光が見える。魔力まりょくのないおれには結界の強弱が分からない。

 助けてくれたのか。

「ありがとう。助けてくれて」

 おれは、いつの間にか笑顔になっていた。

 ずっと暗かった少女の目に、すこしだけ光が宿ったような気がした。


「何を聞きたいの?」

 白い服の少女がたずねた。

 肩まである髪はまとまっていない。外見につかっていないらしい。

 短髪のおれも似たようなものだ。

 二人は立って向かい合っている。はたから見ると体格差に驚くに違いない。

 とはいえ、ここは塔の頂上付近。

 高い場所から周りを見渡せるが、ここを見ている人はいないだろう。

 まずは名前、いや、自分から名乗るべきか。それも違うな。

じつは、罪人ざいにんから話を聞けって言われたけど、場所を間違えたみたいで」

「間違えていないわ」

「そんなこと言っても、おれには分かる。君は五人目ごにんめ賢者けんじゃだろ?」

 少女の表情が、すこしだけ変わった。間違いないな。

「あなた、事件の資料に目を通したの?」

「見た。いや、全部は覚えてない」

 大きく息を吐き出す音が聞こえた。暑いから仕方ないな。

「E」

「イー?」

「名前よ。あると便利でしょう」

「あだ名か。それならおれは、モーだな」

 何か言いたそうなイーは何も言わず、少しだけ表情をゆるめた。

 それは、これまで受けたどんな魔法まほうよりも強力だった。


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